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本読みの記録(2016)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録。ブログ「ブックラバー宣言」に発表したものをベースにしていますが、すべての文章について加筆修正をおこなっています。対象は2016年刊行… もっと読む
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2019年7月の記事一覧

哲人の人生に学ぶ〜『はじめての哲学』

◆石井郁男著『はじめての哲学』 出版社:あすなろ書房 発売時期:2016年2月 本書で取り上げる哲学者は14人。「万物の根源は水だ」と考えたタレスに始まり、ソクラテス、プラトンはもちろんのこと、ベーコン、デカルト、カントを経て、ヘーゲル、ニーチェ、進化論を唱えたダーウィンが入っているのがミソで、マルクス、デューイときて、サルトルで〆ています。それぞれの伝記的事実に着目して、その哲学のエッセンスを解説するというシンプルな構成。 著者の石井郁男は、小学校・中学校・高等学校で4

市民の政治的実力で対抗する〜『安倍晋三が〈日本〉を壊す』

◆山口二郎編『安倍晋三が〈日本〉を壊す この国のかたちとは─山口二郎対談集』 出版社:青灯社 発売時期:2016年5月 安倍政権を批判的に検討する対論集はすでにいくつか刊行されていますが、本書は政治学者の山口二郎が「抵抗と対抗提案を打ち出す」べく行なった対談の記録です。相手は、内田樹、柳澤協二、水野和夫、山岡淳一郎、鈴木哲夫、外岡秀俊、佐藤優。 結論的にいえば、どこかで聴いたようなやりとりが多く、新味には欠ける内容というのが正直な感想。その中であえて言及するなら、内田と佐

「小さいこと」からネチネチと〜『新・目白雑録』

◆金井美恵子著『新・目白雑録』 出版社:平凡社 発売時期:2016年4月 金井美恵子といえば、小説作品にもその趣味嗜好が濃厚に刻まれているシネフィルぶりを想起しますが、時にフローベール的とも評されるエッセイにもその持ち味が存分に発揮されているように思われます。 本書では「その時々の時代の大文字のニュースや出来事の周辺で書かれた様々の小さな言説に対する苛立ち」にアイロニーをまぶして存分に金井節を炸裂させています。その執拗な絡み方とあいまって今時のSNS界隈では嫌われそうな芸

啓蒙装置としての役割は終わった?〜『万博の歴史』

◆平野暁臣著『万博の歴史 大阪万博はなぜ最強たり得たのか』 出版社:小学館 発売時期:2016年11月 2025年、大阪で二度目の万国博覧会が開催されます。EXPO'70の時は私は小学生でしたが、当時と比べて今回は地元での期待感はほとんど感じられません。どころか開催に否定的な声が未だによく聞かれます。万博で人やカネの流れを活性化する手法は前世紀までのもの、その歴史的使命は終わったという認識が大勢ではないでしょうか。 いや、結論を急ぐ前に、万博とはそもそも何なのか、それを歴