おやじパンクス、恋をする。#042
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
なんだって俺は初恋の相手の家に、こんな風に押し入ってんだ?
押し入った挙句一人で喚き散らして、彼女の男関係にまで首を突っ込もうとしてる。
いや、女を殴るような男は嫌だっていうのは前提としてあるんだ。だけど、殴られた相手が彼女じゃなかったから、俺はこんなにも感情的になっただろうか。
俺の知らねえ女が殴られてたって、嫌な気分にはなるだろうが、いちいち相手の男をぶちのめしに行ったりはしねえんじゃねえのか?
ああそうさ、俺は要するに、初恋の相手を、いや、下手したらこうして再会してまた恋しちゃったかもしれねえ相手を殴ったこのバカが、許せなかっただけなんだ。
いや、もっとハッキリ言や、彼女と乳繰り合ってたことに対する……嫉妬だ。
「本当に? まさか、嘘でしょう?」そう言って彼女は笑い出した。いや、おい、そこ笑うとこじゃねえだろ。
「嘘じゃねえよ、なあ」と涼介。なあ、じゃねえよバカ、そんなこと聞かれてどう答えりゃいいんだよ。
「うわあ、赤くなってる。気持ち悪ぃな」タカが俺の顔を覗きこんで言う。
うるせえよ、我ながら気持ち悪いよ。でもそれはてめえらがこうやって煽るからで……
「ああ、おもしろい。でも、嬉しいよ。本当に」彼女はそう言って、やっと笑うのをやめた。彼女のその、目尻に浮かんだ涙を拭う姿を見ながら、いつの間にか化粧されていたそのキレイな肌を、隠せない皺が少し浮かんだ首筋を見ながら、俺はマジで久々に、恋心ってやつを感じてしまっていた。
「それで、キミは助けに来てきてくれたわけ? あのレストランから、私が叩かれるのを見て」
そう言いながら彼女は、後ろを振り返るような素振りをした。赤いカーテンが閉められているから外の景色は見えねえが、徐々に日が沈んで暗くなってるようだった。
「そうだよ。つうか、よく分かんねえうちにココに来てたんだよ」
「なんで?」
「よく分かんねえよ。けど、なんか頭に血が上っちまって」
ふっと彼女は穏やかな溜息を漏らした。
「でも、よかった。キミが来てくれなかったら、問題はもっとややこしくなっていたと思う」
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