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おやじパンクス、恋をする。#213

 シンクに溜まってるグラスの山を見て、何となく俺は笑った。

 そのごちゃごちゃした、互いが互いにもたれあって、それでいてすし詰め状態の窮屈さに文句言ってるみてえな、まるでそれは俺たちの姿そのものだったからだ。

 俺らはこんなことを死ぬまで続けていくんだろうか。

 だとしたら人生ってなんなんだ?

 ああでもねえこうでもねえと酒を飲み、二日酔いに苦しみ、そしてまた夜になれば酒を飲む。それを繰り返すだけのものなんだろうか。

 片付けを後回しにしてカウンターを出ると、誰もいない客席に一人座って一服した。

 密封性が高過ぎるうちの扉は、外の音を完全に遮断してしまう。俺は一人、自分のこれからの人生――つまりシンクのグラスみてえな人生――を考えながら、相変わらず薄笑いを浮べて、つうかそれを自覚してる時点でわざと笑ってるってことなのかもしれねえけど、とにかく笑いながらカウンターに肘をつき、今日はもう閉めて家でゆっくり眠っちまおうと考えたとき、iPhoneがバイブって、そこには雄大の名前が表示されていた。

 俺はマンガみてえに目を見開いて、それからごくりと唾を飲み込んだ。

 けど、驚いてる暇はねえ、これを逃したらいつ連絡がくるか分からねえ。

「も、もしもし、雄大か」

「あ、やっぱ起きてた。ははは」

 酔ってるのか、雄大はいきなりアホみたいに大笑いした。

 それが収まるまで俺は忍耐強く待った。俺は俺でそれなりに酔ってる訳で、少し気を抜いたら、みんなに心配かけておきながらこうやって笑ってる雄大を、怒鳴りつけてしまいそうだった。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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