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「働く」が向かう新しい価値観

コロナ禍で急速に在宅ワークが広がり、「働く」と「暮らす」それぞれが歩み寄る新しいワークライフバランスへと向かう今。自宅にとどまらず、オフィス、外出先…より俯瞰的な視点で、ワークスペースは今後どのような変化を見せるのでしょうか?今回はオフィスクリエイトのトップランナーをゲストにお迎えして、住まいとオフィスの両方向から「働く」にフォーカス。振り返れば、「働く」と「暮らす」の歩み寄りが住まいより先行していたのはオフィスでした。先駆けの事例を拝見すると、より自由で多様な働き方の未来が見えてきました。(※本テキストは、2020年7月に実施されたライブ配信「はたらき方の未来 ワークバランス2.0」の文字起こし編集版です)


・スピーカー:ルームクリップ株式会社 セールスマーケティングチーム 竹内優、水上淳史
・ゲストスピーカー:トレイルヘッズ株式会社 代表取締役 山口陽平


今日のテーマは「はたらき方の未来」

【竹内】今日のテーマは「はたらき方の未来」です。このテーマを選んだのは、2020年5月に在宅ワークスペースに関してライブをさせていただいたのが発端で。

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 その中で、コロナ禍によって「働く」と「暮らす」ということの関係性が今非常に変化してますね、とお伝えしました。単純に「働く」と「暮らす」の時間、オンオフの切り替えみたいな概念だった「ワークライフバランス」の議論が、「働く」と「暮らす」が常に寄り添って存在する状況が起こり始めてますと。それを抽象化する意味で提示した言葉が、「ワークライフバランス2.0」というものでした。

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 住まいでの働き方がこの先どう変わっていくかだったり、働き方そのものに対する捉え方も変わってるなというのは皆さん認識あると思うんです。そういったところを俯瞰的に議論できたらな、と考えまして。

お迎えしたゲストは…

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【竹内】今回はRoomClipの「生活者」目線以外に、別の目線のオピニオンを頂きながら働き方の今後のビジョンを深めていこうというところで、オフィスの変化をクリエイトしてきたリーダーの方をお呼びしております。トレイルヘッズ株式会社の代表取締役の山口陽平様です。よろしくお願いします。今日はどちらにいらっしゃいますか?

【山口】よろしくお願いします。今日は僕らが運営しているMAKITAKIというコワーキングスペースにいます。

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【竹内】こちら、何かコンセプトはあるんでしょうか?

【山口】ここは外遊び好きが集まるコワーキングスペースというテーマでやっています。アウトドアスポーツやキャンプが好きな人など、そういった共通の好きな事がある人たちが一緒に働くという。そういう場を作ったら面白いことが起きるんじゃないかなということでMAKITAKIを作りました。

【竹内】なるほど。そういったスペースも運営されるトレイルヘッズ様ですが、事業内容をお聞かせください。

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【山口】メインでは、主に都市のスタートアップ企業やIT企業を中心としたオフィス空間のデザイン、プランニングを中心にお仕事をしています。それだけではなく自分たちが理想の働き方を求めるために、働くこともできるキャンプ場や、先ほどのコワーキングスペースを運営したりという事業をサブで行っています。

【水上】実は我々RoomClipのオフィスもデザインしていただいています。もう3年前かな。オフィスの引越しの時にトレイルヘッズさんと出会って、コンセプトに共感して今でもお付き合いさせていただいてます。いわゆるオフィスのデザインだけじゃなく、例えばモバイルオフィスということもされていますよね。

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【山口】そうですね。僕らが都心でオフィスを創るのとはまた別の軸で、自分たちがどう自由に働きたいか、気持ちよく働きたいかというのを考えた時に、例えば湖の前で働くとか、山の中や森の中で働くとかできたらいいよねと、いつかやりたいよねとみんなで話していたんです。オフィスが動かせればすぐにでも実現できるんじゃないっていう話になり、モバイルオフィスを作っちゃおうということで2016年にスタートしました。

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【竹内】トレイルヘッズ様はオフィスのデザインのプロフェッショナルというのはもちろんですけど、働き方についても常に考えチャレンジしている会社で、今日のテーマに適任、というところで色々とお話をさせていただきます。

