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CCUS導入で評価と年収どう決まるの?

2020年7月1日追記)

2020年6月15日追記)

2020年6月7日追記)

建設キャリアアップシステム(CCUS)の詳細については、何度か記事にしてきましたので改めての説明は省きます。

今回のテーマは「評価と年収」について。

今年度から本格運用フェーズになりましたので、今更トムロがどう発信したところで加入強制・利用の流れは止まりません。

ハードとしてこれだけの仕組みを構築したことは、素直に凄いことだと思いますし、国土交通省のみならず、厚生労働省、財務省、外務省各本省、年金機構が連携してこれからの建設業界を維持していくことは、並々ならぬ危機感を持って挑んでいく意思の表れであると大変評価しています。

ただし、

そもそも登録運用に掛かる費用や手間については、公共工事だけで無く、民間工事の受注も含めて、永遠に会社が負担しなければならないという不条理感があること、あらゆる個人情報を一元管理するので、やろうと思えば個人の資産まで確認でき得るので、将来のマイナンバー本格利用の社会実験を建設業でやろうとしていること、

そして何よりこの時点において、ソフト面で一番重要な個人の評価方法、それに紐づく年収について明確な基準が示されていないということ。

確かに、国は関与するところではないという立場で良いですから、建設業各社の裁量に任せる、としていることにより各社が、場合によっては各人がそれを成し遂げることができるのかに疑問を感じざるを得ません。

以上の事実と疑念は、2019年度末の登録目標が100万人であったのに対し、結果は22万人であったことと無関係ではないでしょう。モデル工事以外ではさっぱりメリットが感じられませんからね。

最も気になる年収に関しては、再来月2020年6月中に職種別の各団体が目標額を公表することになっています。

4月現在、全建さんがこんなパンフレットをつくっています。

2018年調査全職種 常用・手元 423万円、一人親方 426万円      目標年収額    20歳代 450万円、40歳代 600万円         となっています。日建連による2018年調査の平均年齢がわからないので、正確な比較はできませんが、全建は少なくとも日建連調査結果より高い年収を目標にしているはずです。

非正規雇用だらけの現状で、正社員、一人親方ならばそれ以上の年収を得ることは当然ですし、職人やマイスターと呼ばれるならなおさらです。後で触れますが、そのためのキャリアアップカードなのです。

しかし、ここで懸念されるのは、先も触れたように各社の賃金水準について国が関与することはないということと、目標とした年収に個別の企業の体力や、一人親方が元請に然るべき額を要求・受給できるのかという問題です。

皆さんもよく目にしたことがあると思いますが、よく企業別年収ランキングといった情報がビジネス雑誌として掲載されます。同じ業種でも年収には違いがあります。何故ならそれらの数字は、同じ基準で比較できないものだからです。

例えば、注書きを見ると平均年齢が全く異なったり、基本給のみだったり、年収以外の福利厚生が手厚かったりするので正しい比較はできないのです。なのでトムロはその手のデータを全く信用していません。

このように、業団体の目標が示されたところで、すぐに平等な賃上げがなされる保証はありません。そこでにわかに注目されるのが、経験年数と保有資格から導かれるキャリアアップカードの色なのです。登録機関技能者制度とも連動しており、その方は自動的に4級となります。年収決定の基準を決める仕組みが複雑になりすぎています。

国土交通省の資料を見てみましょう。

ここで永遠に解決しない問題を提起しましょう。

努力や呑み込みの早さは誰がどのように評価するのでしょう?もちろん公平でなければなりませんし、いくら賃上げされるのがふさわしいのでしょう?経験年数、保有資格、職長、登録機関技能者以外に数値や具体的な指標が無いことです。

マネジメント能力、コミュニケーション能力、やる気、出来栄えとありますが、「各企業において独自に判断」「経験やスキルをより適切に反映した給与」「現場での働きぶりが優秀な者」を見える化し、各専門工事業団体で具体的かつ共通の評価基準を定めろ、とのことです。

見える化って言葉がお役所で流行っていますが、トムロはこの言葉が大嫌いです。じゃ今までそこどうして来たん?てなります。視覚化など出来っこない内容です。年功制の日本では、未だに出来ていない企業が山ほどあります。一方、IT企業などは年俸制や出来高制が多いので、職人という一定技術者の査定に合っていると思います。つまり国土交通省のこの資料は、そもそもがおかしいのです。

求人誌などを見ると、よくある「経験が無くても大丈夫」「やる気が収入と直結」といった抽象的な言葉を前面に押し出した企業は、たいていブラック企業です。それを解決する手段として最も有効なのが労働組合を組織することです。

現在、労働組合の組織率は全国で僅か17%程度です。労働組合をつくることは労働者側の権利であり、自分たちの年収向上や労働環境改善を求める権利もあります。どうせ労働組合なんて、、、という雰囲気が感じられますが、近年で言いますと、一方的な賃下げによりUberEats労組が組織されました。業団体の組合や連合、弁護士からもアドバイスを受けることができます。労働組合をつくることも評価基準や年収を具体的にする手段です。

今回の建設業界の変革により、今までより給料が減ってしまった、無理やり解雇された、などの経営側の一方的な変更がある程度予想されます。少なくとも日建連や建設業協会、労働基準監督署などより身近な組織に相談するなどの行動が必要です。

職人の定義、評価、年収について、世界でも有名なドイツのマイスター制度について少し触れ、比較してみます。

中世の手工業者の同業組合(ギルド)が原点といわれています。何百もの職種毎にカリキュラムがあり、それら教育制度こそがマイスター制度であると言われます。 見習い⇒ 職人⇒ マイスターと、幾つかのクラスを経て 経験年数と試験 実技と筆記 「技術力」「開発力」はもちろんさらに「教育学」研修生を育成する方法、「経営学」では簿記 原価計算事業計画 を修め、試験に合格し初めてマイスターの称号が得られます。マイスターは教育者であり経営者でもあるべしと言われ、大変尊敬される存在です。故にマイスターを得るまで店を出すことは許されていません。 お金も時間もかかります。 社会保障の違いはあるでしょうが、給料はかなり安いようです。

