おやじパンクス、恋をする。#112
「ああ、なんか最近よく聞くな」
そう言ったのは意外にも涼介だった。フリーのWeb屋という職業柄、一日中Macにかじりついてるからか、意外とこいつは世の中の動きに詳しい。
「なんだよ、その情報商材って」思わず言う俺。
「そのまんまだよ。うまい儲け話があるから何万で買え、みてえな話だ」
俺は笑った。
「そんなバレバレの詐欺に誰が引っかかるんだよバカ」
だが涼介は、はあ? という顔で言い返してくる。
「だから、それを上手に引っ掛けるのがテクニックなんじゃねえかバカ」
すると今度はボンが、耳に挟んだタバコを咥えながら言う。
「なるほど、社員以外の人への発信、ね」
訳知り顔で火をつけるボンの方を彼女は見て、「そう」と頷く。
「今回のパーティは、社内的にはお疲れ会のような形で広報されたけど、実際には社内行事を看板にした新ビジネスのキックオフパーティだったのよ」
「へえ、嵯峨野ってのはなかなか大胆な野郎だな」とカズ。
「ちょ、ちょっと待てよ」思わず言う俺。
なんか話のペースが早いっていうか、いや、彼女はまだ話し始めたばっかなんだが、既に俺はついていけない感じだ。
けど、カウンター席を見回すと、カズやボン、涼介までも特に戸惑った様子はない。タカだけがぽかんと口を開けて、俺と同じ顔をしてやがる。
「なんかよく分かんねえよ。なあ、タカ」
「ああ、よく分かんねえ。何だよキックオフって。サッカーかよ」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
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