住まいの中でのワークスペース

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【竹内】まずは、住まいの中での「働く」に関する話から。「働く」ということが急速に暮らしに入り、現状、暮らしがどう変化しただろうということについて5月のライブでお届けしました。これについて改めて、7月になった今の新しい状況というところも含めて、山口さんへの共有を兼ねて簡単にご紹介します。

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 コロナ禍で、「テレワーク」というタグが非常に伸び盛りな状況です。2018年に初めて登場したものの2019年までほぼ使われていなかったのですが、今のタイミングで本当に増えている。こちらの「テレワーク」タグの状況こそが今の在宅ワークのメインストリームということで、サンプルの分析について前回のライブでもお話しさせていただきました。

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 住まいの中でこれまでワークスペースを持たなかった方の投稿が中心で、半数以上が今回を機にテレワークに向き合っている状況です。次のページにある画で見てみると、在宅ワークが始まった当初の状況は一目瞭然です。今も多くの方でこの状況が続いていると思うんですが、リビングやダイニングに働くということが割り込んできている。

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 スピーディーに適応された方ももちろんいて、それがどんな方かというと、DIYのスキルに長けている方であったり、もしくはキャンプやアウトドアのグッズを豊富に揃えている方やそういったものをスピーディーに導入した方です。子ども部屋をテレワークスペースに変えちゃったという方まで。テレワークがそうやって住まいで始まる中で、新しい課題を発見しながらどんどん改善を施していってるという状況です。真ん中の方だと電源が足りないみたいなことをおっしゃっていたりとか、そういう課題に一つ一つ対処している。

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 その試行錯誤の中で、大きく3つに分類できる課題が見つかっております。1つが「子ども」とどう付き合うか。どうやって健やかに過ごしてもらいながら、自分の在宅ワークと向き合うかということですね。緊急事態宣言下では中でも保育が問題になりました。そして次が「スペース」の課題。こちらはもう単純に、在宅ワークをするためのデスクの置き場所がないから、収納を何とかしようとか、今あるスペースでなんとかやろうとか。何か工夫できないかと動かれている状況です。そして3つ目の問題は「健康」です。在宅ワークで腰を痛めてしまったという人がたくさんいらっしゃいました。なので、3月4月よりも5月6月はワーキングチェアを買いましたという話も多く聞けたかなと思います。昇降式のデスクみたいなところも今まで結構見られなかったんですけれども、割と定番化してきているのも面白いところですね。

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 現状をまとめます。テレワークで在宅ワークのプレイヤーというのが、従来の中心層であったSOHOの方たちと別の部分でどんどん増えていった。元々ワークスペースを持っていなかった方が、別の役割の空間をとりあえずワークスペース化していくということが始まっていったと。結果、課題が色んな分野で勃発していて、課題の解消フェーズに入っているのかなというところですね。

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課題はどう解決されていく?

【竹内】課題の解決には、それに役立つ目線が2つあるのかなと。1つが、既存の在宅ワーク層が具現化したノウハウです。既存在宅ワーク層というのは、SOHOであったり、元々在宅でワークスペースが必要で、試行錯誤をしてきた方々が持つノウハウですね。もう1つは、テレワーク層の方が今、こうして良かったよということの共有で始まった新しいノウハウ。

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 いくらか例も増えてきているので紹介します。まずは、1つ目の既存の在宅ワーク層が具現化されているノウハウについて。特に、お子さんと付き合うというところの向き合い方で役立つ例なのかなと。それが、ワークスペースで子どもやパートナーと一緒に働くという物です。SOHOとか、そもそもワークスペース広くを持たれている方っていうには、こういった例が少なからず見えたんですね。

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 リビング学習というのが、未就学や小学生ぐらいのお子さんがいるご家庭では当たり前の状況みたいなところもあって。ダイニングで学習するだけじゃなくて、それ専用のスペースをリビングの一角や階段の踊り場に作られる方が増えていて、そこを働く場所としてお子さんと一緒に過ごせるようにしている方がよく見られるんですね。

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【水上】家族の共有スペースとして、リビング学習スペースとワークスペースをシェアして使うということですね。