ここが日本の匠や職人と言われる人との最も大きな違いになるかもしれません。 日建連の言う平均450~600万円の年収など、余程の成功者でなければあり得無い様です。言い換えれば、日本の職人の方がそこに至るまでの難易度は比較的高くなく、今後の年収の増加があればマイスター制度より恵まれていると言えるかもしれません。ドイツ人も十分そうですが、日本人の勤勉さを表すチャンスとも言えるでしょう。ただし、そこで満足しないよう継続的な研鑽は必要だと思います。

2020/4/1より同一労働同一賃金制度が施行されました 職人の場合、この点においては土木建設業では、むしろ先取りしてきたと言えるでしょう。年齢ではなく技術が物をいう世界ですから、30歳でも50歳でも職人として同じ技と資格を持っていれば年収は同じですので、これについては問題は無さそうです。

これらを踏まえて、国土交通省 労働資材対策室(公共事業労務費調査も所管)の2名のインタビューをご覧ください。 

まあ、大ナタを振るう訳ですから、現状からすると突っ込みどころ満載ですが、障壁を乗り越えてあるべき構造になったときには頑張った分だけ収入につながるとは言えそうです。10代のかたでも職人魂を燃やしている人は意外と多くいます。同じ色のカードを持っていれば同じ職では年収が変わらない。そして、点数を稼げば下請から元請になる道も開けるかもしれません。

ただし、引き換えになるものもいろいろありますね。社会保険の加入は会社と折半で無ければ相当な額の負担です。そのうえ決められた資格者が一定以上いないと、入札に参加もできません。日給月給が働きやすい人の対応はどうするか。資格取得の費用は誰が払うのか。給料を上げることが前提です。

もし加算対象の職員なり職人が離職された場合、求人して早めに補わなければなりません。下請がある場合、会社経費も含んだ請負額を払わなければなりませんし、同一労働同一賃金ですから下請けの職人の単価も目標額に近づけるよう支払わなければいけません。

もともと非常に高い能力基準をクリアして入国を許可された特定技能外国人労働者には、日本人以上の基本給や手当がつくこともあるでしょうし、昇進も早いでしょう。

離職に関していうと、優秀な技能者の引き抜きの懸念が拭えません。さらにインタビューの内容から

今後の設計労務単価の調査:公共事業労務費調査がステージ(キャリアアップカード色)毎になる可能性が大いにあります。

本省労対室長が言うのですからほぼ間違いないでしょう。公共事業労務費調査にとって、これは一大事です。調査票や調査方法自体が大幅に変更されることも考えられます。

もう1点、下請け賃金の確認対象工事の設定に言及しています。これは朗報と言っていいと思います。CCUSのAPI認定ソフト企業は大変多く、IT業界にお金が落ちるのも良点でしょう。

評価と年収という難しい問題を抱えながらも、大きなうねりは動き出してしまいました。多くの技能者が一人親方でいることが難しくなり、総サラリーマン化することが予想されます。年収が上がっても比例して社会保障費も多くなります。CCUS維持の費用など、会社か個人の違いはあれど資格維持の費用も今より確実に増えます。

トムロは双方メリットばかりだとは思っていません。群れたくないからこそ職人を選択した人も多いでしょう。それは不利になることが多い世界となりそうです。じわじわと変化が侵食してきますが、年収が増えるまでに変化に慣れるしかなさそうです。

最後に、6月に発表される評価の具体性に大いに注目しています。年収とともに画期的で、納得のいくものでない限り、今までと何も変わらないため、職人さんも私も簡単に認めるわけにはいきません。有限期間で解決できるのか注目です。

7月1日追記

見逃していたことがありました。今年の3末までに35職種において、キャリアアップカードに紐付いた判定基準が出来ていました。実に客観的な点数の積み上げによって決まります。
専用のレベル判定HPもできています。適性や人と為などの湿っぽい要素は一切排除されていますのでご注意ください。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_fr2_000040.html

申請費用とカード発行手数料が必要です。
今日時点で3,000人程発行済のようです。

あとは、年収が伴えば良いところまで仕組みは出来ていました。

6月15日追記

しれっと、識者を交えたワーキンググループ会議方式に変更され、予想どおり決定は今年度内までに延びました。日刊建設工業新聞

https://www.decn.co.jp/?p=114357

決定が難しいとはいえ、ダラダラやっても意味がないのですが。設定額の考え方欄を見ても工種間でバラバラです。統一されているのが望ましいと思います。

年収が上がることは大変良いことです。総額年収目標を決めたら、年に何度も労務費調査し実態把握すれば良いのです。国も根拠が必要ですから、繰り返していけば目標値に近づくでしょう。年収が、年齢と能力、会社規模に寄らなくなるのが理想です。CCUS構想の中でうまく収めるには各社の資本的体力も必要ですね。

6月7日追記

積算時点では、受託者以外に下請けを何社使うかは当然ながら考慮しません。共通認識は職種と歩掛と工期だけです。

そうは言っても、建設業界全体を考えると、受託額がすべての請負社にキチンと分配されているかは、品確法や担い手確保の観点からも気にすべき所です。

元下間で、それぞれの契約が積算と同じ考えで見積書が作成されていれば、直接労務費や必要経費も均等に行き渡ると考えられます。

CCUSおよび年収の観点から国土交通省の現行の取り組みを、経理プラスの解り易い記事で紹介します。

ありがとうございます