妻が乳がんだとわかったのは法人設立1週間前、娘は1歳。そこからわかった個人事業主に伝えたいことと、1年経ってわかったこと
こんにちは、森部(@moibeimori)です。
2017年の3月17日妻は、乳がんであると告げられました。
心配をさせてしまうといけないので結論から言うと、早期発見と適切な医療のおかげで妻は順調に回復し今はとても元気に過ごしています。
ただ1年前の今頃は先のことなど考えられない状況でした。
何せ治療の影響で指1本動かせず、言葉を発することすらできない妻がそこに寝ていたのですから。
まだ卒乳をしていない一歳の娘を抱え、その日々を送るのは恐怖でしかありませんでした。
働き方を見つめ直してみる
僕たち夫婦はアメリカの準医療資格であるアスレチックトレーナー(ATC)という資格を元に僕はロルフィング®、妻はヨガを提供しています。
聞き慣れない資格かもしれませんが、単に「鍛える」ということではなく、体が整うことで心も安定していく。その気付く力を大切に育んでいくボディーワークというものを提供している体と心の専門家夫婦です。
そして現在は体に対してのアプローチだけではなく、個人サロンや治療院がどのようにしてより多くの価値を提供し、多くの人に愛され継続して事業を営んでいくかということもお伝えしています。
日々健康を伝える仕事をしている中で私たち夫婦に訪れたこのニュース。
これを聞いたとき娘はまだ1歳。そして個人事業主から続けてきたこの仕事をさらにもう1歩進めるための会社を立ち上げる1週間前の出来事でした。
この渦中にいるときの様子は、個人ブログのほうに記載しています。
なぜこのノートにこれを書き残しておこうと思ったかというと、先日なかなか夜に眠れない娘をおんぶして散歩しているときに様々な思いがよみがえってきたからです。
その時に連ツイしたものはこちら
(連続ツイートを埋め込むと前のものも含まれてしまったのでながくなってしまいました!)
1年前の僕たちと同じように個人事業主として活動されてる方もいらっしゃれば、今まさにこの病と向き合っている方もいらっしゃるでしょう。そしてその家族を支えている立場にいる方もいらっしゃるかもしれません。
その方たちに直接というよりは、まだこういった状況に直面しなくてすんでいる方たちに伝えたいことがあるのです。
はじめに申し上げておくと、ここではがん自体の治療のためにどの医療行為が良いとか代替療法が良いとか、また逆にそういったものはよくないとかおお伝えするつもりはありませんし、そういったコメントも求めてはいません。
ここでお伝えしたい事は、普段わたし達が仕事を通してお伝えしていることになります。
それは
「大切な家族に何かあったときにあなたは自由に動くことができますか?」
という問いかけです。
前述のように僕たち夫婦はもともと個人事業主として活動をしていました。そして活動の幅が広がってきたのでいよいよ法人化という手はずを踏んでいました。
法人化をするといっても誰かを雇って、というような形ではなく、今まで各々がやってきた仕事を1つにまとめ会社組織とすることにより、さらに継続的に今までのお客様を包括的にサポートしていくことを目的としていました。
これを読んでくださっている方たちがどういったお仕事をされていたり、バックグラウンドを持っているかわからないですが、個人事業主と聞くとどのようなイメージをお持ちでしょうか。
恐らくこれは個人事業主をされている方とそうでない形ではイメージが異なるのではないかと思います。
個人事業主に対するイメージ
これは僕自身がよく言われることでもありましたが個人事業主は自由だ、と思っている方が多くいらっしゃいます。
もちろんこういったコメントは個人事業主ではなくお勤めの方から言われることです。
確かに自分自身が事業主であるので多くの意思決定は自らの判断のもと行うことができます。
嫌な上司もいませんし、満員電車に毎日乗る必要もありません。
しかしながら明日の仕事がどうなるか、1ヶ月先にも今の仕事を続けることができているのか、もしも自分の身に何かあったときには何の保証もない、そういった不安を抱えている人も非常に多いです。
僕も例外ではありませんでした。
個人事業主として活動されている方の多くの不安要素は、自分自身が稼働していないと収入を得られないということです。
フロー型かストック型か
これは何も個人事業主だけに限らず日本のほとんどの中小企業はストック型ではなくフロー型のビシネスモデルを採用しているからという風にも言われています。
1回買い切りモデルがフロー型、継続課金モデルがストック型ととりあえずは思っておいてもらって良いです。
