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おやじパンクス、恋をする。#126

 タカに詫びて店を出ると、コロナ片手に駅までの道を歩いた。

 俺の店のある怪しい界隈と違って、ここいらはそれなりに開けた繁華街だ。パルコもあるしフレッシュネスバーガーもあるし、おしゃれにイタリアンなんかを楽しめるダイニングやバルもそこそこ揃ってる。

 タカと待ち合わせた時点で日は暮れかけていて、今はもうすっかり暗くなっていたが、たくさんの人間がわいわいと歩いていた。平日とはいえ、夜はこれからってことなんだろう。

 パルコの横には、学校にある体育館くらいの広さの公園つうか広場がある。こないだ涼介らのバンドがライブやってたあの広場だ。もう少し夜もふけりゃ、スケーターやらダンサーやら、明日の学校なんて関係ねえって悪ガキどもが集まりだすんだが、今はまだ、制服着た純朴そうなカップルが仲よさげに話し込んでる時間だ。

 見れば、まるで電線に止まるカラスみてえに、黒い影が等間隔に並んでやがる。日が沈んだのをいいことに、イチャイチャしてるんだろう。

 いい気なもんだ、と勝手なことを思った。

 ポケットから折りたたんだコースターを取り出して、そこに殴り書きしたメモを見た。「大鵬大学病院 第三病棟 1113号室」。俺は今から、こんな名前も聞いたことのねえ病院に、一人で、それも割と重苦しい内容になるだろう話を聞きに行くんだぜ。

 ところでこの病院どこにあるんだって、Googleマップで検索してみればあんた、まさかの片道一時間二分。俺は思わず立ち止まった。

 ネオンのせいでうっすらと明るくなってる灰色の空を見上げる。

 えーと、一時間二分。

 うん、最短ルートで一時間二分。

 どんだけ急いだところで、今から行って帰ってきて、店の開店時間に間に合うわけもねえ。

 バイクがあったらなあとふと思ったが、涼介の親父さんからはまだ連絡がない。ま、コロナ飲みながら考えることでもねえんだけど。

 まあしゃあねえ、ってことで駅に行って切符を買い、電車に乗った。このサラリーマンの帰宅時間帯に、鈍行しかねえような路線だ。

 病院の最寄り駅までは十駅くらいある。ガラガラの車内、広々と座席に体を預け、理由もよくわからねえため息をつく。

 新幹線とかとは明らかに違う、軽トラを思い出すようなブサイクな振動が感じられる。ガタゴトガタゴトと音を立てながら、窓の外では夜の風景が過ぎていく。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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