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龍孫江の「畏れながら申し上げます」

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「口を開けば唇寒し、ただ皆様は温かし」 そんな気持ちで数学、または数学から学んだことについて語って参りたいと思います。お代はいりませんがお捻りは歓迎でございます。
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記事一覧

「待った」をしたい日々──数学科へ進む人たちへ──

 さのたけとさんの記事「数学者を目指す」を読み返して,自分の二十代,つまり研究者としてなんとかやっていきたいと思っていたころをふっと思い出した.

 自分がなんで研究者になれなかったかといえば,全体的にいろいろ足りなかったからという一言に尽きる.「待った」をかけてやり直せるなら,もうちょっとうまくやれる気はする.さすがに今から数学科に戻って学生生活をやり直そうとかは思わないけれど,今から足腰を鍛え

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ゆるゆると数学を楽しみたい人のために

ゆる~い数学好きのためのイベント ここ1か月ほど,時折思い出しては考えていることがあります.それは「ゆるゆると数学を楽しみたい人のために自分に何ができるだろうか」という問いかけです.

 ちょうど1か月ほど前に,『笑わない数学』の書籍版(もうご覧いただきましたか? まだの方は是非お求めを)を一緒に作ったライターさん,編集者さんと会食する機会がありました.そのとき何度か「ゆる~い数学好きのためのイベ

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令和5年もいろいろありましたね

 令和5年もあと6時間を切ったところで慌ててこの記事を書いています.今さら「年が変わる」ことに大した意義を見出す必要があるのかどうか,ぼくにはよくわかりませんが,それでもみんなで揃って「年が変わったことにする」という行為そのものには意味があるように感じています.

 最近のぼくは何事にも「絶対的な価値」みたいなものをどんどん感じなくなっていて,代わりに「人々が皆で何かを取り決めて実行する」というこ

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自前の場所を持ちたいと

5月に大阪の Sou数学ラボ にお邪魔して以来,自前の数学関係の作業部屋(YouTube動画の撮影場所)兼人を集められるスペースを持ちたいという願望が離れない.サイトで店舗物件を眺めてみたり,レイアウトを考えてみたり,あれやこれやと考えてしまっている.

現実的にそこで何をするか,ということになると,ぼく自身は数学の勉強をしたりYouTube動画を撮ったり,将棋を指したり並べたり,ご要望とあれば数

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これから暮らす知らない街でむさぼり読んだマンガの話

3月31日,めしばな刑事タチバナの最新刊が出た.

第1巻を手に取った日のことをぼくははっきりと覚えている.それは2011年3月31日,まだ東日本大震災の争乱冷めやらぬ春の日のことだ.

なぜそんなことをはっきり覚えているのかと言えば,その日は,生まれて以来30年近く住み続けた愛知の地を離れ,川崎市多摩区で新しい生活を始めた日だったからだ.当面の着替えを詰め込んだ大きなリュックを背負って立った新幹

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新企画「龍孫江の直観精読」始めます!

 拙YouTubeチャンネル「龍孫江の数学日誌」では,開設以来3年の間,題材をほぼ代数学に絞ってきました.代数学も細分すれば群論,環論,体論とあり,それぞれ毛色の異なる興味深い理論ではあるのですが,3年も続けていますと作り手としても新しいことにチャレンジしてみたい欲求がわいてきます.

 まあ,3年と経たずに「新しいことを!」と考えては「はじめての可換環」や「数学科への数学ガイド」などの新企画を打

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単純な世界で,文化的雪かきになるには(定期購読マガジンおまけテキスト)

夏の始まりに,その終わりを欲する

 夏生まれだが夏は嫌いだ.幸いぼくは8月の終わり(ともに1ではない異なる2つの立法数の組で表される日)の生まれで,高校生くらいまでは「自分の誕生日からは秋だ」と言い聞かせてきた.

 ちょうどその頃,夏休みが終わるちょっと前くらいから学校祭の準備が始まり,そこから2週間ほど夏の名残りのエネルギーを使って学校祭まで駆け抜けて,そのあと少しずつきちんとした秋がやって

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ひとり戦う勇者さんへ

 今日のお返事するメッセージは,既に1週間もの間ぼくの受信箱に留め置かれていました.言い訳めきますが,決して忘れていたわけではありません.マシュマロを開いては,いかにお返事しようか悩み,また悩んではいったん閉じることを繰り返しているうちに1週間経ってしまいました.例によって考えの足りないところは多々あろうかと思いますが,ぼくの思うところを率直に綴ります.

卒業はできます,きっと 文面からは年齢や

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数学界隈に足がすくんだ方へ

 こんにちは,龍孫江です.今回は,ぼくにではなく結城浩さんに寄せられたお便りなのですが,いささか気になる話題でもあり,勝手ながら一言お返事を述べようと思い筆を執りました.

 ぼく自身,いわゆる数学界隈をのたくっている一人でもあるわけで,当人としては揉め事や炎上とは無縁な穏健派と自認してはいるものですが,今一度ここであってほしい姿を描いてみたいと思います.

人間のすることは まず,Twitter

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「スター」数学YouTuberを求めて

 以前,二つ名について書いたことがあります.YouTubeで活動するようになって約1年,キャラクターを端的に伝えられる二つ名がほしいな……と欲をかいて書いた記事でしたが,未だ手頃なものも思いつかないままそれから2年が経ってしまいました.(なお,今一瞬読み返して,読者の皆さんからご意見を募るのはともかくとして,良いものがあればチャンネル名を変えるとまで書いていたことは忘れており,当時の自分の前のめり

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5月の大学1年生へ

5月の大学1年生へ

 数日前,お手紙が届きました.

大学1年,5月 質問してこられた方はおそらく,この4月から大学に入学して最初のGWを過ごされたことと思います.入学後の1か月というと,まだ親しく話せるような友達もさほどおらず,あれこれと講義を詰め込んで手に負えなくなりかけ,またせっかく選んだ数学科なのに想像とはちょっと違う……といった,環境に慣れるだけで大変な時期ではなかったでしょうか.それでもなんとか1か月頑張

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数学書の読み方:定義・定理となかまたち

 数学を学ぼうと思って数学書を紐解くと,定理○ や 定義○.○ といった小見出しつきの段落がたくさん並んでいることに気づかれることでしょう.これらの小見出しは数学書(に限らず数学を扱う文章全般)において,その構成を読み取るための重要な情報を与えてくれています.

 主だったものを列挙してみましょう.

定義 Definition (略号:Def. Defn.)

定理 Theorem (略号:Th

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数学を学んで得られるものに関する私見

久しぶりにマシュマロ箱(匿名でメッセージを送れるサービスです.龍孫江へのメッセージやご質問はこちらからどうぞ)を覗きましたら,大変なご質問が届いていることに気が付きました.

お悩みの事柄は質問者さんの心中に,大変な時間をかけて奥深くまで根差しているように見受けられます.そのようなお悩みに対して,一朝一夕に思いを巡らせて得た,つまり思い付きに毛が生えた程度の対策をここで披露しても容易に問題の解消に

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