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おやじパンクス、恋をする。#170

 彼女の都合も聞かず、今から会いに行くと一方的に言い放った俺、そして実際に一時間足らずで登場した俺、そして、ザーメン臭え中学生の如き性急さで彼女を押し倒した俺を、彼女がどう感じているか。

 コトが終わって落ち着いた時、ブルー癖がついてる最近の俺の頭の中で、つきあって早々に振られる情けねえ自分の姿がモヤモヤと形作られていった。

 大丈夫だろ、いや、分かんねえぞ、怒ってるかな、いやだったらもう何か言われてるだろ。

 そんな自問自答を経て、さっきの彼女の笑顔、いや、どちらかと言えばその前の「買っといたんだ、マサに」っていう言葉に安心の入り口を見つけて、言ったのさ。

 だって、それってつまり、俺がココに来ることを受け入れてたってことだろ。

 とはいえ、分からねえ。言ったはいいが今更緊張してきた俺に、彼女ははっきりと、こう言った。

「いいんだ。私もマサに会いたかったし。来てくれて、よかった」

 彼女の即答に、その独特の口調に、満たされた気持ちがさらにかさを増して、いよいよ溢れてしまいそうになる。

 いや、マジで何かこみ上げてくるものがあって、俺は焦って逃げるように、慌ただしく頷いて玄関に向かった。

 手ぶらもいいとこ、財布とタバコとiPhoneだけではせ参じた俺。土産の一つでも持ってくるんだったなと思ったが、今更も今更だ。汚れたVANSのスニーカーに足を突っ込み、ケツのポッケにもろもろをねじ込むと、俺は早々にドアノブに手をかけて、押した。

 足を踏み出して、体の半分が部屋の外に出たくらいのタイミングで、「マサ」彼女が言った。

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この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ


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