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ロジスティクスから考える建築の未来

こんにちは、ロンロ・ボナペティです。

今回は建築のロジスティクス のお話を。
ロジスティクスとは、兵站とも言いますが、戦場における物資の調達・輸送のことを指します。
現在では物流の管理全般、特に合理的に流通を組み立てる活動自体を指すのが一般的のようです。(大辞林より)

それが建築とどんな関係があると思いますか?
日本の古い木造建築と、現代建築を比較して考えてみましょう。

建築に使われている材料を考えたとき、前者はその地域で採れる木材や石材が使われています。
(ただし寺社建築や城郭建築などの中には全国から選りすぐりの材料や人夫を動員してつくられた例もあります。市井の人々が暮らす住宅など、いまではほとんど見ることができなくなった建築をイメージしてもらえればと思います。)
特に日本では河川の水運が発達したことから、同一水系内での木材活用が基本でした。
また建物をつくる大工や職人も、地域に住む人たちでした。
材料も人的資源も地産地消だったということです。
したがってどの建物も似たようなつくりになり、統一された町並みが形成されました。
住まい手とつくり手の距離も近く、顔の見える相手だったことも想像に難くありません。

日本の民家はどれも同じようなもの、と思われがちですが、実は地域によって全然特徴が違います。
建築写真家の二川幸夫さんによる『日本の民家』などを見ると、こんなにも地域ごとの生活の違いが建築の違いに現れるのか、と驚かされます。


一方で現代建築ではどうでしょうか。
都心のオフィスビルやマンションなどでは鉄・ガラス・コンクリートがメインの材料として使われています。

いずれも工場で原材料から精製したものを、現場で組み立てていきます。
そしてその原材料はというと、日本だけでなく海外から安く輸入することもしばしばです。
建設も企業が担い、全国各地から集まった職人がプロジェクトごとに現場に振り分けられています。
自分の家や職場を建てた人を知っている、という人を探す方が難しいくらい、住み手とつくり手の距離は遠くなっています。

この差はなにかというと、物流の発展がもたらしたものですね。
昔は海外から材料を輸入する方法もなかったし、身近な資源を活用するのが一番コストが抑えられたわけです。
しかしものを運ぶコストが格段に安くなった現在においては、相対的に材料費が高くなった。
鉄やガラスの原材料は元々日本に十分な資源がないから良しとしても、豊富な資源を有している木材まで、海外から輸入した方が安いという理由で日本の木材が活用されなくなってしまった。
結果的に管理されずに放置されたスギ材が花粉被害を生んでいる、といったことにつながるわけです。
ちなみに現在の物流の基本は、第一次世界大戦までに整備されたもの。
特にドイツでは、国境への兵器輸送のために鉄道網の整備が急ピッチで進められましたが、輸送の歴史は戦争の歴史と密接に結びついています。
だからロジスティクスという言葉に、兵站と物流管理の双方の意味が含まれているわけですね。

さて、物流が発展して町並みはどうなったかというと、地域性は失われ、どこに行っても、それこそ世界中で同じような建築がつくられるようになった。
これはすべての人に快適な生活を提供することを目指した近代化運動の成果ではありますが、無個性な町を生み出したことに対しては反省する動きが起こっています。
言うなれば大量生産される野菜に不信感をもち、地場産の有機野菜にスポットがあたるのと同じような流れ。

各国の固有の建築・町並みの保存や復元、またそれらを観光資源として活用する動きがありますね。
これは近代建築が世界規模で広まったことによって、反動で地域固有の建築物の価値が上がったことで生まれたものと捉えることもできます。
またこうした各地での同時発生的な動き以外にも、建築家個人の活動の中にロジスティクスを重点課題とする建築家も。

たとえば新国立競技場などで有名な隈研吾さんは、日本各地の公共建築を数多く設計しています。
そしてその材料として地場産の木材などを活用することで、地域に産業を生んでいる。

また、より若い世代としては能作文徳さんの活動などに注目しています。
能作さんは長崎県五島市の「さんごさん」というゲストハウスの設計で、地元の職人さんと、地元の材料や建設技術を使って、住民の方とコミュニケーションを取りつつ設計・建設を進めていくという方法を取りました。
建築はたくさんのモノが集積してつくられているものですが、モノ自体に意味をもたせることで、建築のもつ意味も変わるのではないか、そんな試みですね。

このように、建築を構成する材料がどこからどのように運ばれて、誰に組み立てられたのかといったことを考えてみると、不動産であるはずの建築を、物体の流れとして捉えることができます。
ある点において先進的な建築家の活動をウォッチすることは、これからの都市や建築が進む先を展望することにもつながります。
ぜひあなたの身の回りの建築も、そうした視点で観察してみてください。

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