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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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#片山杜秀

受容者層の変遷に着目した音楽史〜『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』

◆片山杜秀著『ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる』 出版社:文藝春秋 発売時期:2018年11月 音楽の歴史には人類の歴史そのものが刻まれている。とりわけ音楽の受け取り手である教会、宮廷、市民層の変遷は、まさに政治、経済、社会の歴史にほかならない。本書はそのような認識に基づき、音楽批評にも健筆を振るっている思想史研究者の片山杜秀がクラシック音楽の歴史を語りおろしたものです。 ヨーロッパの音楽史で、中身がある程度はっきりしたかたちで今に連続していると考えられるのは、中世に

自民党政権から野村萬斎まで語り倒す〜『平成史』

◆佐藤優、片山杜秀著『平成史』 出版社:小学館 発売時期:2018年4月 平成時代を振り返る。元外交官・佐藤優と思想史研究者・片山杜秀の対談集です。ふだんの二人の博覧強記ぶりには敬意を表するに吝かではないけれど、本書に関してはいささか期待ハズレでした。全体をとおして辛口の議論が繰り出されるのですが、右も左もひっくるめて──安倍政権からSEALDsまで──高みからあれもダメこれもダメと全方位的にぶった斬っていくのはこの手の対論にお決まりの仕草とはいえ、批判のしかたがやや粗雑で

明治維新150年を貫く基本精神〜『「五箇条の誓文」で解く日本史』

◆片山杜秀著『「五箇条の誓文」で解く日本史』 出版社:NHK出版 発売時期:2018年2月 明治維新、ひいては近代日本の基本精神は「五箇条の誓文」に示されているのではないか。2018年は明治維新150年にあたりますが、その全期間を貫くものとして、片山杜秀は「五箇条の誓文」に注目します。本書は有名企業幹部が学ぶ白熱講義を新書化するシリーズの第3弾として刊行されたものです。 明治を代表する憲法学者の穂積八束は、五箇条の誓文こそ近代日本の最初の憲法であると述べたといいます。また