【竹内】はい。一角にデスクを1人分だけ構えてしまってその周辺でお子さんの面倒をみるとなると、お子さん側が手持ち無沙汰になるディスコミュニケーションが起こってしまったりするんですが、一定の年齢を超えたお子さんになると一緒の場所で作業が出来るだけで、それが解決策になるかもしれないなと。

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 その中で、子どもとの触れ合いや作業を両立するために、設えやアイテムが今どんどん導入されている。特に右はわかりやすいかなと思いますが、お母さん用とお子さん用でラックを設けて用具を出し入れするという収納を設けられていて、一緒に作業するためのスペースをどういうシェアするかというところまで、アイデアとして踏み込まれていっている方もいらっしゃるんだなと。

 かたや、新規で今テレワーク層がチャレンジして色々獲得しているノウハウについて。まずは、「オンとオフが共存するワークスペース」です。

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 テレワーク層は元々、家の中に働くスペースがない状態から始まっているので、本来他の役割である場所でいかにうまく働くかというアイデアがどんどん生まれています。例えば左の写真はリビングのソファですが、テーブルをちょっと作業に適した形のテーブルに変更することで、作業も出来る場所に変わった。右はよりリラックスしたスタイルで、オンとオフを切り替えられるという例ですね。トレイ式のクッションテーブルを併用されて、仕事をする時はクッションテーブルを使い、クッションテーブルを外してしまえばもう完全にリラックスモードになるという。オフィスとは全く違う形でありつつも、うまく働けるかも知れません。

 そして、元々のスペース自体を作業用に作り変えるというのも盛り上がっています。

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 既存の別用途の空間をワークスペース化するというところで、押入れだったり和室の床の間を変更したという例ですけれども。床の間のようないわゆる使われないことが前提の空間をあえて活用される場所に変えたということも、今だから起こっているのかなという。こういった場所のためのアイテム、左では突っ張り棒だったりとか、右ではメッシュを使われていますけれども、色んなアイデアが発生してきてるのかなというところです。

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 機能性の話ばかりしましたが、別文脈の課題に対するノウハウもテレワーク層の中ではどんどん発生してきています。家の中で働き続けるということをいかにメンタルを保ちながらやるか、モチベーション保つかみたいなところです。有機的な潤いであったりとか、外の要素を取り入れるみたいな工夫っていうのが盛り上がっているんです。

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 左の方は一輪挿しを置かれてるんですが、これは「テレワーク時の背景としても」とおっしゃっている。真ん中はテーブルアレンジとして食卓に飾っていますというように、食卓に季節の変化を求められていたり。右はどこでも窓というか、そういった楽しみ方ができるディスプレイの機器ですね。これを窓がない室内に設置されて、街や自然、自分の好きな風景を取り込むといった意図で、家の中に変化を加えているんですね。

【水上】これが「テレワーク」タグで投稿されているところが、すごい象徴的ですよね。

【竹内】私も驚きでした。「仕事と暮らす」という状態だからこそ、テレワークタグの中にそういった投稿まで入ってきているのかなと。間取りやスペースの考え方だけではなくて、住まいのあり方が変容していますよね、ということが一番振り返っておきたいところでして。逆に、まだ最適な回答がないということも改めて感じます。この各課題に対する回答は、住まいの領域内外から色んなインプットを得ながら、これから形作られていくのかなと。

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 というわけで、住まいからの「働く」を見た目線を共有させて頂いたきましたが、住まいの例だけでは、やはり今後仕事とどう折り合っていくのかわからないなと我々も感じたわけで。

【水上】オフィス側も実はこれまで結構変わってきたなと感じてるんですよね。働くということと常に付き合ってきた場所も働き方の目線で再度知ることで、より今後のビジョンに対する解像度だったり、感じている課題だったり、お互いノウハウが相互に行き来するようなことがあるんじゃないかと考えています。

オフィスの変化から「働き方」の変化を捉える

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【竹内】そういったわけで、トレイルヘッズの山口さんにお話聞きたいなと思っております。山口さんに、オフィスで「働く」から「暮らす」に歩み寄る中でどんな変化があったのかをお聞きしたいと思います。

