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アンズ飴         その8

 僕たちは毎週、場所を換えてラ○ホに行き、身体を重ねた。
 十代の男女にとってそれはすごく自然なことにように思う。二時間の休憩のあと、シャワーを浴び、近くに公園があれば公園に行き、ベンチに座り時間を決めずにおしゃべりをした。楽しい時間だった。
 当然のごとく受験勉強ははかどらない。僕はただただ週末を楽しみに月曜日から土曜日まで予備校に通った。
 12月に入り、月末のクリスマス、年末年明けを残すのみとなり、受験期間もぼくたちの付き合いも、何かしらの決断をしなければならない時が迫っていた。大学の問題も、彼女との今後も後回しにできない問題なのに、僕は二つの話題をいつも避けていた。

 僕と彼女は高円寺の商店街を歩いていた。彼女は16才のときに買った茶とグレーの格子柄のツイードのコート、タールネックのシャツ、膝丈までの巻きスカート、グレーのタイツ、ダークブラウンの革靴という格好で、僕はパタ○ニアのエンジ色のアウトドアコート、エド○インの黒のジーズ、ナ○キのバスケットシューズという格好。
 なかなか良い感じの公園がなく、駅にまた戻ろうと話してたとき、帰りの道で大勢の子供たちの声が聞こえ、釣られるようにして一本路地に入った。小さな滑り台と鉄棒、タイヤのアトラクションがあるくらいの、子供たち5~6人が鬼ごっこをして遊ぶのがせいぜいの公園を見つけ、やっとベンチに座った。
「あっというまにクリスマスになったね」
「まだ成ってないよ。あと25日あるって」
 彼女は笑いながら言った。彼女の耳は桜貝のようにピンクになって、寒そうだったが、そこがまた可愛らしかった。
「クリスマスには、レストランでも行く?」
「ごめん、両親と久々に会って食事をする約束なんだ。でないと、生活費を出してくれいなって脅すから」
「そうなんだ。クリスマスは家族揃ってお祝いする家だったんだ」
「毎年、どこかのお店に行って食事をするのが決まりのようになっていたんだ。パパもママもクリスマスくらいしかもうお互い顔を合わせないでしょ。まあ私が鎹になって、一年に一回二人を会わせるような役割なんだ。鎹としての役割を一年に一度くらいはやらないとね」
 彼女は顔の前に両手を合わせてあげ、ぼくに謝るポーズをしてみせた。
「二人の子供なんだから、頼りにされた時に役割をちゃんと果たさないと駄目だろうね。ちゃんと頑張ってきて」
 と僕は励ますような、ヘンな言葉を返した。よく考えれば、彼女の両親は別れたけども、彼女の二親と彼女は縁を切った訳ではない。どういった離婚の取り決めになっているか分からないが、彼女は父親とも母親とも好きなときに会えるはずだ。だたし元の三人家族に戻るのには理由が必要になるだろう。それは彼女の誕生日か、元々の家族の決まった行事で離婚したあとも当たり障りのない、クリスマスのような行事かもしれない。
 僕は彼女の家族ではない。家族になるかも分からない。その僕に彼女が手を合わせて謝る必要はない。
「気が早いけど、正月はどうする?」
「クリスマスの次は、すぐに正月だものね」
「僕は初詣は一緒に行きたいと思ってる。願い事を合わせるかどうかは分からないけどね」
「私たちの願い事は一つでしょ。来年の志望大学入学」
 そうだよ、希望する大学の入学だよね。二人がいつまでも一緒に居られますようにではないよね。僕は期待しすぎだったよね。
「受験がんばろう。あとちょっとだから」
 彼女はコートの襟を立てて、口元を隠すようにして言った。夕方になり公園が急に寒くなってきた。さっきまで居た子供たちもバラバラと家に帰っていく。
「寒くなったし、僕たちも座ってないで帰ろうか?」
「そろそろ私たち、会うの控えた方がいいかなと思う」
 えっ? 僕は彼女の顔を見た。彼女は革靴の爪先でベンチ前の砂に、星や丸のような絵を描いて視線を僕と合わせない。
「12月になっても今までと同じ頻度で会って、寝ていたら大学一つも受からずに落っこちちゃうよ」
「それは…僕も考えてた。でも楽しかったし、君と会うと勉強へのやる気も違ったし、SEX抜きでも君にすぐに会いたくなるんだ」
 僕はウソをついた。いま勉強はまったく頭に入らない。頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
「楽しいばかりの時間に、いま時間を使っちゃダメなんだよ。全国の受験生は来年の大学入学、その後のキャンパスライフに夢を持って必死に頑張ってるんじゃないかな。わたしも来年は青○学院大学に今度こそ入りたい。入って何を勉強するかなんて後回しでも良いと思ってる。あなたはそれではダメと言うけど、どの学部でも良いの青○大に入れれば、私。来年こそ青○大に入りたい」
「分かるよ。分かってる……でも、僕たちは来年も付き合ってるって保証はないから。別々の大学に通うようになったら……」
「古くさいかもしれないけど、来年のことはを今から考えたら、鬼が笑うっていうじゃない。来年は来年だよ。若いんだし、出会いはまだまだ沢山ある。別れだって沢山あると思う。私たち別々の大学に通うようになっても、付き合い続けているかしれないじゃない。…私なんかより、もっと素敵な女の子があなたの前に現れて私は捨てられるかもしれないし。私の前に素敵な男の子が現れてあなたと別れるかもしれないけど。それは今からじゃ分からないよ。今分かっていることは、受験勉強を頑張らないと大学に受からないということ。そして今は頑張り時ということ。ね」
「…………」
「…………」
「君は思った以上に男前なんだな。ぼくの方が女々しいね」
 彼女は僕の手に手を重ねてきた。そしてニッコリ笑顔をつくり。
「クリスマス前に手袋買ってあげる。あなたもわたしに手袋をプレゼントしてくれる? それで、会えない間もお互いを思って頑張りましょう」
 うん、僕は頷き。手のひらを返して指と指を絡ませ、彼女の手を握った。
                           (つづく)

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