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野菜をめぐる話

こんにちは、いとさんです。

こちらへ来てからほぼ毎日お肉を食べる生活をしています。渡亜後、半年も経たずに体重が6kg増加しましたので、この先も増え続けたらと考えてぞっとしたことを覚えています。食生活にはあまり気を使っていませんけれど、慣れ親しんだ家庭の味には必ず野菜がありましたので、事あるごとに野菜が食べたくなります。

アルゼンチンの野菜は日本で買うよりも安く手に入ります。しかし、不格好なものに出会うことが多いのです。日本のスーパーでも時々面白い形に成長した野菜を見かけますけれど、頻度はあまり高くなかったかと思います。色々な選定を経てスーパーに並んでいる野菜たちはいわば先鋭部隊であり、ビューティーコンテストを勝ち抜いてきたのです。消費者に手に取ってもらいやすいように見た目が美しく、そして大きさもなるべく揃えられています。

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どんな野菜の何が気にかかったのか、さっぱり忘れてしまいましたけれど、アルゼンチンに来て間もない頃のこと、野菜が痛んでいると思い込んだ時がありました。それは“野菜の個人差”と呼べる程度のものだったのですけれど、どうも疑わしく思っていますと、アルゼンチン人に「自然のものなんだから、形が違ったって当たり前でしょう。」と言われてはっとしました。大阪の都会とも田舎とも言えないところで育ちましたが、自分の心は自然に寄り添っていて、私はそれが自分のアイデンティティのように思っていました。けれど実際はきちんと”商品化“された野菜しか知らなかったのです。

これはショックでした。知らない間に自分が何かに支配されているような感覚になり、悔しいような恐ろしいような、よく分からない気分になりました。日本の農業が発展していて、野菜がコントロールされている中で育っているということを恐ろしいと思ったのではありません。「自分はそれしか知らない」ということに気付いていなかったことに驚き、同時に恐ろしく思ったのです。世界中で起きている事件と並べれば、とてつもなく小さくてどうでもいいことですけれど、私にとっては大きな事件でした。

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見た目とは関係なく、味が劣るものとも出会すことがあるのがアルゼンチンです。時々心底がっかりすることがあります。ある日トコトコと歩いていますと、何処からか甘い匂いがふわふわ漂ってきますので、匂いの主を探していましたら、verdulería(八百屋)の店先に並んだ真っ赤なfrutilla(いちご)に辿り着きました。見る限り良く熟れているようで匂いも申し分ないですから、少しも迷わずに購入しました。帰宅してから早速いちごを綺麗に洗って一口頬張ってみますと、味が全くなくて拍子抜けしました。いちごまでもが色香を放つラテンアメリカ、怖いところやわと思いました。

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アルゼンチンでは八百屋を利用することが多いです。大体はお店の人に欲しいものを言って野菜を選んでもらうシステムなのですけれど、スーパーのようにずらりと並んだ野菜を自分でカゴに取り、レジに並んで支払うというセルフサービスのお店もあります。自分の基準で野菜を選べますから、野菜の目利きができる人はハズレを引く可能性は下がります。トマト、ジャガイモ、とうもろこし、レタスなど野菜の種類は豊富ですけれど、お鍋に入れるような野菜はあまり見掛けません。時々Pak  Choiと名付けられたチンゲンサイ、Repollo chinoと呼ばれる白菜にお目にかかりますけれど、あまり需要がないからか取り扱っている八百屋は限られるようです。中華街に行けば、オクラや大根なども手に入りますけれど、そう頻繁に行くところでもないので私の食卓に上ることはほぼありません。

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アルゼンチンで育てられている野菜は、農薬がたくさん使われていると何処かで伺ったのですけれど、水とお酢、それから洗剤も入れてしばらく野菜をつけおいておくという方法で野菜を洗う人がいるのを見ました。アルゼンチンに住む人がそこまでするのであれば、やはりもう少し自分も対策しなくてはいけないのかと思いますけれど、農薬というものは匂いも見た目も何も特徴がありませんから、どうしたものかと思っていました。結局八百屋で買ってきた野菜も水で丁寧に洗うか、或いはお水と酢を混ぜてつけおくくらいしか出来ません。

知人がオーガニックの野菜のデリバリーを利用しているというので、私も試してみることにしました。6〜7kg前後の旬の野菜を600〜750ペソで届けてくれます。毎週火曜日が配達の日なのですが、在庫があれば前日に連絡しても届けてくれます。大きな土嚢袋に入った野菜を自宅まで配達してくれますから便利です。届けられた野菜を保存するために洗ったり切ったり茹でたり、配達日は毎回忙しくなります。

アルゼンチンはインドとほぼ同じくらい広大な国土がありますが、人口はインドの30分の1程しかありません。全国民の胃袋を満たす為の野菜を自国で育てることは難しいことではないようです。またアルゼンチン北部パンパにはチェルノーゼムと呼ばれる土があるそうで、これは土の皇帝という異名を持つほど栄養豊富なのだそうです。世界の市場競争からは孤立している様子のアルゼンチンですが、この資源を大事に使いながら地球と生きていく穏やかな道を選んで欲しいと思うこの頃です。

いとさん

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