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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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2018年12月の記事一覧

知的好奇心をくすぐる愉しい写真集〜『世界の美しい博物館』

◆パイ インターナショナル編著『世界の美しい博物館』 出版社:パイ インターナショナル 発売時期:2018年7月 ギリシャ神話の主神ゼウスの娘で芸術と学問の九つの分野を司る女神、ミューズ。ミュージアムとはいうまでもなくその女神の名を語源としています。文化的な生き物である人間は、世界各地にミュージアム=博物館を作りだしてきました。 コンセプトに見合ったアーティスティックな外観を誇るもの。岩山を削って建設された教会や修道院をそのまま博物館として公開しているもの。博物館とは、展

「肯定する革命」へ〜『現代社会はどこに向かうか』

◆見田宗介著『現代社会はどこに向かうか ──高原の見晴らしを切り開くこと』 出版社:岩波書店 発売時期:2018年6月 これからの人間社会がどこに向かうかを考えるとき、まずは人類の足跡を振り返る、その歴史を踏まえて未来を構想するのが常道でしょう。人類史を顧みる場合には様々な時代区分のしかたがありますが、本書ではカール・ヤスパースを援用します。 ヤスパースによればまず考察の中心に「軸の時代」と名づけた時代がありました。ユーラシア大陸の東西に出現した貨幣経済と、これを基とする

空白の時間に遊ぶ〜『俳句の誕生』

◆長谷川櫂著『俳句の誕生』 出版社:筑摩書房 発売時期:2018年3月 俳諧連歌にはいろいろな形式がありますが、江戸時代に流行したのは歌仙だといいます。五・七・五の長句と七・七の短句を連衆と呼ばれる参加者が交互に三十六句詠み連ねるものです。 歌仙では一句ごとに描かれる場面が変わります。同時に句を詠む主体も次々に変わっていく。主体の転換こそが歌仙を進めていく原動力となります。言い換えれば自分ではない他者になって句を詠むことが行なわれるわけです。俳諧の「俳」の文字は白川静によ