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ポッドキャスト「余白な学校」〜はじめまして!(前編)rokuyouのこと〜

rokuyouは学校の中でウェルビーイングを育む重要性があると考えて、オープンに学びと学校を研究する場として、ポッドキャスト「余白な学校」を、NPO法人青春基地とともに始めました。このポッドキャストは、公立高校の中で新しい学びづくりを実践研究している学びの研究者たちが様々なゲストをお招きし、オープンに学びや学校について考えていく番組です。
Apple MusicやSpotifyなどお好きなプラットフォームからお聞きいただけます。

青春基地は、「生成の教育学(Generative Pedagogy)」の考え方をベースとして、個を活かす教育と学びをつくる組織です。「生まれ育った環境を越えて、ひとりひとりが想定外の未来を作る」をビジョンに掲げ、東京と長野の2拠点で公立高校の中で学びをつくっています。青春基地とroku youは、ビジョンや考え方が繋がっているだけでなく、「生成」と「SEL」の考え方は相性が良いと感じています。

ポッドキャストでは、「ウェルビーイング」と「余白」をキーワードに、新しい学びと学校の在り方について考えていきます。

ポッドキャストで深めていきたい「ウェルビーイング」と「余白」

学校において重要なことは「ウェルビーイング」を育むことではないかと考えています。ウェルビーイングを育むために、私たちが着目しているのが「余白」です。余白こそが、人がなにかを生み出したり、創造したりするきっかけになります。

どうしたら学校に余白を生み出せるだろう。
そもそも余白ってなんだろう。

私たちはそんなことも深めていきたいと思っています。ポッドキャストのタイトルを「余白な学校」としたことも、私たちのこうした願いが込められています。
※詳細は青春基地のnoteをご覧ください。

ポッドキャストの初回である今回は、rokuyouと青春基地の自己紹介、また私たちが協働に至った背景をお伝えしていきます。rokuyouの下向依梨と玉城哲真、青春基地の石黒和己さんと佐野真知子さんの4人で対話している様子をお届けします。
rokuyouについてはこちらの記事をご覧ください。

メンバー紹介

石黒和己 NPO法人青春基地の代表
愛知県出身。中学と高校はシュタイナー教育の学校に通う。その影響もあり教育に興味を持ち、下向と同じ慶應義塾大学総合政策学部に入学。在学中に青春基地を立ち上げる。

佐野真知子 青春基地スタッフ 
北海道出身。大学院時代から青春基地に参画。現在は青春基地と高校教員(家庭科)の二足のわらじを履く。

下向依梨 株式会社rokuyouの代表/日本SEL推進協会理事長
大阪府出身。慶應義塾大学の慶應義塾大学総合政策学部を卒業。アメリカのペンシルベニア大学では発達心理学を学ぶ。沖縄県を拠点に全国の学校にSEL推進を行う。

玉城哲真 株式会社rokuyouラーニングクリエイター
沖縄県出身。高校生に向けた探究学習の授業の実施を担当。大学卒業後、大阪府の小学校で教鞭をとり、その後rokuyouへ参画。

青春基地×roku you協働に至った背景

(石黒)和己:
2021年夏からroku youと青春基地の協働がスタートしました。(下向)依梨さんと私は同じ大学学部出身で、ある時考え方や学びへの視線について対話する機会があり、依梨さんの話に私は深く共感したんです。そんなきっかけから、沖縄の公立高校で3日間のワークショップを共催しました。

(下向)依梨:
「一緒にやろう」と話した2ヶ月後ぐらいには実現して、現場を共にしましたよね。

和己:
そこでの場作りがめちゃくちゃ面白くて!

依梨:
バチンと合うところがありました。「合う」というのは、お互いに少しずつ違ったピースを持っていることだと思っています。今回は、「合致するところ」と「合う理由ともいえる、お互いが持っている異なるピース」について明らかにできるといいなと思っています。

和己:
地域は違うけれど志が似ていて、感じていることや感覚を共にしながら一緒に学校現場の学びを作っています。1年半ほど協働してきましたが、意外と知らないところもあるのかなと思っているので、インタビューをし合う回にできたらいいですよね。早速、rokuyouの皆さんへのインタビューを始めます。

教育に関わることになった背景

(佐野)真知子:
依梨さん、(玉城)哲真くんが教育に関わることになったきっかけや原体験を教えてください。

依梨:
両親が元教員で、私が生まれた頃にはすでに二人で教育の教材を作る会社を営んでいたので、食卓で飛び交う会話は教育のことばかりでした。そうした環境の中で教育に関するアンテナや課題意識が私の中で育っていて、公立の学校に通う中で違和感を覚えたり、 画一的な指導に疑問を抱いたりするようになっていました。

