見出し画像

賃金カットはどこまで行っていいのか

今回は、賃金カットの基本的な内容に触れておきたいと思います。 

1 賃金カットは賃金控除のことではない

企業では賃金カット、いわゆる「給料の一部を支払わない行為」を行うことがあります。賃金の支払い主が企業であることから、従業員の合意を得ずに行うことが多くあります。ただ、労働問題も頻出しているのも事実です。

では、企業が賃金の一部を不支給とする行為は、どのような場合に、どの程度なら行えるのでしょうか?わかっているようで、その時の感情や思い付きなど亜流我流で実施してしまっているケースが散見されます。

この賃金カットですが、基本給からはじまり、総支給までの項目までが支給メニューとしまして、その支給項目のいずれかの該当項目の一部または全部を支給しないことを意味します。

総支給から下の給与控除で控除するメニュー項目とは区別されますので、この点を整理して理解しておきましょう。


2 そもそも賃金って何か?

 労務で登場する言葉には一つ一つ意味があります。言葉の意味を知っておくだけで行動が変わることがあります。「賃金」もそうです。

賃金とは、従業員が働いた、つまり、企業に労務を提供した対価です。


3 労務を提供したかはどうやって測定する?

 日本の法律では、従業員が労務を提供したかどうかは、企業や経営者の主観で決めていいのではありません。経営者の頭の中では、業績を上げたか否かで賃金を支払いたいとの声は当たり前のように飛び交っています。

 しかし、残念ながら、業績を上げたかどうかは、労務を提供したかの基準ではないのです。労務を提供したか否かは働いた時間で決めます。このルールに納得いかない経営者はたくさんいらっしゃるかと思います。会社にとっては業績が重要だからです。

極端な話をしますと、営業マンやタクシーの運転手が8時間働いたのだけれど、その日の売り上げが0円だったとします。それでも、企業は、8時間という労務を提供した時間分の賃金を支払う必要があります。従業員がさぼっていないのであれば・・・。

4 何を賃金カットできる?

“賃金が労務提供の対価”ということがわかると、じゃ、労務提供していない場合には、支払わなくていいという結論が見えてくると思います。

この発想は、そう難しくありませんので、自然に理解できるかと思います。前回、労働契約の話を少しさせてていただきましたが、その労働契約上、従業員には誠実に労務を提供することが義務とされているのです。

労働法の世界では、「職務専念義務」と言われますが、ざっくり言えば、勤務時間中はサボってはいけないというものです。ただし、上長の許可がある場合は除きますが・・・。

5 具体的にカットできるのは何、いくら?

3のカットできる賃金としての典型は、所定労働時間働いあていない時間の分です。
・遅刻した時間分の賃金
・早退した時間分の賃金
・勤務中に息抜きしたあるいはさぼった時間分の賃金
などになります。

たとえば、ある月の遅刻が37分だったという場合には、37分をカット=不支給にできます。正確には、37分分までは不支給としても合法なのです。

労務不提供分の賃金カットに従業員の合意は必要ありません。合法的にできます。

実際は37分の労務不提供があった場合でも、企業が35分、あるいは30分までをカットとすることは任意で、それは企業の裁量の問題です。

ただ、実際の労務不提供分を超えるなど、多くカットすることができないためきっちりと賃金を算出しなければいけません。この点は、賃金の計算の話をする機会にお話ししたいと思います。

こうしてみると、所定労働時間を決めておくこと、どのように決めるかは非常に重要になることが少し見えるかと思います。

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?