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おやじパンクス、恋をする。#149

「うーん、どうかな。よくわからないけど、徐々にかな。急に変わったって言うより、やっぱり、少しずつ私たちに心を開いていったんだと思う。まあ、開きすぎて、随分と甘えん坊に育ってしまったけれど、それでも昔に比べれば、ずっと人間らしくなったよ」

「人間らしく、ねえ」

 俺はタバコに火をつけて、ベンチの背もたれに体を預け、スッキリと晴れた空に煙を吐き出す。

 俺はあいつを初めて見た時、つまり、あのレストランから覗いた彼女の部屋の中で、あいつが彼女に襲いかかった場面を思い出していた。

 あの時の彼女の反応、本気で抗っているようにはどこか見えなかったその理由が、何となく理解できた。そして、カッとなって部屋に押しかけた俺に、彼女がかけた言葉。

 キミはなんていうか、あたしというより、この子を救ったんだ――

 なるほどな。あの時は、「パパの女に手を出した」的な意味だと理解していたし、実際出来事としてはその通りなんだろうが、実際にはもう少し複雑な事情があっての言葉だったってわけだ。

 ほっこりした気分を感じたのも一瞬、なぜか俺はもうこの話を終えたくて、言った。

「まあでも、いろんなことがこれでうまくいったんじゃねえか。あいつも、嵯峨野の下で真面目に働けば、それなりの男になるだろうしさ。キミの心配事もこれで解決ってことだろ」

 彼女の言葉の節々から感じる、雄大に対する愛情に対して、ジェラってたのかもしれねえ。

 けど、実際のとこ、問題は解決したんだ。

 雄大に対する彼女の心配は、解消された。

 もちろん、梶さんが死んじまったとき、雄大がショックを受けるのは間違いないだろうが、そもそも梶さんの病気を治す力なんて俺にはねえわけで、どうしようもねえじゃねえか。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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