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雑談*「ねえ、怖い話をしてよ」の出会いと需要

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塾帰りだろうか。
渋谷駅から、女子中学生とおぼしき数名が乗り込んできた。その時、僕は座席に座っていたので、ドア横で立ち止まった彼女たちの姿を見ることはなかった。ただその賑やかな話し声が、疲れた社会人たちが立ち並ぶ座席をよぎってこちらに届く。

抜き打ちテストの点数がいまいちだった、あの先生前髪を切りすぎてたよね、百均でかわいいシールを買った、そのスタンプいいね、みたいなゆるやかな会話。

「ねえ、怖い話してよ」

その一言は、そんな雑談の合間に差し込まれた。えっ、前後の文脈あった?思わず聞き耳を立てていると、
「いいよ〜。これはお姉ちゃんから聞いたんだけど」
と即座に言葉が返される。そこでまた僕はびっくりした。そんなナチュラルに会話続くのか。

「これはお姉ちゃんから聞いたんだけど、お姉ちゃんの友達がネットでかわいいアクセサリーを見つけていいな〜って言ってたんだって。そしたらその人の彼氏から5000円分のギフトカードが届いて。で、これどういうことってLINEしたんだって。それでね……」

話し手の中でストーリーが組み上がっているのだろう。順序よく滔々と話が語られていく。怖い話をせびった側も、うん、うん、それで?と聞き入っている。
周囲の人も耳をそばだてているのか、なんとはなしに、ざわつきも落ち着いているように思えた。わかる、僕も続きが気になる。

ドアが開く。別の路線への接続駅だ。
会話が途切れ、そして、声の主たちがドアの向こうへと去った気配がした。

えっ。えっ。
今の、怖い話だったの。意味がわかるととか、ネット的な怖い話なのか、それとも普通にホラーなのかもわからない!宙ぶらりんな気持ちで、僕はまた電車に揺られるのだった。

*

日常の、帰り道の雑談に怖い話をセレクトする、成立する、という時点で、彼女たちにそういう下地はあったんだろう。しかし季節は真冬だし(平成なら天皇誕生日にあたる日だった)、肝試しって感じでもない。かといって、話のなかに恋人が出てきたにしても、どうも恋話に花を咲かせたいという風でもなく。あの心中はいったいなんだったんだろう…とぼんやり想像を巡らせていた。

*

そこから数日経って、年の瀬。
我が家にはテレビがない。娯楽や情報収集代わりには、youtubeを流し見ることが習慣になっていた。(昨年買ったswitchはコンパクトで高画質、PC操作との干渉もなくとても便利だ。画面からスティックを外すと誤操作しにくいのもよい)
チャンネル一覧を見ると「生放送中」の文字。何気なくのぞいてみると、そこには「怪談白物語」とタイトルが踊っていた。

怪談白物語
どうやらインディーズで制作されたTRPGのひとつで、GMが話す怖い話を、プレイヤーが怖くないように修正していく、という対抗ゲームらしい。
百物語の最後の話を怖くなくして、百物語を不成立にしてめでたしめでたし、なので"百"から1引いて"白"物語、という具合だ。

ここで使用される怖い話自体は持ち寄りで、その場ごとにGMが設定する。

ゲーム自体も面白いんだけど、こんなところで、怖い話が必要な場面があるんだなあ…!という発見が真新しかった。
もちろん、あの帰り道の彼女たちがこのゲームに関わっていたのかは全然わからないけれど。短期間に怪談に出会う機会が重なったので、巡り合わせって面白いなあと思った次第でした。

*

怪談白物語、僕もやってみたいなあ。
え、怖い話は持っているのかって?

これは兄からきいた話なんですがね……、

*

怪談白物語については、「怖い話をしたい」vs「怖くなくしたい」攻防戦が楽しく、最終的にヘンテコな話に仕上がる臨場感がたまらないので、気になる方はぜひ動画やルールブックを参照ください。僕がみたのは「学校で流行っている怪談」が「宇宙ステーションで流行っているエロい話」になったやつでした。フィレオフィッシュ食べたい。


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