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本読みの記録(2018)

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ブックレビューなど書物に関するテキストを収録しています。対象は2018年刊行の書籍。
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2018年5月の記事一覧

永続敗戦のその先へ〜『国体論 菊と星条旗』

◆白井聡著『国体論 菊と星条旗』 出版社:集英社 発売時期:2018年4月 明治維新から現代に至るまでの日本近代史を「国体の歴史」としてとらえる。本書のコンセプトは明快です。「国体」とは、辞書をみると最初に出てくる語義として「国家の状態」(スーパー大辞林)とあります。もっともそれだけではいささか曖昧かもしれません。 もう少し具体的な内容を表現すると、戦前の国体は、万世一系の天皇を頂点に戴いた「君臣相睦み合う家族国家」として規定することができる。戦後のそれは、端的に対米従属

明治維新150年を貫く基本精神〜『「五箇条の誓文」で解く日本史』

◆片山杜秀著『「五箇条の誓文」で解く日本史』 出版社:NHK出版 発売時期:2018年2月 明治維新、ひいては近代日本の基本精神は「五箇条の誓文」に示されているのではないか。2018年は明治維新150年にあたりますが、その全期間を貫くものとして、片山杜秀は「五箇条の誓文」に注目します。本書は有名企業幹部が学ぶ白熱講義を新書化するシリーズの第3弾として刊行されたものです。 明治を代表する憲法学者の穂積八束は、五箇条の誓文こそ近代日本の最初の憲法であると述べたといいます。また

単独者を気取る男たちの欺瞞を暴く!?〜『おひとりさまvs.ひとりの哲学』

◆山折哲雄、上野千鶴子著『おひとりさまvs.ひとりの哲学』 出版社:朝日新聞出版 発売時期:2018年1月 『おひとりさま』シリーズで知られる社会学者の上野千鶴子と『「ひとり」の哲学』がベストセラーになった宗教学者・山折哲雄の対談集です。「ひとりの哲学」をめぐって上野が一方的に山折につっこむ形で話はすすみます。 上野は、日本の思想史に連綿とつづいている「単独者の系譜」に終始厳しい見方を示します。ここでいう単独者とは、世間から背を向ける世捨て人、流れ者、放浪者たちのこと。西

存在の複数性を認める新しい実在論〜『なぜ世界は存在しないのか』

◆マルクス・ガブリエル著『なぜ世界は存在しないのか』(清水一浩訳) 出版社:講談社 発売時期:2018年1月 新しい実在論を唱えるドイツの哲学者として世界的に注目を集めているらしいマルクス・ガブリエルが一般向けに平易に書いた哲学書の全訳版です。 まず正直に告白しておけば、本書の内容を十全に理解できたと確言する自信はありません。ゆえに以下に掲げる批判まじりの素朴な感想は、哲学の素人である私の読解力不足に起因するものであるかもしれないことを最初にお断りしておきます。 2011

キリコの震える線のように〜『創造&老年』

◆横尾忠則著『創造&老年 横尾忠則と9人の生涯現役クリエーターによる対談集』 出版社:SBクリエイティブ 発売時期:2018年1月 「長生きするのも芸のうち」とは演芸界でしばしば口にされる格言(?)です。早逝の天才の系譜にも惹かれるものはあるけれど、なるほど長生きしている創作家にもまた別様の魔力が宿っているに違いありません。 横尾忠則が80歳を越えた年長のクリエーターたちに会って対話を交わす。本書はその記録です。登場するのは、瀬戸内寂聴、磯崎新、野見山暁治、細江英公、金子