こうした背景の上で、教育に携わることになったのには2つの原体験があります。1つ目は幼稚園の時の出来事です。「世界の国旗を描こう」という時間があり、私は「自分で国旗をデザインして描こう!」と思ったんです。しかし、先生はサンプルを元に描き写すように指示していたのです。私が自由に国旗を描いて提出したら、「話を聞いてなかったの?」と否定されたことがありました。その時に絵を描くことが嫌いになり、実は未だに嫌いです。これは些細なことで人は道を遮られてしまうことがあり、その後の人生に影響があると実感した出来事です。

2つ目は、小学生の時の発達に課題のあるクラスメイトとの出来事です。私は誰にでも世話を焼くのが好きな子どもだったので、その子の隣に座っていました。ある日の給食で菓子パンが出てきた時に、その子が面白いかじり方をして、私にドヤ顔で見せてきたんです。かじった後のパンの形が北海道にしか見えなくて、私はつい嬉しくなって「先生! 〇〇くんが北海道をパンで作った!」と報告したんです。すると、その子がめちゃくちゃ嬉しそうな顔をして。私は人が輝く瞬間を作るのが好きなんだなと、その時に思ったんです。今振り返ると、この体験から人の可能性や持っている価値に胸が熱くなることに気づき、教育の分野に興味を持っていきました。

(玉城)哲真:
僕は「将来先生になりそうだね」と言われて育ってきました。大学は外国語を専攻し、留学に行く予定でしたが、留学に行けなくなってしまったので、2年生の後半からは中高の教員免許が取得できる教職課程を取りました。当初はなんとなく選択したのですが、3年生の春には教育という学問に惚れ込んでいました。それまでは、学びに対してはやらされているような感覚を持っていたのですが、教育のおもしろさに魅了されてからは小学校の教職免許も取り始めました。そして、大学卒業後は小学校の教員になりました。

和己:
小学校の先生はどれぐらいやっていたんですか?

哲真:
4ヶ月でダウンしてしまいました。僕は新型コロナウィルス感染症が流行し始めた時期に教員になり、1クラス40人の児童が3分の1ずつ登校し、お互いの顔もわからないまま半年過ぎるような状態でした。大学で学んだ教育を実践に移したいと思いながら、まったく思うような実践ができず、モヤモヤがたまってしまい、自分自身を立て直すことができず、学校現場を去ることとしました。図らずも、最後の出勤日は子どもたちが企画をしてくれた僕の誕生日会。しかし、子どもたちには僕が辞めることは知らせない方がいいという学校側の方針に従って、誕生日を祝われる中、最後の挨拶もできないまま辞めていくことになりました。これは、今でも辛い思い出です。

和己:
どういう経緯でrokuyouと出会ったのですか?

哲真:
沖縄に帰ってきて、「子どもが可能性に気づく瞬間を作りたい」と思い、学びの場作りやプログラミング教室を開いていました。依梨さんとは共通のコミュニティで出会い、roku youでともに教育を作っていきたいというアプローチをしていく中で、高校の青春基地との協働事業から正式に関わることになりました。

和己:
その日は哲真くんにとってもミラクルな日だったんだ!学校の先生から学校の外側から学びを作る立場になったのですね。

哲真:
はい、小学校の先生をやった後には、その経験を活かして外部から公教育を支えられるような存在になりたいと思っていたので、実は今は夢叶い中なんです。

和己:
依梨ちゃんも小学校の先生をしていた時代があるんですね。

依梨:
私はオルタナティブスクールに勤務していたので一条校(学校教育法第1条に定められた学校の種類のこと)ではありませんが、東京都で2年生の担任をしていました。

和己:
どれくらい働いていたんですか?

依梨:
1年間くらい。私も短い期間でしたが、探究学習に力を入れているという点が今携わっている仕事にもつながっています。素敵な学びでもあったのですが、同時にそこになにか足りないものがあるとも感じていました。絶対的な何かが足りないというよりかは、自分が表現したいという意味で足りないピースがあると感じていたので、それを追究することが今の仕事にも活きていると思います。

和己:
小学校の先生を辞めてからrokuyouを立ち上げたのですか?

依梨:
小学校の教員を辞めた後、フリーランスで仕事をしていました。 HLABさんやさまざまな教育の組織と一緒に学びの場作りをしていたんです。SELをもっと推進していきたいと思っていたタイミングで、とある学校から声をかけてもらい、SELを取り入れたPBLプロジェクト型の学びを一緒に行うことになりました。お取引を始めるには法人格が必要だということだったので、1人会社をつくりスタートしました。

和己:
roku youが拠点を置く沖縄という場所はすごく特別な場所だと思うのですが、依梨ちゃんは沖縄にゆかりがあったんですか?

