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おやじパンクス、恋をする。#052

 いつも通りバスの中で二度寝しちまってたらしい俺は、激しく肩を揺さぶられて目を覚ました。

 スーパー銭湯行き無料送迎バスの最後部座席。

 気持ちよく寝てるってのになんだよ、と目を開けると、相変わらず全く似合わわねえハッピを羽織ったカズが、ニヤニヤしながら俺を見下ろしていた。

「よお社長、今日も朝からご苦労さん」

 そう、カズはこのスーパー銭湯で働いている。つうか、ここはカズの親父が経営している店なのだ。

「るせえよバカ、夜勤明けのくせにテンション高えよ」

「たっぷり仮眠させてもらってるからな。なんたって俺、次期社長だから」

 ヘラヘラ笑いながら俺の手を取り、ぐいっと引っ張る。

 まあ確かに、社長の息子でもなけりゃ、金髪で髭モジャで人に全力のドロップキックをかますようなこんなバカを雇うはずがねえ。

 まあ、とはいえ実際のとこカズはすげえ真面目に――まあ、見てくれには目をつむってやってくれ――働いてるってことを俺は知ってる。少なくとも勤務中は、自分の責任をキッチリと果たそうと全力で取り組む。

 つうか、俺の仲間はみんなそうだ。酒飲みでロック好きのどうしようもねえオヤジどもだが、皆やるときゃやるっていうか、意外と真面目に社会人やってんだ。そういう、筋の通った奴らなんだよ。

 カズだって、本人が言うように仮眠は挟んでいるだろうがそれは他の従業員たちも同じでさ、客にニコニコ笑顔振りまいて、しかもそれが営業スマイルじゃなくってマジで「来てくださってありがとうございます」って感じの笑顔だから、客たちもみんなカズのことが好きになっちまう。

 金髪で髭モジャでも、そういう溢れ出る素直さが人徳に繋がって、今じゃこの銭湯の看板スタッフ、誰もが認める次期社長っつうわけだ。

 だいたいこんな風に、来るバス来るバス店の外まで迎えに来て、いらっしゃいませいらっしゃいませって一人ひとりに頭を下げて回るのもすげえよな。

 むしろあのヤクザな親父に育てられてよくこんなまともな――いや、かなりの部分がまともじゃねえわけだが――人間になったなと感心するくらいでさ。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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