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第2話『ギンガムチェックの神様』 【18】/これからの採用が学べる小説『HR』

この小説について
広告業界のHR畑(求人事業)で勤務する若き営業マン村本。自分を「やり手」と信じて疑わない彼の葛藤と成長を描く連載小説です。突然言い渡される異動辞令、その行き先「HR特別室」で彼を迎えたのは、個性的過ぎるメンバーたちだった。彼はここで一体何に気付き、何を学ぶのか……。
*目次*はコチラ

第2話【18】

名称未設定-2

「最後、見たかい?」

「……え?」

「そこ……ほら、採用フローのところに、社長の言葉がある」

言われて再び原稿に視線を落とした。確かに原稿最下部、普通なら「応募→面接→内定」という事務的な内容しか書かれていない採用フローの項目に、びっしりと言葉が書かれてある。

<社長業に専念するあまり現場にほとんど立たなくなっていた私を、茂木という素晴らしい人材がずっと支えていてくれていたのだとわかり、あらためて採用というものの重要性を痛感いたしました。今後は初心に戻り、バーガーに対する情熱をベースにした採用活動を行うつもりです。まずは私が、そして茂木の本気で作ったバーガーを食べに来てください。それからじっくりお互いの考えを話し合いましょう>

「……どう思うかね、その原稿」

宇田川室長はそう言って、奥のデスクーー恐らくそこが室長の席なのだろうーーについた。

「どうって……」

まただ。また、心が乱されている。ここに来るとろくなことがない。

営業は稼いでナンボ、そう再確認したはずだ。どういう内容の原稿だろうが、たった12万円ぽっちの契約が会社にどれだけ貢献できているというのか。それに、だ。そう、それにーー

「……こんな原稿で、効果出るんですか」

俺は言った。どんな個性的な原稿を出そうが、それで効果が出なければ意味がないではないか。反響が出ない原稿を掲載するなど、金をドブに捨てているのと同じだ。

「効果、か」

宇田川室長は椅子の上で大きく伸びをして、天井を見上げる。

「何を持って効果と言うんだろう、山田くん」

「村本です」

言い返しながらも、言葉の意味を考える。

「そりゃ……最終的には応募数です。ただ、Web媒体なんですから、まずはPVを稼がないとだめでしょうね」

「ほう、PVね」

そうだ。俺の担当してきた大手企業は、応募数と同様、いやそれ以上にPVを気にする傾向がある。PV、ページビュー、つまりその求人広告が何度表示されたかを示す数値だ。

常に求人広告を出しっぱなしの状況を「ベタで出す」「ベタ掲載」などと言うが、そういう顧客の場合、求職者がいつどの原稿を見て応募してきたかを厳密に管理するのは難しい。

また、応募後の書類選考に時間がかかったり、面接のスケジューリングに手間取ったりするケースも多く、一定期間内の有効応募数を確定させるのは意外と大変なのだ。

だからこそ、常にリアルタイムな数値として参照できるPVで効果を図るというのが習慣化している。

俺はそういったことを宇田川室長に説明した。Webの原稿なのにわざわざプリントアウトして読む様子を見ると、室長はWebに疎いのかもしれない。

「まあ、営業一部の客と、ここの受け持ちの客は違うのかもしれませんけどね」

皮肉を込めて付け足したが、宇田川部長はそれをどう受け止めたのか、ニコニコしたままこちらに視線を向けた。

「茂木さんにとっては、どうなのかなあ」

「……は?」

「茂木さんにとっての、あるいは社長にとっての効果、って何なんだろうと思ってね」

「……」

思わず黙ると、宇田川室長はふふ、と声に出して笑った。そして俺をじっと見つめると、微かに目を細めるようにして、言った。

「なんとなく、鬼頭さんが君をここに寄越した理由がわかってきたよ」

第2話終わり/第3話【1】 につづく


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