 前提として「働く」と「暮らす」空間の歩み寄りが先行してたのはむしろ家よりオフィスのが早かったよねと、我々も思ったところがありまして。オフィスの変化はなぜ始まって、どういう部分が変わっていったんだろうかと。そして、それは住まいでの働き方の変化予測とか提案にヒントになりそうなことがあるんじゃないかということで、トレイルヘッズ様の事例をお聞きします。

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 まずは、オフィスの形態の変遷みたいなところの話を聞かせていただければなと思います。

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【山口】先ほど竹内さんから、オフィスに住まいの要素が入ってきているという話があったんですけども、住まいだけじゃなくて例えばカフェの要素だったりとか、本当に色んな要素が今入ってきてる現状があるんです。そこに至るまでの流れをお話ししようと思います。

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 色んな変化はあったんですが、まずオフィスにデザインという概念に投資が始まった中で、一番初めに起きた変化は、エントランスを豪華に作るということ。エントランスでその会社のコーポレートアイデンティティを表現したり、信頼とか安心とかを感じてもらえるような空間づくりで、そこから会議室に繋がるような作りで。その先にあるワークスペースっていうのは、あくまでもこの右の写真にあるようなデスクが整然と並べられていて、いわゆるワクワクするような空間ではなかった。

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【竹内】デザインの役割として期待されていたのは、エントランスをまず整えるみたいなところだったのですね。

【山口】そうですね。外部に向けていた。来客の方がエントランスで写真を撮るとか。そこから徐々に変化をして、エントランス空間だけ豪華にデザインするんじゃなくて、そこにもう少し奥行きとか広がりみたいなのを見せて、例えばホテルのラウンジにあるような、個室ではなくて少しカジュアルに打ち合わせができるようなスペースを作って開放感を出すような、こんな流れが途中から生まれてきたのかなと思ってます。あくまでこの段階でも、主なワークスペースっていうのはそこまで手を入れられる考え方ではなくて。対外的にデザインしていくのが基本ですかね。オープンスペース時代と分類できるかと思います。

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 左はTORETAさんという会社の当時のオフィスなんですけれども、イメージ的には入口入るとドーンと抜けていて、個室だけではなく打ち合わせができるようなスペースがあるという。中でもTORETAさんはこの外部の人が入るオープンスペースに社内の人もどんどん進出してきてここでお仕事をするとか、すごくハイブリッドな働き方をしていました。

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【竹内】会社のアイデンティティとしてそういうスペースみたいなところも活用されていたと。対外的にも対内的にも活用されるような。こうなっていく流れで、結構ダイニング的な設えだったりとかそういったものも入ってくるんですね。

【山口】そうですね。空間によっては入ってきたかなというところです。

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 このあたりからグラデーションがかかり始めていて、色んな要素がミックスされてきたのが、ここ最近のオフィスのあり方だったかなと。当然会社さんによってはセキュリティを担保しなきゃいけないなどで、誰もがオフィススペースまで入れるというのは最適ではなかったりするんですけど、外の人も出来るだけ会社の奥の方にまで入ることを想定したり、あとは社内で働いている人たちが快適に働けるためにこの空間全体を使ってどういうふうにミーティングスペースだったり、働く場を作っていくというように変わってきましたね。外向きで作っていたものから、中で働く人たちがどう気持ちよく、どうパフォーマンスを出して自分らしく働けるか。その様子を見てもらうことがその会社のらしさそのものも表現するという。

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【竹内】なるほど。アイデンティティや信頼にもつながっていくという。この写真、先ほどと変わっている点は、働いている姿がいっぱい映っていて、その姿勢も皆さん違うというところが印象的ですね。

【山口】そうですね。一番右の写真の右隅だと畳スペースでもう本当にこう寝っ転がって仕事するような。左の写真の奥のほうだとラウンジソファに腰掛けるような形で、少しリラックスした感じで打ち合わせをするとか。この場は来客の方が使うこともあれば社内の方が使うということもあるので、外と中っていうのを明確に区別することなく空間が使われるようになったかなというところですね。