フロー型は1回こっきりのお付き合いをどれだけつなげていけるか、ですから毎回購入後に一度その流れが途絶えてしまいます。だから忘れられないように継続的にコンタクトをとり、馴染みの店になってもらう。
それに対してストック型は継続課金型なので、1回1回のサービス提供で顧客との関係性が切れない。
今の世の中で大きくビジネス展開をしているところは、必ずと言っていいほどこの継続課金型を上手に活用していますよね。携帯の料金しかり、会費しかり。
フロー型のビジネスモデルではそういった意味での安定感というものは生まれません。
しかし多くの個人事業主はこのビジネスモデルを選択しています。選択肢ているというよりもストック型のビジネスモデルに対する考え方や理解度というものが深くはないのです。
なぜなら今までの人たちはフロー型で自分たちの仕事を成り立たせていたからです。
インターネット以前と以後の世界の違い
おそらくこの辺の考え方はインターネット以前の時代に仕事を確立させることができていた人と、インターネット以降の時期に仕事をすることになったひとのでは異なるのではないかと思います。
昔はフロー型でも十分に収益を上げることができていたのでしょう。なぜならば自分の生活範囲ぐらいの情報を知り得ることがなかったから。だから自分の生活圏内で頼りになる人を見つける。
そうなると、それぞれに小さな経済圏があり
「野菜を買うなら〇〇さん」
「魚を買うなら☓☓さん」
「体を診てもらうなら△ △先生」
「写真を撮ってもらうなら□ □さん」
といったように、といったようにその地域に属していることがそのままビジネスとして確立していたわけです。
しかし今の時代はちがいます。
9割以上の人がまずその店を訪れる前に検索をかけるとも言われています。インターネットの発達により、外の情報を簡単に得ることができるようになりました。
そのため、自分が求めているものをてにいれるためには多少の移動距離は問題ではなくなりました。
また扱っている商品やサービスにおいてはそもそも移動することなく完結してしまうこともあります。
インターネットがこれほど一般化していなかった時代を知っている人間からすると、すごいことです。
ですが、ほとんどの個人事業主(または小規模法人)は継続性のあるストック型ではなく、1回1回買い切りのフロー型のビジネスモデルで行っているわけです。
地域に根づいた店舗を構え、長年の歴史があり、その地域の生活を支えていて、さらには人員が充分にいて、客単価も高い、という所であれば自分が倒れても、自分の大切な家族に何かあった時にも対応は可能でしょう。
しかし、多くの場合はそうではないのです。
自分が稼働するのをやめた途端にパッタリと収入が途絶えてしまう。
はっきり言ってこれは恐怖です。
これは恐怖です。
大切なことなので2回言いました。
これは恐怖です(3回目)。
妻と一緒に今まで行ってきたことを継続的に提供していく為の枠組みを作り、さらには新しい事業にも展開していくことを考えていたわけですがそれらがすべて白紙になりました。
これからどうやって仕事をし、収入を得ていくのか。
そんなことが心配になるのはもう少し先になってからです。
まずは入院の準備
ですがその前に、やはり抗がん剤に対する恐怖が大きかった。
何を予期していたらいいのか、何を準備したらよいのか。
主治医の先生にお時間をいただき、様々な疑問をぶつけました。そしてその時に妻は、標準医療を選択しその効果を最大限に活かすために、その他の手法として食事に気をつけたり、私たちの仲間に身体を整えてもらったりという事を選択しました
繰り返しになりますが、どの治療法が良いとか悪いとかをここで論ずるつもりはありません。
私たち家族は、現代医学のチャンピオンである標準医療を治療の軸とすることを定めました。
1つ言えることは当事者である患者(妻)が、自分で決断できなければこの先は進めないということ。
そして、家族としてその決断を100%サポートしていく、という決意がなければ仮に世界最高の治療を受けていたとしてもこの先は乗り越えられない。
そう考えていました。
色々と主治医に疑問をぶつけるために質問を考え、ノートに書いて準備をし、実際に説明していただいている時に色々と書き残していたのですが、やはり気が動転していたのでしょうね。書いている事が支離滅裂で後日また確認させていただくようなこともありました。
授乳中の子供がいるからこそのこと
乳がんにも色々なタイプがあることをこの時初めて知りました。
妻の状況としてはリンパにも影がありそれがガンかどうかは五分五分ということもあり、まずは抗がん剤でがん細胞を小さくしてから、手術をして残った細胞部分を取り除くということになりました。