依梨:
何にもないです!結論からいうと、感覚で沖縄にきて会社を立ち上げました。言語化すると、魅力と課題が詰まった、面白すぎる土地だなと思ったんです。東京で教育に関わることに私自身が限界を感じていた頃、長野の小布施に通っていました。1つの土地に根付いて何かをやるということに面白さを感じ、自分にとってすごく価値があるなと思っていました。ただ、小布施という場所に根をおろすイメージは持てず、「自分の土地を探そう」と思っていた時に、たまたま泡盛の魅力と出会いました。沖縄には昔からよく遊びに行っていたこともあり、月10日ぐらい沖縄で過ごしてみようと思いつきで住んでみると、人も文化も他のエリアとは異なる独特の面白さがたくさんありました。こんなにパワーのある土地なのに学力的な厳しさが叫ばれていて、教育にトラウマや劣等感を抱えている人たちがいることはとてももったいないと思うようになりました。

具体的な会社の取り組みの話になりますが、私たちは沖縄県内の5校の高校で探究学習の授業の伴走をさせてもらっています。教室の中だけでは手触り感のある体験や経験が少なく、いいアイデアがあっても深まりきらないことがあります。アイデアを深めるためにも、リアルな体験を提供しようと、夏休みのフィールドワークを実施しました。トピックは沖縄の魅力や課題に設定。roku youのラーニングクリエイターが自分で胸が熱くなれるトピックを持ち寄って7種類のフィールドワークを開催しました。

例えば、授業の中で「米軍基地」というトピックは私も生徒たちも気になっていました。

しかし、日頃は沖縄では触れにくい話題でもあります。そこで、この際思い切って米軍の方々をお呼びし、対話するフィールドワークを行いました。フィールドワークを通して、沖縄の高校生は深い問いを立てる力と、偏見に捉われない能力があると感じました。roku youが沖縄に拠点を置き、価値を提供することができたと感じた取り組みでした。

※夏休みのフィールドワークに関してはこちらの記事をご覧ください。

哲真:
現在の沖縄の中高生は社会によく目を向けてると感じています。課題意識を持つ視点をベーシックに持っているように思うんです。例えば、環境問題でいうと、自然発生的にビーチでごみ拾いをする子が増えたと感じます。アクションを起こしやすいですし、実際にアクションしている子も多いイメージがあります。海が近いことや基地が身近にあることで、社会課題に対して当事者意識を抱きやすいのではないでしょうか。当事者意識を持って語ったり行動できたりする子が多いのはとても素敵なことだと思います。

依梨:
沖縄ならではのよさがある一方で、語弊をうみたくないのですが、沖縄は日本のスタンダードに並ばないといけないという意識も強く、東京で作られてる教科書を使ったり、東京で作られたシステムに乗っかったりしている印象も受けます。元々素晴らしいカルチャーを持っているのに、全国で一元化された教育が学校内に流れ込み、うまく取り込まれていないのも課題だと思います。

SELの可能性とは?

和己:
続いて、SELについても聞いてみたいと思います。 roku youが推進しているSELとは何か、改めて教えてください。

依梨:
日本語では、SELは「社会性と情動の教育」と訳されています。自分の中には自然に気持ちの揺れや動きが生まれます。自然な反応として生まれてくる気持ちを抱きしめることが「セルフアウェアネス」です。気づいて抱きしめるというのは、例えば「自分が悔しいと感じたのは、その奥に自分に対しての期待があったからだ」といった自身のニーズに気づくことを指します。また、自分だけではなく他者が持っているニーズに気づいた上で、どう接していくのかを考えて意思決定をすることでもあります。簡単にいうと、人間の反応や気持ちに気づいてそれを大切にする学びだといえると思います。

※SELの詳細はこちらの記事をご覧ください。

和己:
依梨ちゃんにとって、SELの魅力はなんだと思いますか。

依梨:
人間が人間らしくあれることです。先生と生徒といった立場や役割は一旦横に置いておき、1人の人間として等身大であれることに価値を置いた学びといえます。個々に生まれる感情に対してもよい・悪いの評価はしません。これをノンジャッジメンタルといいます。子どもも大人も感情に対してノンジャッジメンタルであり、一人の人間として公平なコミュニケーションに重きをおいている点が魅力でしょう。

和己:
私たちもエリちゃんたちと出会ってSELについて知る中で、改めて学校は役割や評価などが多い傾向があると思います。こうした文化の中で、感情は煩わしいもの、邪魔なもの、ネガティブなものとして扱われてることが多いですよね。