オフィスを形作る多くの要素

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【竹内】そんなオフィスデザインの変遷を表したのがこちらの図です。実際こんな形で主たるワークスペースであるオフィスっという場所がどんどん顔のほう、エントランスの側まで向かっていったっていうところですね。

【山口】そうですね。すごくわかりやすく書くと、こういうふうに中の人と外の人っていうのがミックスするような考え方になってきて、キーワードとしてはオープンでミックスで、情報も人も合流させる。そこにどうデザインが入っていくかというような考え方になってきたかなと。

【水上】デザインの領域も、最初は入り口だけだったのが全体に波及していくみたいな方向に向かってきたんですね。

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【竹内】1人のスタッフの目線で言うと、オフィスの働き方というのが、自分のデスクだけじゃなくてオフィス全体に変わってきて、その中でリビングとかカフェみたいな要素が結果的にそこあるということですね。いくつか、設えの特徴の事例を頂いております。例えば1つ目がソファスペースですね。

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【山口】そうですね。先ほどの色々な空間を作っていった中で1つピックアップすると、写真に出ているようなソファスペース。主にこれを作る目的は、ちょっと前だと社員さんが仕事中の休憩やお昼を食べるためにこういう場を設けたいということが多かったんですが、今はここのソファスペースで打ち合わせをしてもいいし休憩してもいいし、もしくはお客さんを呼んでここで打ち合わせをしてもいいしと。共通されるのは、個室ではなくて、こういったソファスペースであることですごくリラックスした状態で打ち合わせとか仕事ができますよねと。

【水上】いわゆるクローズドな会議室みたいなのに比べると、こっちの方がリラックスした雰囲気でという感じなんですね。くつろぐという面もそうですけど、働く中の人や外の人が家族のようにコミュニケーションするということを期待されてこういったものが入ってきたみたいなことなんですね。

【山口】そうですね。リビングのようにというキーワードが出ることもあるんですけど、自宅のリビングにいるように家族のように近い関係でみんなで打ち合わせをしたいとかコミュニケーション取りたいというところからこんな場を作ることもありますね。

【竹内】なるほど。次の例に移ります。カフェカウンターのような形です。こちらは実際どういったふうに導入されたんでしょうか。

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【山口】今スタートアップの企業などのオフィスデザインをする中で必ずと言っていいほどカフェカウンターやバーカウンターって入ってくるんですけど、決してここでお酒を飲んだりカフェをするために作っているわけではないんです。元々はオフィスの隅っこに必ずある給湯室、あそこには冷蔵庫とかドリンクが飲めるようなものとかがあったりしたんですけど、そこに人が集まることが多かったので、それを社内の中心部に持ってきている。このカフェカウンターの下に冷蔵庫を入れて、ドリンクが飲めるような設備を全部まとめることで、人が一番集まるような場所にしようというのが、この考え方の始まりだったかなと僕は考えていて。カフェカウンターを作ると、人が交わってコミュニケーションが生まれると。

【竹内】そういう営みの中にこういう設えが連動していくんですね。

 そして、さらに踏み込んだ事例に思えますが、キッチンとかダイニングといった設備が展開されていっているんですよね。

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【山口】そうですね。キッチンカウンターのところに、自宅のようにみんなで集まってご飯を少し食べながら、もしくはご飯を食べているような感覚でみんなが集まれる場所が出来ないかっていうので、キッチンにダイニングテーブルみたいなものをくっつけて、ここでコミュニケーションをとる。そんな作りをするところも増えてきました。

【水上】これ見た目にも住宅のアイランドキッチンの横にダイニングテーブルくっついているのと一緒ですね。

【山口】そうですね。実際ここの会社さんは、時々ここでみんなでご飯を作ってご飯を食べながらコミュニケーションするっていうようなこともやられてますね。

【竹内】カフェカウンター以上に長い時間だったりとか深いコミュニケーションが求められる状況の中での、設えのさらなるバリエーションみたいなところなんですかね。

 もう1ついただいてる事例、こちらはまた役割が変わるかなと思いますが、畳を使った小上がりのスペースですね。

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【水上】これはどんな目的で採用されるんですか?

