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3mm方眼定規——不可視のリズムと規格


昨年から、すこしづつ試作をくりかえしているのが、3mm方眼定規です。ながさはどのくらいが適切かとか、数値をいれるピッチはどのくらいかとか、シールかアクリルかとか、時間をみつけては試行錯誤しています。

はやいはなし、これは尺貫法スケールなのですが。建築物や家具、あるいはやきものなどにかぎらず、想像以上に紙ものにもつかえます。ためしにさまざまな書物やカード類の版型、あるいは活字組版の組幅、行数、余白などにあてがってみれば、おどろくほど公約数がでて、割り切れてしまう。5mm方眼ではうまくいかないところが、すっきりとおさまる感覚です。

日本国内の寸法単位は当然、ミリメートル規格。とはいえ、それは実態のないある意味、抽象的な規格。数値化をするうえで、こうした抽象的なスケールは当然必要なものですが、いっぽうで具体的なかたちをつかさどる、もうひとつの側面としての身体尺もたしかに存在する。日本国内において、それは尺貫法となるわけですから、なぜ製品化されていないのか、むしろ不思議な気もします(3mm方眼紙は存在します)

ちなみに、この3mm方眼定規をおもいついたのは、おもにふたつの理由から。

ひとつは2018年に受講した、とある住宅設計講座。そこで推奨されたのは3mm方眼紙。当初は、あ、そうかそうか尺貫法だものね……くらいにとらえていたものの、いざそれでプランをつくれば、おどろくほどの効率があがり、くわえて課題内容をユニット的に分解でき、それを再構成していく——つまり、具体化と抽象化をいききしながら、精度をあげてゆく感覚をつかむことができました。

もうひとつは、あるグラフィック・デザイナーのグリッド・フォーマットをながめていたとき。さまざまな設定の活字サイズがおさまる、複合グリッドという状態のもの。ふと「もしかすると、これは12Q(3mm)を基本としつつ、さらにそれを半分にした6Q(1.5mm)を最小リズムの基準としているのではないか?」と、おもいついた。

はたして、それが正解かどうかは不明ではありますが、その後、ある仕事のなか複合フォーマットが必要な機会があったので、ひとまず6Q(1.5mm)基準で作成してみたところ、11Q(2.75mm)、12Q(3mm)、14Q(3.5mm)、15Q(3.75mm)……と、主要な活字サイズが、ひととおりおさまる画面設計となりました。

(ちなみに、こうして住宅設計とグリッド・システムをむすびつけたのは、菊地成孔氏によるモダン・ポリリズム講義だったり、ジャック・ディジョネットのリズム解釈が頭にあったおかげだったりします)

ちなみに3mm方眼定規を1920年代のイギリスの書物、あるいはアップル製品なんかにあてがうと、不思議とこれもまた公約数がでることがおおい。尺貫法ではないにしろ、なにかしらのなにかがあるのかもしれない。

造形において、そこにおけるリズムの基礎をいかにつくるか——実態として可視化される部分は、みえざるものの一部が具現化された箇所にすぎないのかもしれない。脈々とつづく、その基礎となる規格の一端。そのようなことに、この3mm方眼定規をつくることで気けたかもしれません。

●追記
こちらに3mm方眼定規 PDFデータをおいております。ご有用なかたはダウンロードのうえ、お使いください。なお中村は現在、透明フィルムのもの、アクリル+レーザーカットのものを使用しております。なお当該データは予告なく削除する可能性があります。

5 May 2021
中村将大


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