おやじパンクス、恋をする。#094
こういう日に限って店は暇だ。
俺は涼介にバイクを返すと、嫌がるのを説得して近所の病院まで連れてったあと(奴のケガは思ったより大したことなかった。よかった)、俺は多少の買い出しをした上で自分の店「69」に出勤した。
69のある界隈は、昭和の頃にはブイブイいわせてた歓楽街だ。だけどそれも今は昔。最近のガキは女遊びはおろか酒すらまともに飲みやがらねえし、集まるのは仕事勤めを終えたサラリーマンか、お水のお姉ちゃんばかりだ。
ましてやウチの店は、この街のバー業界でも客のアクが強えって有名だ。涼介タカボンがかわいく見えるような、一癖も二癖もある不良が集まってくる。
店構えも決してオープンな感じじゃねえし、だいたいカウンターに入ってんのがオレンジのモヒカンしたこの俺だ。バーと言えば蝶ネクタイしたバーテンが静かにグラスを磨いてる、みてえなイメージを持った奴が、うちに馴染めるとはとても思えねえ。
結果、一見さんはこの雰囲気に圧倒されて二度と来ねえことが多いし、常連化するのは数少ねえイカれたバカだけってことになる。そもそも母数が少ねえんだよ。だからド平日の夜、特にこんな早い時間に店が忙しくなることはほとんどない。
それでもいつもなら、一組二組くらい、常連の誰かか、ふらっと迷い込んだOLなんかが来たりもするんだが、夕方から小雨が降ってきてたこともあってか、店の扉は見事に一度も開かなかった。
俺はカウンターから出て客席のひとつに座り、天井から吊ってあるテレビをぼんやり見ながらタバコを吸った。
腹が減ったが、店を閉めて何かを買いに行く気にもならず、目の前のプラケースからミックスナッツをザラザラと小皿に盛って、つまんだ。
テレビではくだらねえバラエティが流れていた。
どいつもこいつもが笑っていた。
どっかの有名企業の社長がゲストで出てきて、太った腹を揺らしながらくだらねえゲームに参加していた。
俺はふと、背筋がゾクッとなるような、ある欲求を感じた。
けど、無視した。無視っつうか、ちょっと後回しにした。けど、素直な俺のことだ、やっぱり気になって気になって、それを紛らすため、カウンターに入ってキンキンに凍ったジョッキを取り出すと、ビールを注いだ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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