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かなわぬ願い

短い物語の読み上げです

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      • 窓ガラス

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        • 映画監督

           彼は恋愛映画を撮り、世界的な映画祭でグランプリを獲得した映画監督だった。  彼は次に撮る作品は自分自身の一生をテーマにすることに決めた。自分自身の一生を映画にするなら、上映時間30秒で収まる映画を創れると思った。その自信はあった。彼はそれを証明するために自伝映画を撮り始めた。  撮影は時間の経過に沿って、過去から現在の順に進められていった。  鏡に映った自分と3時間じゃんけんをしていた5才のシーン  コーチとのいざこざでサッカーを辞めた9才のシーン  成績が悪くて高校

        かなわぬ願い

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          10本

        記事

          窓ガラス

           太郎の自宅と学校の間にある、とある家の、とある窓ガラスは太郎が何かを感じると太郎と全く同じことを感じていた。太郎がチョコレートを食べて甘さを感じるとその窓ガラスも全く同じ甘さを感じて、太郎が夜更かしをして眠くなると、その窓ガラスも全く同じく眠くなった。太郎はそのことを知らなかった。  太郎は好きな娘ができた。それにより窓ガラスも好きな娘ができた。太郎はときめき、窓ガラスもときめいた。太郎はその娘に告白するために勇気を出して、窓ガラスも勇気を出した。太郎はその娘と付き合うこ

          窓ガラス

          噴水

           公園には新しい噴水と古い噴水があった。どちらの噴水も水をたくさん噴き出していた。それを見ていた少女は思った。 「噴水は頑張って水を噴き出しているのだから、水を噴き出しているとき喜びを感じるようになればいいのに」  そんな少女の思いが通じたのか、新しい噴水は水を噴き出しているとき喜びを感じるようになった。水を噴き出している十時から二十時までの間ずっと喜びを感じるようになった。そして二十時になって水が止まると何も感じなくなった。  少女はそのことを知らなかった。  一方、古い噴

          迷子

           少女は迷子になった。知らない街で母とはぐれてしまった。少女は近くにあった街灯の明かりを目印に、付近を一回りしてみた。けれども母を見つけられなかった。街灯からあまり遠ざかるとさらに母から離れてしまうかもしれないと思い、少女はまた付近を一回りしてみた。けれども母を見つけられなかった。少女は自分が今どこにいるのか分からず怖くなった。  少女が住んでいる星も迷子になっていた。本来いるべき場所とはぜんぜん違うところにきていた。その星は辺りで一番明るい太陽という星を目印に、付近を一回

          計算

           Aはある超越者に言われた。 「あなたを今の倍、幸せにしてあげよう。そのかわり、あなた以外の人間を全員、そのあなたの倍の幸せよりも、さらに倍、幸せにするけれども。それでもいいならあなたを今の倍、幸せにしてあげよう」  Aはその条件を受け入れて、今の倍、幸せになった。  Aはある超越者に言われた。 「あなたを今の倍、不幸せにしてあげよう。そのかわり、あなた以外の人間を全員、そのあなたの倍の不幸せよりも、さらに倍、不幸せにするけれども。それでもいいならあなたを今の倍、不幸

          最高の幸せ

           少年はいつでも自由に幸せを感じたかった。でもそれができないからとりあえず学校に行った。博士はいつでも自由に幸せを感じたかった。でもそれができないからとりあえずロボットを開発した。歌手はいつでも自由に幸せを感じたかった。でもそれができないからとりあえず歌を歌った。医者はいつでも自由に幸せを感じたかった。でもそれができないからとりあえず患者を治した。サッカー選手はいつでも自由に幸せを感じたかった。でもそれができないからワールドカップで得点を決めた。王はいつでも自由に幸せを感じた

          最高の幸せ

          数ある

           男は真っ白い紙に何らかの線を引いた。数ある選択肢の中から何らかの線を引いた。さらに数ある選択肢の中から何らかの線を引いた。さらに数ある選択肢の中から何らかの線を引いた。  繰り返していると絵ができた。数ある選択肢の中から何らかの線の組み合わせを選んだら、素晴らしい絵ができた。今まで誰も見たことがないほどの素晴らしい絵ができた。男はその絵は人類史上最高の絵だと思った。その絵をコンクールに出そうか、売ろうか、飾ろうか、プレゼントしようか迷った。 「私は数ある選択肢の中から何

          未完成

           ある者は大きな紙に絵を描いていた。空を描いて、大地を描いて、光を描いた。闇を描いて、海を描いて、草木を描いた。魚を描いて、鳥を描いて、太陽を描いた。星を描いて、銀河系を描いて、宇宙を描いた。 「ここから先は何を描こう? ぜんぜん思いつかない」  その者は絵がまだまだ出来上がっていないことを知っていた。 「他のみんなはもっともっとその先を描いているだろう。でも提出日は明日だ。仕方ないけれども未完成のまま提出しよう」  その者は絵の世界に時間を与えた。そして未完成のまま