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フリーランス、っていう立場。

SNSやブログを見ると「フリーランス最高!」「なんでフリーランスにならないの?」的な文章を見る機会が多いと最近感じます。私も新卒入社4年弱で退職してフリーになった(現在は法人経営)身ですので、フリーランスの良さや恩恵には預かってきたのですが、猫も杓子もフリーはキャリアのゴール、フリーは勝ち組、という風潮はどうかなと思っています。

下北沢の居酒屋で「俺はサラリーマンには絶対なりたくねえ!」と息巻いていた大学生ぽい若者を見かけましたが、会社員というのは社会に飛び込んでいない若者にとって、なんだか得体の知れない力に取り込まれ、自由な時間を拘束され、心身搾り取られるようなイメージが高まっているのでしょうか。サラリーマンって「報酬体系が給与」っていうことを指す言葉なので、例えば大学から給与をとっている今の僕の立場も「サラリーマン」であると言えます。けして仕事の中身について触れている言葉ではありません。

同じようにフリーランスが自己実現の看板のようになっていることに、少しだけ危惧の気持ちを持っています。フリーランスは会社に搾取されていたお金が全部入る、フリーランスは自分の時間が好きなように使える、フリーランスは嫌な仕事はしなくてよい、必ずしも間違いではないのですが、フリーランスをもし始めるのであれば、冷静にフリーランスとは何かということを自分の中でしっかりと考えてほしいと思います。

まず、フリーランスは個人ではありますが「個人事業主」という経営活動をする一つの主体になることを意味します。例えば、収入に対して、仕入れや経費がいくらで、固定費(毎月必ず出て行くお金)がいくらというような、自分の家計と切り離したお金の考え方をしていく必要があります。また、お金の支払い期限や、入金される期限のバランス、いわゆるキャッシュフローについても冷静に判断、調整していくことが大切です。お金だけで自己実現は語れませんが、けしてお金抜きに語ることもできません。また、それにまつわる交渉ごとがあって、健全な仕事が持続します。

また、フリーランスで安定して食べられるようになるということは、外の要因によって成長する道が狭くなることでもあります。どういうことかというと、フリーランスの多くは特定の案件を請け負う「請負業」のスタイルで仕事をしています。安定して仕事が来るということは、その案件についてほぼ確実に適正な成果があげられると先方から信頼されているわけで、依頼されるのは、その領域をはみ出した仕事ではなく、期待される範囲内での発注がなんども繰り返される状態になるのです。

これがきちんと人を育成できる会社ですと、社員をキャリアアップさせるために、上司は部下に領域を超えても少しずつ難易度の高い仕事を与える仕組みになっていて、万一失敗しても何らかの形でフォローが入り、一度や二度の失敗であれば、また期間を置いて再び同じようなチャンスをもらえることもあります。仕事に成功すればより難易度の高い仕事がやってきて、いつのまにか自分の能力もあがっています。

つまりフリーランスが能力を高めたい場合、自分のキャリアアップのための計画を自分で練り、行動する必要があります。これは意外と気力や時間の余裕を要し、ときに少なくない資金が必要になります。
例えばイラストレーターという職業を考えると「個展」などがそれにあたります。仕事の依頼主から期待されるものは、そのイラストレーターが作り上げたタッチや世界観ですが、つまりは期待される同じタッチで、限りない再生産を必要とされるということなのです。もちろん、繰り返しによる技術向上はあります。しかし、大きく飛躍するためには新しいタッチや世界を自分で(自己資源を使って)広げ、それを個展などを通じて周囲に提示し、理解を広げていく必要があるのです。

特にほぼお客さんが「お得意さん」で構成されているフリーランスはその落とし穴にはまる危険性が高いです(もちろんこの自己再生産だけで一生やっていくと決めている人もいますがそれも生き方でしょう)。

会社を独立してフリーランスになりたい、と思う年頃の多くは20代から30代でしょうか。特に20代が終わりに近づくとなんとなく30歳になるまでに、区切りをつけたくなります(年齢なんてただの10進数のそれ自体には意味がない定義なんですが)。かくいう僕も28歳のときに、独立することを考えました。しかし、会社に所属しながら「会社を使える」ようになり出すのもちょうどこの年か、もう少し後の年齢なんですよね。

会社の資源をうまく利用できるようになると、個人では絶対に行えなかったような仕事の形を作っていくことができます。資金、人材、過去の事例、コネクション。これらが宝の山に見え出す年齢あたりと、フリーランスになりたくなる年齢のピークが交差しているところが、とても悩ましいと思います。

これからは会社に所属していながらも、個人事業主として活動するようなギルド形態や、特定の会社に席をおいて中枢から専門性を発揮するフリーランス、正社員契約でありながら、所属する会社を飛び越えたフィールドで自由に活躍する人など、雇用や契約形態だけでは職務形態が推定されない時代にどんどんなっていくと思います。

会社に所属する人で、もし辞めたいな、フリーランスになりたいな、と思っている人がいれば、どうか特定のポジショントークだけを見ないで、最後に自分の会社を見渡し、自分のキャリアにとってまだ「使えそうな資源」が残されていないかを確認するのも遅くはないと思っています。

また会社員で生きていくことを決めた人も、「いつかはフリーランス!」みたいな、大きな声に不安に思わず、どんどん会社の資源を使って立派なプロフェッショナル会社員(あるいはジェネラリスト会社員)を目指してほしいなと思います。

人の数だけ適性はあります。大切なのは、ときどきSNSを切って、一人きりになって、自分の適性や能力、夢と、自分が今所在している社会との関係を落ち着いて考えてみることなのかなと思います。

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下北沢にあるグラフィックデザイン事務所「room-composite(ルームコンポジット)」代表取締役・アートディレクター。東京造形大学 准教授。主な著書は「たのしごとデザイン論」「HOW TO DESIGN いちばん面白いデザインの教科書」。デザインの言語化好きなクラスタ。

コメント1件

>自分の適性や能力、夢と、自分が今所在している社会との関係を落ち着いて考えてみることなのかなと思います。
本当にこのお言葉に尽きると思います。多様な生き方がある中で自分にとってどれが幸せであるか。フリーランスはただの働き方の1つで、それ以上でも以下でもないと思っています。
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