抗がん剤を使用するとなると、授乳はできません。
授乳中は乳がんにはならない、という都市伝説のようなものがあるようですがそんなことはありません。実際妻はなったので。
娘は当時1歳半。妻が不在で僕が寝かしつけをする時はおっぱいがなくても寝ていたのですが、妻がいる時は安心材料としておっぱいをのみながら寝ると言う感じでした。
我が家の方針としては、辞める時は自然に辞めるだろうから本人がほしいと思っているのであれば、離れるときまでは好きにさせてあげようと決めていました。それも大切な母と子のコミュニケーションだから。
しかし薬が母体に入るとなると事情はことなります。娘にとってみたら突然やってきた断乳。
ですから泣き叫びます。
お母さんがそこにいる。
だけど、いつまでたってもおっぱいがもらえない。
もちろんそこにいたるまで、まだ言葉を理解するわけではないけれど、診断がくだってから毎日のように語りかけていました。言葉はわからなくても、大切なことだから。
でも実際は違いますよね。
そして娘が泣いている姿をみると、妻も辛い。
それから毎晩僕は娘をおんぶして1時間ほど寝かしつけの散歩。小さな体で何のことかわからず泣き続けている娘をおぶっての時間、そしてそれをみて苦しんでいる妻をみているのは僕も辛かった。
そして、問題は夜だけではありません。治療がはじまってからは日中もほとんどの時間、家にいる必要が出てくるのです。
いつ、仕事に出るか問題
最初の3ヶ月で使っていた抗がん剤はかなり副作用がきつかったので、投薬後の妻は最初の3日間は全く動けない状態。4日目から徐々に動き始め10日目で霧が晴れるような感じ。それを3週間おきに。
ですから投薬後の4日目くらいまでは家に常にいて、5日目くらいからは娘を連れ出し妻が一人でゆっくりできる時間をつくり、10日目をすぎてから少し仕事に出るという生活でした。
しかし、妻の体力も治療によって奪われていますので、いくら10日を過ぎると霧が晴れるといっても妻が1日中娘の面倒を見られるわけではありません。
本当にこの頃は5分歩けば息が切れる、というくらいに妻の体力は奪われていました。
幸い実家が近いので、預かってもらうこともありました。しかし親も高齢ですし、身体的にも万全というわけではないので、そちらにも極力負担をかけないように、、、となると自分がどうにかするしかいないのです。
でも、自分が稼働をしていないと収入が途絶えます。
妻が治療を始めた時には、登記もおわり法人となっていましたが、働かなければ収入がないのは個人も法人も一緒です。
わかりますか?
出口がないのです。
幸い、僕はかなりの体力があります。
結構責任感も強い。
火事場のクソ力もかなりのものを出せます。
だからどうにか乗り切りました。
でもどうやったのか覚えていません。
もう一度この時期を同じようにやり過ごせ、と言われても無理です。
結構きつかった。もう覚えてないけど。
仕事に出られないなら、ちょっとしたタイムラグをつくる
ただ、仕事の仕方は工夫をしました。
それは料金を前金で頂く、ということ。
冒頭で書いたように、僕は身体の専門家です。
収益の多くはプライベートセッションでしたので、セッションが終わった時にお支払を頂く、というスタイルでした。
これを前金制にしました。ありがたいことに、長くお付き合いのあるクライアントの皆様なのでこの点は大きな問題はありませんでした。
仕事に出られるのは妻の投薬が終わってある程度動けるようになる10日後から次の投薬までの10日前後の期間、しかも1日あたり家をあけられるのは数時間。
だから、ご予約は先に頂いているけれどその分の代金は先にお支払頂く形。
それにより、とりあえずの資金をプール出来るようになるから。
また、セミナー・ワークショップも行っていたので先々のスケジュールを立てて、お金が入ってくる流れをつくりました。
セミナーやワークショップも数種類過去にもおこなっているので、提供できるコンテンツがあったのは大きいです。
僕が幸運だったのは、こういった形をご理解いただけるクライアントの皆様にかこまれていたこと。
そして、幾つかの柱があり柔軟に対応することができたこと。(それでもなかば強制的であり、無理やりなところもありましたが)
しかしこうしたことにより、当面稼働する時間は少なくともどうにかなる形でこの時期をやりすごすことができました。
働き方を見つめてみて欲しい
仕事がら、僕の周りはトレーナー、セラピスト、インストラクター、治療家という方々が多いです。
そしてそのほとんどの方は、1対1のプライベートセッションや、1レッスンいくらという形で仕事をしています。
自分が稼働していなかったら、収入が途絶えるモデルです。