【山口】これは小上がりの畳スペースというのと、あとは個室というのを掛け合わせて作っているんですね。なので、実はここは集中スペースになっていてるんですが、かつ靴を脱いでここの畳の上ですごくリラックスした状態を作るというような、そういった効果を狙ってます。

【竹内】色んな設えがワークスタイルの姿勢という目線で出てくるという。

 また、アイテム面でピックアップいただいたのが、植栽です。これも導入例や、そもそも植栽のボリューム感みたいなところが変化しているんですか。

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【山口】そうですね。グリーンを入れたいっていう声がすごく大きくて。オフィスってただデスクとチェアを並べてキャビネットを並べただけだと無機質な空間になりがちのところを、こういったグリーンを入れることで少しでもリラックスした状況の中でお仕事が出来るようにということで、この2つの事例はかなりの量のグリーンを入れてますね。これはリラックスした状態でお仕事が出来るようにということだけじゃなく、この右の例で言うと、社員さんがグリーンの管理もしているので、働く中で自分たちの身の周りのグリーンを少し世話もしながらという。

【竹内】なるほど。じゃあオフィス自体とともにそうやって暮らす、いわゆる生き物として接してたりっていうところの役割も持っていたりするんですね。

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 色んなサンプルをご覧いただいたんですけど、これに対応するマトリックスも提示いただきました。これには、求められるワークスタイルや、働きながらモードに応じた設えが提案されているというのが描かれている。オフィスで1人で働く場合。誰かと働く場合。大勢で働く場合。そしてそれぞれ、リラックスした状態であるとか、集中した状態をであるとか、どういったモードかに合わせてそれぞれの提案が並ぶというものです。我々、これには衝撃を受けました。なぜなら、住まいのワークスタイルにおいては今こういったマトリックスが出来るような回答っていうのはないよねと。

【水上】今、在宅ワークスペースで言うと、とりあえずデスクを確保すればいいだろうというところで止まっちゃってる部分があると思うんです。働くって一言で言っても、多様な働き方やスペースのあり方みたいなのがこんなにオフィス空間では提案されているということは、在宅ワークにおいても考え方が生かせるところは絶対あるなというのを非常に強く感じますね。

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【竹内】まとめると、オフィスのデザインの変化は、会社の顔ではなくて働く人のための役割がどんどん期待されてという流れがきっかけだったと。そして求められる要件が、働く人がパフォーマンスを高めるとか、居心地よく過ごしてもらうというところ、そしてコミュニケーションをよくしていくというところが重視された結果、元々住まいなどにあった暮らしの要素がオフィスに取り込まれていったということですね。

住まい・オフィスに限らない、働くための空間

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【竹内】働くということが、どんどんオフィスの中で捉えられ方が変化したということがよくわかりました。今後も住まいやオフィスの形や役割が変わったりっていうのは前提とは思うんですけれども、働き方そのものに対してもっと生活者のマインドは変わっていく、そして形が変わっていく可能性はあるんじゃないかと感じています。

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 コロナ禍のショックは、単純に在宅ワークがいっぱい発生したという話ではないなと思っていて。例えばIターン転職・Uターン転職とかの話も再度盛り上がっているように、働き方そのものに影響が与えられ、暮らしのスタイルの提案みたいなところって再度色んなパターンで今、出来る余地があるんじゃないかと感じているんです。そのあたりの今の状況や今後みたいなところ、お話を聞いていけたらと思います。まず1つ問いなんですが、コロナ禍のここ数カ月で最初のショックはあったと思うんですが、その中で今、山口さんのお仕事に変化って続いていますか。

【山口】こちら、その答えになるだろうという資料です。

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 フェーズ1、フェーズ2、フェーズ3っていうふうに書いているんですけども。まずこのフェーズ1、皆さんも体験された突然リモートワークが普及した状態ですよね。早い会社さんだと2020年2月ぐらいからスタートして、3月、4月、5月まで、かなりの率で強制的にリモートするような状態が生まれたと。自宅でも仕事出来るという人もいたと思いますし、やっぱり会社じゃないと、例えば偶発的なコミュニケーションとか雑談とかノイズが入ることとか、オフィスじゃないと起きなかったこともあるよねみたいな、色んな知見も生まれたタイミングかなと。

