【小説】 愛のギロチン 11

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「まあ、確かに求人系ってもう微妙ですもんねえ。辞めて正解ですよ、先輩」

「え?」

俺は驚いてしまった。一回り以上年下の言葉だとは思えなかった。

「……微妙って、なにが」

「うーん、なんていうんでしょうね。僕もまだこの仕事2年くらいですけど、あんまり面白くないっていうか」

予想外の反応に、焦りとも興味とも言えない感情が頭をもたげる。

後輩は、俺はもちろん本木よりもずっと若い世代だ。一般的には俺たちの頃よりずっと「安定志向」が強まっていると言われている。

俺みたいな年齢で会社を辞めるなど、こいつらからしたら自殺行為にも等しいと映るのではないのか。

「面白くない?」

微かな緊張を覚えながら聞くと、退職する先輩にはもはや気を使う必要などないとでも言うように、後輩はペラペラと話しだした。

「面白くないっすねえ。だってこんなの、単なる枠(わく)売りじゃないですか。このサイズならいくらですよ、オプションつけたらいくらですよ、ってやってるだけ。なんのクリエイティブもない」

「……」

俺の戸惑いをよそに、後輩は続ける。

「だいたい、”採用マッチング”だなんて偉そうに言ってますけど、そのマッチングの仕組みを作ってるのは僕らじゃなくて版元なわけでしょ。僕らはただその仕組みを間借りして、ちょこちょこ動いて手数料をもらってるだけです」

「……」

俺が黙っていることにやっと気付いたのか、後輩は俺の方をチラリと見ると、「周りには内緒ですけど…」と、付け加えた。

「正直、僕も長く留まるつもりはないですよ。もう少し大手クライアントに顔が売れたら、さっさと転職するつもりです」

「……そうなのか」

「ええ、だから先輩がどこに行くのかわかりませんけど、こんな業界オサラバして当然ですよ。上司とか見ても、この人たちみたいになりたくないな、って思いますもん」

よくわからないが、後輩は俺のことを”仲間“だと認識したようだった。求人広告業界に見切りをつけて、他の業界へと戦場を移す仲間。

さすがに同僚や上司には話せない内容なのだろう。後輩は水を得た魚のように、この業界、そしてウチの会社のダメなところを、駅につくまで話し続けた。

錦糸町にあるオフィスに戻るという後輩と別れて、千葉方面の電車に乗る。

頭がぼんやりしていた。

つづく

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