パワハラ

「もしもお前が俺に個人的な恨みでもあって俺を苛立たせたいがためにこんな低調なパフォーマンスをしているのなら、その目論見はかなり成功していると思ってくれていい。完璧と言ってもいい。お前の残念な仕事っぷりでチーム全体が多大なる迷惑を被っているし、その責任をとるのはお前ではなく俺だからだ。
オリンピックにそういう、俺をいらつかせる競技があったとしたら間違いなくお前は金メダリストだろう。向こう１０年間は敵なしだ。国の英雄になれるよ。地元にお前の銅像が立って、商店街の通りにお前の名前がつくはずだ。だが生憎今ここではそういう類の催しはやっていない。したがってメダルを渡すわけにもいかない。銅像が立つこともなければ商店街の名前も変わらない。心優しい俺がメダルの代わりに与えてあげられるのは叱責ぐらいのもんだ。
個人的な本音としてはお前にはもう何も頼みたくないしできることなら顔も見たくないんだが、そういうわけにもいかない。いくら俺が両手をあわせて信心深く星に祈ったところで、俺たちがあと４０日間は同じ空間で過ごさないといけないという現実はひっくり返ってくれない。お前にやってもらわなくてはならないタスクもある。なぜなら仕事を割り振るのは俺の役目ではないからだ。もしそのポストに就いていたらお前にはきっと部屋の掃除だけを命じていたんだが、そういうわけにもいかない。憂鬱だよ。ただでさえ不味い宇宙食がさらに喉を通らなくなりそうだ。
お前が倍率４００倍の試験を突破して今この場にいるということが俺にはどうしても信じられないんだ。本当に試験を受けたのはお前だったのかな。優秀な替え玉を用意することと、火星探査機を指示通りに動かすこと、難しいのはどっちなんだろう。まあ何はともあれお前が今ここにいて、やるべきことがあるわけだ。俺もその事実と向き合わなくてはいけない。
俺がお前に求めることはたった一つとてもシンプルなことで、迷惑をかけないでほしいだけなんだ。なにも時速３０キロのルームランナーを走りながらウィンドウズ９８のパソコンで３分以内に国防省に痕跡を残さずハッキングしてくれなんて頼んでいるわけではない。では迷惑をかけないためにはどうすればいいか分かるか、指示通りにやればいいだけさ。ここに来る前にヒューストンでやった訓練を思い出してくれ、あれと全く一緒だ。やるべきことをやればいい。そして願わくばやるべきでないことはやらないでほしい。俺はお前のことをゲイリーオールドマンだと勘違いしているわけじゃない。要するに気の利いたアドリブなんて求めていない。地球の周りをただよう衛星のように、おとなしくしていてもらえると大変ありがたい。
そのように振るまってくれれば俺は何も言わない。感謝の言葉を告げたくなるかもしれない。元来、俺は気の弱い男なんだ。本当なら人に注意する役目なんて向いていない。俺をこんな風にいイヤミったらしいネチネチとした男にさせているのはお前の行動によるものなんだから、今だって心が痛んでいるし胃に穴が空きそうだよ。そういう保険に入っていたっけな。ミッションが終わって家に帰ったら確認してみるとするさ。それじゃあ、部屋に戻ってくれ」

「くそが！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！宇宙飛行士であんなパワハラしてくるやつおかしいだろ！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！宇宙飛行士って！！人格者であるべきだろ！！！！！！！！！！！！まじで！！！！！！！！あいつの宇宙服に穴空けたろうかな！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！」