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第二十一話 ザリガニじゃなくて、サソリだよ

朝、ホテルの外で歯を磨く。空気が綺麗だ。そして朝の空気はひんやり冷たい。草むらが多いせいか、蚊も多い。蚊を気にしながら、「うがい」をする。すると同じように起きてきた、昨晩のニュージーランドのカップルと出会う。
昨晩の事を恥ずかしそうに話す女性。男の人にもお礼を言われる。
 まあ、お礼を言われたので、良い所だと思ってくれたのでしょう。二人にはそんな空気を感じるような人柄が滲み出ていた。
そして三人で一緒に朝食を取る。 
 
 食事が終わると僕は、遺跡についての事をホテルのオーナーにでも聞いてみようかと訪ねに行く。
そこでまた別の、一人の女性に声を掛けられる。

「ハーイ!あなたもここへ?いつバガンに来たの?」
フランス語訛りの英語。坊主頭。誰だろう??

「昨日の晩、ここに到着したんですよ。ところで、え〜と、あなたは……、あ!」
僕は失礼のないよう過去の旅の記憶から、彼女の事を思い出そうと必死に努力する。
が、実は意外や意外、彼女、その前の町マンダレーの同じホテルに宿泊していた女性でした。

何故直ぐに思い出せなかったかというと、マンダレーに居た時は綺麗な金髪の長い髪だったのです。それがこの数日の間にベリーショートどころか、完全な坊主になっていたのです。

「あれ?髪を切ったのの??あんなに綺麗な髪だったのに!」
照れくさそうに、笑う彼女。

 話しを聞くと彼女、フランスに居た頃から「ZEN」などや「YOGA」に興味があり、アジアへと来たそう。すでにインド、ネパール、チベットなどを経て、タイ、そしてビルマへと来ていたのでした。

そんなアジアに滞在するうちに、仏教思想に傾倒し、遂に頭まで丸めてしまったようです。綺麗な髪がもったいないな〜。

 例の一緒に来た日本人(今後、彼の名前は仮に「武三」くんとしておきます)と彼女と僕、三人で仏教思想についてなどを語り合う。
武三くんの実家は寺との事で、やたらと詳しい。彼女もハマッてるので、勿論詳しい。
僕は知識としては勉強していたので、話せる程度で二人には敵わない。更に英語は英語でも、聞いた事ない単語の連発で、次第に僕は眠くなる。
まるで大学の講義を聞いているように。

僕はそのままソファで眠っていた。
 
 そんな話しが二時間(たぶん)ほど続いた後、武三くんと僕は遺跡へと向かう。歩きや、確か自転車などという手段もあったのだが、馬車というものがあったので、僕らはそれをチョイスする。

 なんか小ぶりのポニーみたいな馬だったと思う(ロバではなかったと思う)。それで遺跡までの道を行く。
面白いのがこれ、「馬糞用」に馬の後ろに袋がついているんですよね。きっと道端に馬糞が散乱するのを防ぐ為に。

よく考えたものだな。

 そんな馬車に乗り、暫く進む。

すると道の左手を中心に遺跡群が見えてくる!すごい!赤い大地の上にそびえる沢山の遺跡群。修復など、まだまだこれからというような状態で、ホントにすばらしい。僕らは馬車を降り、遺跡へと向かう。おっと!固い何かを踏んだ。
「ん?」僕はゆっくりと足をどける。
「ザリガニ?」
いや、サソリだよ!これ!
サンダルだし、刺されたらヤバい。
よく見ると、至るトコにサソリがいる。
気をつけないと。


 遺跡は大小様々、沢山点在する。中に入ると、仏像が安置されてる。壁面のレリーフの大半は剥がれているが、残るものもある。色素も一部確認出来る。中は半分ガレキの山といったところ。崩れかけていて、天井も落ちそうだ。
僕らはそれぞれに何かを発見しようと、遺跡内部をうろつく。
すると僕は高さが腰より低い穴を見つける。
「なんだこれ?」
穴を覗き込むと奥へと繋がっているようだ。体を横にして、入りこむ。
するとそこから上に階段が続いている。人、ひとりがやっと通れるようなスペース。
そこから上に行くと、なんと遺跡の外、遺跡の上へと繋がっていたのだ。
「すげ〜景色!」
僕はここから遺跡を眺める。
 
 ここが遺跡ではなく、生きていた時代。どんな感じで、どんな生活が営まれていたのだろうか?
 
 僕は考古学の仕事をしていた時も、常日頃こう考えながら仕事していたのだけど(この仕事の人が皆そう)、
やはり現代に遺跡となってしまった姿でなく、「これ」生きていた時代がこの目で見れたらたらなあ。
いつもそう考えてしまう。
 そしてこんなに素晴らしい物を作った人々の、文明も滅びている。人間の文明とは儚い夢だなあ。。
雄大な自然の中に佇む、かつての偉大な文明の跡。夢の跡。
静かに何かを語っているようだった。
 
 さあ、次は「レイク・インレー」少数民族も少なくない、山岳方面へと向かう。
武三くんと共に。

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