依梨:
そうですね。生徒の気持ちだけではなくて、先生たちの気持ちも無下に扱われていて、学校の空気、風土の中に血が流れていない、そんな印象を持っています。

和己:
本来はエモーショナルなものに目を向けるだけでも価値があると思うんです。律するもの、邪魔なものとしてさけるのはむしろ不自然だというか。みんなで感情について扱い、その中で学びを深めていこうとすると、より深い部分にまでたどり着ける。roku youと協働し、それが面白いと思いました。

哲真:
僕は余白は自然にできるものだと思っています。自然にできるものだけれど、それが生まれるきっかけを作ることは重要で、その鍵を握るのがSELではないかと思っています。SELが重視しているノンジャッジメンタルやセルフコンパッション、自己受容などが掛け合わさって、はじめて心の余白ができるのではないでしょうか。

SELの必要性を感じる場面とは?

和己:
SELの重要性を感じるのは、例えばどういったシーンでしょうか。

依梨:
探究学習の中でもSELが重要だと思うシーンはたくさんあります。先程の米軍基地の話に繋がるのですが、どんなことに取り組んでみたいかプロジェクトの種を探す時に、最初は生徒たちが”それっぽいこと”を書くんです。学校でOKが出やすそうなテーマというか。

依梨:
例えば、「マイプロの種」として平和と公平と書いてる子たちがいました。「これどういう意味?」と質問すると、「今、アメリカと日本との関係性が……」という答えが返ってきました。その子たちの声じゃないというか、その奥に本当の声があるなと思って、掘り下げて聞いていくと、「これ絶対先生に怒られるから書けないんですが」という前置きをしてから、「ぶっちゃけ米軍が気になるんですよね。基地とか入ってみたいし」「あの人たち、実際オスプレーのことどう思ってるの? 私たちはそこまで反対を表明しているわけではないけれど、めっちゃ反対されてんのに飛ばすのとかメンタル強くない?」というような話をしてくれました。出てきたこれこそがリアルな声だと思うんです。なぜ本当の声を聞かせてくれたかというと、私と共にしている空間に対して彼らが「余白」を感じてくれたのだと思います。ジャッジメンタルな評価を交えた指導の下では、本当の声は非常に生まれづらくなります。そういったところでSELがすごく必要だなと思っています。

和己:
進学校や熱心に勉強に取り組んでいる子たちの方が、「こう答えたら大人は満足するだろう」ということを知っていて、空気を読んで私たちのために回答してくれることが多いんです。でも、それはすごく切ないですよね。

依梨:
うん、とても切ない。彼らの本当の声はめちゃめちゃ面白いのに、と思います。

哲真:
もう一つの側面としては、「私はできません」と自分で自分にレッテルを貼ってしまっている子こそ考えるのを諦めていると感じています。

和己:
学校という場所が正解を求めてしまうようなコミュニケーションばかりを続けていたら、先生たちが喜ぶような模範回答ばかりを探す生き方をしていく危険性があるとも思います。

真知子:
依梨さんが「子どもたちの声が本当に面白いんだよ」と話していたのが印象的で、インサイドアウトする学びは、自分の本当の声や感じている気持ちをあるがままに出してくことをすごく大事にしてると思います。最後にインサイドアウトの学びが子どもたちにとってどういう意味や可能性があるのかを教えてください。

依梨:
自分が本当の声を出せる環境に対しての安心感を持っていることに、自分自身が気づくことだと思います。声を出したことに反応があったり、対話が生まれたりすることによって、ある種の自信や安心感が生まれていき、信頼や生きている心地みたいなことを感じていく営みができるのではないかと思います。究極的に目指していることは子どもたちのウェルビーイングで、信頼や心の関係性が豊かにあるということに繋がっていくのではないかと思います。

和己:
ここまでの流れを踏まえて改めて思うことは、全ての子どもたち、全ての人たちが、いろいろな能力や可能性を持っている前提で相手を信じていくことの重要性です。それがスキルなどの形として現れる人もいれば、見えない形のケースもある。しかし、必ず全員が持っている。それをどうしたら引き出せるか。あるいは、出しづらい状態にある環境や関係性をどうしたらほぐせるかというアプローチが根源的には流れているように思います。

依梨:
多様な困難を抱えている学校や先生、子どもたちに対しても本当に可能性を信じています。そこは、絶対譲れないポイントです。

和己:
そこが、私たちが1番共感してる心の根っこで繋がってる部分だと思います。互いに関わり合うことによって、 ミラクルが生まれていくだろうワクワク感を改めてお伝えしたいと思いました!

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