【竹内】そうですね。今、どんどん住まいやオフィスに限らず、働き方に対して皆さん関心を持たれているところなんですね。そんな中、具体的にオフィスがどう変化しているんだろうかというところをお聞かせください。

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【山口】4月、5月ぐらいにもう緊急事態宣言が明けることを見越してオフィスをどうするかという問い合わせが増え始めて、動きの早い会社さんは6月スタートすると同時にもう具体的なアクションを起こし始めていて。ここで事例として挙げているのは、社員の約50%がリモートワークになって執務席は思い切って座席数を半分に減らして、でもオープンエリアとして人が交われる場所は規模は少し縮小しているものの残しておくという風にアクションを起こした事例。

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【山口】もう1つは、移転した直後にコロナが発生したという状況もあったので、自分たちのオフィスの考え方っていうのをガラっと変えて、ここは物理的に距離を離してソーシャルディスタンスをとって安全性を保つというような考えにシフトしたものですね。

【竹内】色んなケースがあるとは思いますが、その中でオフィスのメリット・役割というのも実感としながら変わっていると。それはどんなところなんでしょう?

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【山口】やっぱりリモートワークである程度仕事出来るというのがわかった半面、組織としては例えばコラボワークが主要だったりとかマネジメントサイドからすると視覚的に体が見えるというか、状態が見えることで健康状態とか精神状態とかが管理出来るという、リスクヘッジの部分でも重要だったと。改めてリモートワークをフルでやってみて、オフィスで重要なことが明確になってきたと。

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【竹内】なるほど。そうなるとオフィスの役割も変わる中で、働き方全体の目線として、この先どうなるかという何かお考えはありますか?

【山口】まだ正解はなくて僕らもみんなも試行錯誤をしている状態ではありますが、このコロナの状況で大きく2つの軸でかつてないぐらい動き出したなと。

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 1つは安全性。マスクをしたり手洗いをしたりデスク間を離して物理的に距離をとったり。そして、もう1つの側面として、自由な働き方に色んな人が目覚め始めたと。リモートワークが強制的に行われたことで、自宅でも仕事が出来る、そういう日数が増えたと思うんですよね。そうなったことで、今は安全性も担保する考えで自宅で仕事をするという選択肢だと思うんですけど、それが場合によっては自宅外でも広がっていく可能性は今後どんどんあるなと。

【竹内】外出が可能な状態になっていくと、リモートワークが場所の選択そのものから変わっていくんじゃないかということですね。それの先駆けの事例とも考えられる物で、1つ取り組まれている提案がこれ、CITY&LOCALですね。

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【山口】そうですね。これは自由な働き方が求められていく中でどういうふうに変わっていくか、例えば都心であればオフィスビルに行く必要がなくなると、近隣のカフェであったり今まで町にあったいろんな要素の中で、自分に最適な働く場所、もしくは思考する場所を選んでいけるんじゃないかとか。自宅の近くも変わっていくと思っていて、自宅でなかなか仕事がしづらい場合は自宅の近くのコワーキングスペースだったり、色んな場所で働くという選択肢が出てくるんじゃないかなと。

 その中で色々な試みをしていて、OFFICE CARAVANというのが例えばその1つですね。

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 僕らコロナ前から自由な働き方は何なのかっていうのを考えた時に移動できるOFFICE CARAVANというものを作って、この写真は伊勢神宮の近くの五十鈴川の目の前なんですけど、こういったところで働いてみる実験をしたり。あとは僕らが運営しているHINOKO TOKYOというキャンプ場の森の中でワーケーションではなく日常として働いてみるということをやり始めていたり。

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 そのためにキャンプ道具を使うだけではなくて、働くに最適な家具も自分たちで今検証しているんです。

【竹内】実際働いてる風景もいただいてますけれども。キャンプでスタンディングデスク使ってる人初めて見ました。これもオリジナルなんですね?

