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キリンの平山さんと「わたしたちは何のために企業を主語にした情報発信をするのか」を話しました

企業noteの先輩でもあるKIRIN公式note。読み応えのある記事がたくさん書かれており、お手本として私達も参考にしています。どんなことを考えてコンテンツを作っているのかを知りたくて、ロート公式note編集部がお話を聴きにきました。

 ご応対くださったのは、「オウンドメディア進化論」を上梓されたばかりのキリンホールディングスの平山さんです。この春で、キリンnote4周年、ロートnoteはリニューアルして2年、先輩に胸を借りるように、いろんな問いを投げかけ、しっかりと受け止めていただきました。

 このnoteにはこんなことが書かれています。

・理想は「オウンドメディア」がなくても伝わっている状態
・老舗メーカーならではの意外な挑戦を内外の”間の視点”で編集する大切さ
・ヒトを通じてコトが伝わる波及力

いずれの点も、私たちと同じく、ものづくりに励む企業で働く方や、人々のライフスタイルの変化がビジネスに影響する方に、役立てていただけると感じています。ぜひ、最後まで読んでいただきたいです。

左より、柴田・平山さん・山田

平山 広告会社を経て、2012年より昭文社にて『ことりっぷweb』のプロデューサーとしてコンテンツ企画、SNS戦略、コミュニティ戦略など全般を担う。2018年キリンホールディングス入社。2019年「キリンビール公式note(現KIRIN公式note)」を立ち上げ、オウンドメディアを軸にした企業コミュニケーションの戦略を担う。
 
柴田 ロート製薬 広報・CSV推進部 / 人事総務部兼務。2013年入社。企業として社内外のコミュニケーションと共に採用からオンボーディング、学びの機会の創出などに取り組む。
 
山田  ロート製薬 戦略デザイン本部 / プロダクト&ブランドマーケティング兼務。2020年11月入社。商品企画から企業ブランディング、組織のデザインなど様々な取り組みに従事。

柴田:きょうはよろしくお願いします。同じくnoteで企業のオウンドメディアを運営しているもの同士、「その先」を聞きたいと言いますか、運営者目線で、かなり踏み込んだ質問をいろいろとお持ちしました。
 
平山:うまく答えられるかどうかわかりませんが(笑)、よろしくおねがいします。

1.最終回のイメージはある?

 柴田:いきなりですが、「キリン公式noteの、最終回のイメージはありますか?」という問いからお聴きしてみたいです。けっして最終回を迎えてほしいわけではなく(笑)、ビジョン的にどういう状態を目指していらっしゃるのか最初に知りたいです。

 平山:最終回というわけではないんですが、オウンドメディアというのがなくても“伝わっている状態”が理想だと思っています。

 ブランドが確立している企業にはオウンドメディアが無いんですよ。たとえば、今手にしているスマートフォンとか、社会的な問題に真っ向から向き合ったメッセージを広告で打ち出しているスポーツアパレルブランドとか。これらの企業は、自社の発信しているミニマルな情報と、広告とで充分コミュニケーションが成立しているんです。

 僕たちなりに頑張ってはいますが、まだそういう状態に至っていないので、オウンドメディアを運営しています。企業の内部に伝えたいことがあり、それを見つけてきて、社内外の双方に伝えることがオウンドメディアの大きな役割だと思っています。

 そもそも、noteだけで全ては伝わりきらないと思っています。うちでいえば、ビールを飲んだり、紅茶を飲んだりといった商品を通じた体験に加えて、YouTubeや、テレビCMなど、いろんな情報の断片が積み上がって、企業のイメージが作られていますよね。そういった意味では、note単体で何かをすべて伝えようとしてしまうと、ズレてしまうと思う。

 綿密な取材をしなくても、自分たちが組織を理解して言語化もできていて、メンバーが同じ方向を目指し、しかもそれが外に伝わっている状態になっているのが一番理想ですよね。わざわざ手間をかけなくても、自然に伝わっているのが、本来的な企業体としての健全さだと思いますね。

2.自社の魅力を掘り起こす外からの視点をもつこと

山田:キリンさんの活動を拝見していて、商品や広告、オウンドメディアなど多面的に伝えていく重要性に、とても共感します。ロートは、昔からテレビCMのイメージから、ハトや目薬のイメージや、企業として老舗の安心感を良く感じていただいていると伺うのはいつもうれしいんです。

 でも実は、目薬にとどまらず、スキンケアや食、再生医療など幅広い領域から「美と健康」を支えるために、「挑戦」し続けている。そんな姿勢やこれからの可能性がもっと世の生活者の方に伝わったら、新しいことを一緒に作れるし、もっと期待していただけるんではないかと。

 でも社内ではあまりに沢山の芽が動いていて、それをストーリーに紡いで、企業のパーソナリティーとして、伝えきれていなかったんです。

柴田:あの、平山さんにとって企業の情報発信に「理想の状態」があるとすると、今はどれくらい達成できてるんですか?

