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本読みの記録(2017)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2017年刊行の書籍。
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2017年7月の記事一覧

様々な視点から光をあてる〜『私にとっての憲法』

◆岩波書店編集部編『私にとっての憲法』 出版社:岩波書店 発売時期:2017年4月 憲法施行70周年にちなみ、53人の各界著名人が思い思いに憲法につい述べているアンソロジーです。政治・法律の専門家だけでなく、音楽家、俳優、芸人、演出家、映画作家、宇宙物理学者、医師、鍼灸師、作家、漫画家、経済人などなど人選はバラエティに富んでいます。 この種の憲法本には、護憲論にしても改憲論にしてもどこかで聞いたようなステレオタイプの言説がどうしても含まれてしまいます。本書もまたその例に漏

生活がよくなって、失われてゆくものを想う〜『若狭がたり』

◆水上勉著『若狭がたり わが「原発」撰抄』 出版社:アーツアンドクラフツ 発売時期:2017年3月 作家と故郷とは切っても切り離せない関係があります。人の書くものは生まれ育った土地の風土や文化から少なからぬ影響を受けるであろうことは否定しがたいことですから。その強固な結びつきの例としては、織田作之助&大阪、中上健次&紀州、大江健三郎&四国の森……などなどいくつものケースが思い起こされるでしょう。それに加えて、水上勉&若狭を想起する読書家も多いにちがいありません。 水上の故