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【山口】そうですね。今実験中ですけど、これからオリジナルの家具を作っていこうと。

【竹内】これ足元にパソコンの電源があるんですよね。

【山口】モバイルバッテリーですね。今までだとOFFICE CARAVANみたいな考え方って理解できないっていう方多かったんですよ。でも、今はこのリモート下で、確かに自宅で働けるようになったってことは外で働くことも出来ますよねみたいな感じで理解してくれることもすごく増えました。

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【竹内】働き方を色々検証されているというところで、アイテムから考え直しているというところは、森で働くというだけに止まらず、示唆的な視点なのかなととても感じました。

 おさらいに入ります。オフィスの中には今働き方のバリエーションが一番たくさんあるのかなと我々は実感したんですね。色んな目的に応じて設えが変化していくということを今日教わりました。

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 逆に家の中を振り返ってみると、まだそれに応じた形っていうのがない、もしくは少ないと感じたんです。オフィスのようにそれぞれ細かい目的や課題に応じた形というのはまだまだ提案できる余地があるんだなと。

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【水上】そうですね。今回のお話を聞いて、改めてユーザーさんの色々な事例見てみると、もちろん個室とかデスクみたいな話は出てきてるんですけど、それ以外がやっぱり急ごしらえで、専用スペースがないからリビング、ダイニングでやってるみたいな話でしたよね。これから在宅ワークの時間が長くなってきてもう少し家族との関係性とか働くみたいなところがマッチしてくる中で、おそらくより多様なスタイルが出てくるだろうと感じましたね。

【竹内】そういった部分で、ただの場所作りでなくて、在宅ワークの課題だったりその空間を一緒にするメンバーに応じた視点というのは、バリエーションを考える上で1つの要素になってくるかなと思います。

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 そしてもう1点。住まいとかオフィスに限らず、さらに俯瞰的に働くを捉えようとすると、全然また選択肢が変わってくるかなと。住まいとかオフィスというのはあくまでその中での1つの場所であって、目的や課題感に応じてよりフィットする場所が創造や選択されていくというところは、本当に色んなアイデアが生まれるかなと感じています。安全安心に関する価値観や基準とか、パフォーマンスを発揮出来る姿勢とか、もしくは家庭環境、身体、そういった環境は個々人によって全く違っていて、それぞれに適応し抜群に発揮出来る形を求めていくのは、働き方自体をより良い形に作っていくって意味でも非常に価値があるのではないかなと感じました。

まとめ・クロージング

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【竹内】まとめに入ります。在宅ワークというのが課題解決フェーズに今入っていると。ノウハウを発見し、提案していくのは非常に鍵になると感じています。そしてオフィスの話を聞かせていただきました。ニーズの変化に対して多様なモードに応じた形を提案することで進化していったと。結果的に、それがオフィスの中にいる人を大事にするという流れの中で、暮らしという要素が入っていったことを知らされました。また、これからの「働く」と「暮らす」について、どう向き合っていくかみたいなところは、ライフスタイルで捉えるとさらに視界が広がると感じる中で、場所にも選択肢が広がっていくなというところ。個々人によって、安全性を保ちつつ、働きながら暮らす。この形に色々なバリエーションが登場する時代になってくるんじゃないかなと感じております。

 ライブもそろそろ終わりですが、山口さん側でインプットになった事とか、もしくはライブそのものに関して実感したことって何かございますか?

【山口】そうですね。住宅側から働くということはあまり考えたことがなかったので、RoomClipさんが持ってるアイデアとか、ユーザーの方々のアイデアっていうのはすごく参考になりましたね。

【竹内】ありがとうございます。それでは、みなさまご視聴ありがとうございました。



スピーカー
(左) ルームクリップ株式会社 セールスマーケティングチーム 竹内優
(右) ルームクリップ株式会社 セールスマーケティングチーム 水上淳史

ゲストスピーカー
(中央) トレイルヘッズ株式会社 代表取締役 山口陽平

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RoomClipラボについて

生活者のみなさまの写真の投稿を中心として、住まいや暮らしの話題を提供するソーシャルプラットフォーム、「RoomClip(ルームクリップ)」。ここに集まる情報を生活者のみなさまだけではなく、ビジネスにおいても役立てられればということで当社マーケティングチームがお送りしているのが「ルームクリップラボ」と称する活動です。メーカーなど各業界のブランド様向けオフライン/オンラインイベントをはじめ、さまざまな形での情報発信を行っています。