これは、常に個人事業主として活動している方たちから聞かれる不安でもあります。
「今はいいけど、何かあったら」
「今はいいけど、いつまで続けられるか」
家族になにかあったとき、もちろん一番たいへんなのは患者となっている当人です。
しかし、同時に家族にも多くの負担がのしかかります(負担なんておもっていないんですが)。
家族は「第二の患者」と呼ばれます。僕もこの時になって初めて知った言葉です。
患者当人と同じように、仕事、プライベート、人間関係などに大きな影響がでるから。
よりかかれる場所はたくさんあったほうがいいです。
自分ひとりで頑張る必要はありません。
でもそれもこれも、まずは自由に動ける働き方を選択しているか、ということから始まるのではないかと思います。
もし僕が会社員として勤めていたとしたら、今回どのようにして対応していたのかは想像することができません。
仕事を突然休んだり、調整したりもできないでしょうし、給与を前借りするような形だってそうそう取れないでしょう。
ただ、僕は会社勤めをしているわけではないので、正直そのあたりの詳しいことはわかりません。おそらく現在お勤めの方も、実際にそういうことが起こったらどれだけのことを会社が都合つけてくれるかはご存じないと思います。
結局のところは、その時にできるベストのことを選択し、やり続けるしかないわけですが、多くの個人事業主の方々とお付き合いをさせていただいていると、家族に何かあった時に身動きがとれない形で仕事をしている人があまりにも多い。
今すぐに何かをかえられるわけではないかもしれません。
でも今からでも、考え始め行動に移してほしいと思います。
・いくつかの収入の柱をもっておく
・稼働していなくても売上がたつ形を考える
・もしもの時にどう対応できるのかシュミレーションしておく
・蓄えがどれくらいあるのか確認しておく
・入っている保険があるのなら何がカバーされているのか確認しておく
(入りっぱなしで今の状況にふさわしくないものも結構あるので必要なら見直し)
などやれることはたくさんあります。
今すぐに変えられるものではないかもしれません。
でも考えはじめてください。
直面する事になってしまった場合、なかなか気持ち的にはきついです。
不安です。恐怖です。
しかし、知らないから不安になり、不安が恐怖を呼び起こします。
そして、私たちはなろうと思えばどこまでも不幸になることができるのです。でもそれでつまらないのは自分です。自分の人生をわざわざ不幸で染める必要はありません。
正直、渦中にいる時はしんどい。
だけど、選択権はいつも自分の手の中にあります。
僕は自分自身常に
「どんな自分でいたいのか。辛い、しんどいと言っている自分か、1年後に家族3人で笑っている自分か」を問いただしていました。
答えは明白でした。
どうしたら、より良い形がつくれるのか。
どうなっていたらより安心な形なのか。
もしこの記事を読んでくださったかたは、ぜひ考えはじめてください。
そして、ご家族と対話を重ねてみてください。
我が家もまだまだこれから
我が家もまだまだ模索中です。
色々なトライ&エラーを繰り返しています。
ただ、一つ言えることは今はずっと家族でいる時間が増えています。
仕事についてもより一層メリハリが生まれています。
フロー型に頼らないストック型の仕事をつくりはじめています。
我が家は、妻の乳がんにより急遽さまざまな事柄に直面することになりました。
同じような思いをする方がいないのが一番です。
しかし、こういったことは誰の身にだって起こりえます。
準備をしておこうと思っても完全にできるものではないかもしれません。
だけど、何もない時に少しだけでも今の状態を振返り、何かあった時にどれだけ対応できるかな、と考えておくことで変えられるものがあるのなら、考えておくべきことがあるのなら、ぜひ行ってほしいと思うのです。
大切なあなたを守るため。
大切な家族を守るため。
乳がんに向き合っている方へ:
妻の治療は現在も続いていますが、お陰様で全てが良い方向にすすみ、元気に過ごしています。そして仕事にも今年から少しずつ復帰しています。
妻も身体の専門家、特に動きを導き出すプロフェッショナルです。
乳がん患者の方のお悩みの一つが術後の腕の可動域制限だと言われています。なかなか元の状態に戻らず大変な思いをされている方もいらっしゃる。
妻も治療と手術を経て、大変な思いもありましたがプロとして、同じように苦しむ方に可動域回復のために提供できることを考え、それを動画配信しています。
詳しくはこちらのページをご覧ください。
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