おやじパンクス、恋をする。#033
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
タカの言葉に、誰からともなく感心したようなため息が漏れる。
確かにそうかもしれねえ。いまの彼女は長い髪をアップにまとめていて、セクシーな感じだ。ちょっとパーマかけてんのか、天然なのか、後れ毛がハネてる感じがまた、いい。……っておい、そういうことじゃねえだろ。
「つうか、シャワー浴びてきたんじゃね、首にタオル巻いてるし」とボン。ははあ、確かに。
しかしそれを確かめるすべもなく、俺らは彼女はそのかすかな隙間をチラチラと横切りながら動いているのを、ボンヤリと見つめていた。なんかやけに忙しそうな感じに見えた。立ったり座ったり、よくわかんねえけど、バタバタしてるって感じだった。
でも、それは俺が感じてただけかもしれない。何しろ俺の知ってる彼女ってのは、あのサッシんとこでただボンヤリと外を眺めてる彼女だ。忙しく動きまわるどころか、暇過ぎて溶けちまいそうな感じの。
どれくらい見てただろう。一分、いやもしかしたら三分くらいかもしんねえ。彼女がまた奥の方に向かって歩いて行って、壁に吸い込まれるように消えた。多分、便所か風呂だろう。
息継ぎすら我慢するくらいの無言でそれを見ていた俺たちは、なんつうか、緊張から解放されたみてえに同時にほう、と溜息をついて、互いに顔を見合わせた。
「とりあえず、あのバカはいねえみてえだな」とボンが言って、ああそうだった、俺たちはそれを確かめにここまで来たんだったよなと今更のように思い出して、タカが「ほらなあ、やっぱ違えじゃねえか」と子どもみてえに俺らを指さした時だ。
さっき彼女を飲み込んだ壁から、上半身裸のあのバカが現れた。
それなりに鍛えてあるようなでかい身体、見覚えのある坊主頭。
サングラスはもう外されていたが、それはどう見てもあのバカだった。
おいおいおいおい、おいおいおいおい。
俺はただただおいおいおいって頭の中で連呼しながら、あのバカの肩に彫られたここからじゃ何だか分からねえ刺青が、カーテンの隙間をチラチラすんのを見ていた。
「クソ野郎」隣で涼介が呟いた。「ビンゴウ」とボン。タカは無言。
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