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【書評】『車輪の下』が課題図書になる理由。キーワードは「嫉妬心」。

ロッシーです。

『車輪の下』を再読しました。

「車輪の下なんて知ってるよ。ガリ勉の主人公が最後に死んじゃう話でしょ?」(「ガリ勉」てもはや死語?)

くらいの認識の人が多いのかもしれません。

しかし、『車輪の下』はそんなに浅い話ではありません。


日本でやけに読まれている理由は?


『車輪の下』は、ヘルマン・ヘッセの著作の中で、日本でだけやけに読まれているようです。

その理由は、

「嫉妬心」

が大いに関係していると私は考えています。

特に、日本人は抜きんでた者の足を引っ張りたがる気質が他国よりも強い、と言われています。つまり嫉妬深いわけです。

だとすれば、日本でよく『車輪の下』が読まれているのは、そこに要因があると思うのです。

私達の嫉妬心はハンスの転落を望む

お金、才能、学力・・・など、私達は自分よりも多くをもっている者に対して、自然と嫉妬心を抱いてしまうものです。

そして、主人公のハンスは「多くをもっている者」の象徴です。

ハンスのように「勉学に打ち込むことができる」こと自体、普通の人にはなかなかできるものではありません。努力できること自体が才能なのです。

逆に、そのような才能がない者、つまり「持たざる者」は、そういう存在に嫉妬してしまうものです。

そのような嫉妬心は、無意識的に、ハンスがどこかで転落することを望みます。

物語はその要求にきちんと答えるかたちで、ハンスは神学校を退学し、機械工見習いになるもうまくいかず、最後は死に至る、という転落を描きます。

それにより、私達の嫉妬心は解放され、カタルシスを感じるのです。

それが人間の性

私達は、ワイドショーなどで芸能人がスキャンダルで一気に転落する様子をエンターテイメントとして見ています。

「高みにある存在が転落することを見て楽しむ」

というのは、良くないことです。しかし、それが人間の性でもあるわけで、『車輪の下』にも同様の構造が見出せるわけです。

もしもハンスがそのまま勉学に励んで立身出世する話だったらどうでしょう? この作品の魅力はほぼなくなってしまうのではないでしょうか。

私達の嫉妬心という負の感情について、文学的にきちんと向きあったからこそ、『車輪の下』は読まれ続けているのだと思います。

教育側が課題図書にする理由

『車輪の下』について、

「純粋な子供を、大人達が教育によってダメにしてしまう話」

という捉え方もよく聞きます。

確かにそれも多少はあるかもしれませんが、それだけでは片手落ちな気がします。

そのような作品を、わざわざ教育側が読書感想文の課題図書にするでしょうか?

「先生~、俺ハンスみたいになりたくないから、勉強あんまりしないようにするわ~。」

などと、『車輪の下』を勉強嫌いの生徒の言い訳に使わせたいのでしょうか? そんなわけはありません。

教育側が課題図書とするからには、そこに何らかの教育的意義があるはずです。

それは、

「自分の嫉妬心というものに、自覚的になってもらうこと」

なのだと思うのです。

要は、「あなたの嫉妬心に気が付きなさい」ということです。

嫉妬心の危険性

嫉妬心は非常に危険です。

行き過ぎると、他人の足を引っ張ることで、相対的に自分のポジションを上げようとする行動につながるからです。

それは教育的観点からは非常に望ましくない行為です。

だからこそ、小さい頃から自分の嫉妬心に気付かせることは非常に重要です。気が付かなければ、コントロールもできませんから。

そのような教育的配慮により、課題図書として選ばれているのではないかと思うのです。

どう読んでも教育的意義のある作品

もちろん、『車輪の下』を読んだ生徒全員がそこまで読み込むことはないでしょうから、私の考えすぎ、と言われればそれまでです(笑)。

ただ、この本を読んだ子供達が、

「ハンスかわいそうに・・・」

と普通に思うのであれば、やさしい気持ちを育てるという情操教育的観点から教育的意義がありますし、

「やっぱ勉強のし過ぎはよくないってことだな」

と思うのであれば、何事もバランスが大事なんだ、という教訓を与えるという教育的意義があります。

中には、私が上述したように

「やばい・・・私ハンスが転落することにちょっと快感を覚えてるわ・・・。これが嫉妬心というものなのかしら??」

と思うのであれば、嫉妬心について自覚的になってもらうという教育的意義があります。

つまり、どんな読み方をしても教育的効果があるという点で、『車輪の下』は優れて教育的な本であり、だからこそ課題図書にも指定されているのだ、と結論づけたいと思います。

ちょっと強引でしたかね(笑)。

まあ、こんな読み方もできるということでご容赦ください。

良い本は、どんな読み方をしてもそこから得るものがあると思います。

皆さんも、「もう知っているよ」と思わずに、ぜひもう一度『車輪の下』を読んでみることをおすすめします。

きっと新しい発見があると思います。

最後までお読みいただきありがとうございます。

Thank you for reading!

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