 平山:ようやくスタートを切れたくらいじゃないですか。山登りの一合目にすらたどり着いてないです。

転職してきた私の感覚では、キリンの中に、まだまだ表に出ていない魅力が沢山あると思っているのですが、打ち合わせの場で、メンバーに良さを伝えたときに、自覚がなかったりして「あ、そこが面白いんですね!」という気付きにつながることが多いです。

 これまでに僕が面白いと思った観点が、すべて当たって、バズに繋がっているわけではないんだけど、メンバーがピュアに活動していることの中に、自覚できていない自分たちの価値や魅力は、まだまだあると思います。

 柴田:うちでもまさに似た状況がよく起こっています。特に最近キャリア採用で、外部の感覚を持った方がすこしずつ増えてきているのですが、ロートの「異常さ」にびっくりされることが多いです。老舗と呼ばれながらも、ベンチャー企業のようなスピーディな仕事の進め方をナチュラルにやっていたりとか。

平山:「異常さ」ってすごい。そんなにギャップがあるんですね。

柴田:社長、会長が同じワンフロアで働き、ロートネーム(社内のあだ名制度)で誰でも声かけらたり、オープンスペースで打ち合わせをしていると、「何のミーティング?」と入ってくださったり。そんな距離感には驚かれることが多いです、アイディアの段階で相談もできるし意思決定も早い。一般的な企業に比べて社内の決裁の数かなり少ない気がします(笑)

そんな社内で当たり前だけど、外から捉えるとおもしろい考えや取り組みだと思うものはもっと積極的に掘り起こしたいですね。いち事例としてみなさんとシェア出来たら、というか。自分たちが仕事に没頭してしまっていると、外に対してその価値がブラックボックス化しちゃってるような気がしています。

3.外部の目線を求められてきた

 柴田:平山さんも、入社をされて4年半くらいでしょうか。編集する上で、外部目線というか、客観視が大切になると常々思っているんですが、だんだん馴染んで来ちゃってたりしてませんか?

平山:もちろん、入社前と比べると、知ってしまうというか、把握している情報量が増えてしまったとは思います。ですが、転校生のような感覚は、常にありますね。

 柴田:(笑)間にいる人というか。

 平山:そうそう。間(あわい)の人というか。なので、僕に対しては、外部の人としてどう見えるか、などと意見を求められる機会が多いと感じています。

4.石橋がしっかりしているからこそ、チャレンジングなことを実はできている

 平山:我々のような老舗は、ステークホルダー、関係者が多いですよね。だから、どうしても慎重に物事を進めることが多くなります。石橋をたたいて渡るようなイメージですね。 

でもそれは良さでもあって。「石橋」がしっかりしているからこそ、チャレンジングなことができているとも言えます。一長一短ですよね。 

柴田:平山さんのお話を伺うたびに思うのですが、会社のことが客観的に見えていらっしゃるし、どうしていったらいいかを、常に考えていらっしゃいますよね。

平山:転職してきた僕にとって、それまで、いち消費者として抱いていたキリンのイメージと合っている点もありましたし、意外に思う点もありました。ものづくりの現場にふれるたびに、姿勢が真摯だと感じましたし、そこから派生して生まれるカルチャーまで意識をしていることに驚きました。

たとえば、「午後の紅茶」という商品がそうです。 清涼飲料水ですが、紅茶についてきちんとしたフィロソフィーを持っているんです。紅茶そのものをないがしろにせず、大切に扱うことで紅茶文化が栄え、ひいては商品も盛り上がる・・という考えを持っています。

 そういった、社会的な価値を大切にしているところはとても素敵だと感じます。社会の一員としての会社だということが、キリンで働く人たちの自然な感覚としてあるんですよね。「CSV先進企業」という言葉を掲げる、はるか昔から備わっているようで、プロジェクト、商品、マインドにまで価値観が行き渡っているし、そういう価値観を信じる人たちが多いというのが僕の感動でした。

 入社したあと、事あるごとに、キリンが大切にしている価値観に触れて「これを、外に出していかなきゃいけないな」と思えたことからオウンドメディアの企画を練り始めたんですよね。

5.個々のスタッフが自ら執筆するスタイルへ

柴田:今のお話を伺っていて感じたのですが、最近は、編集する私達のような立場だけでなく、社内のあらゆる部署のメンバーが発信し始めてもいいのかなと思うようになってきています。

平山:わかります。紹興酒ブランド「永昌源」の企画では、キリンオリジナルで作ってるコンテンツもあるんですが、永昌源の営業チームが自らnoteを書いています。個人でアカウントを作ってもらって、月に5本ぐらい、お客様のお店紹介をしていて。営業メンバーがひと月かふた月に1本、noteを書くんですよ。次第に、みんなの文章を書くスキルが上がってきているのが面白いです。

柴田:わたしたちはまだそういうことはできていないんですが、考えてみると、ロートには「語ることのない部門」ってなさそうです。たとえば私が1を聞こうとしら10帰ってくるんですよね。どのチームも情報発信をやる可能性はあると思います。
 
みなさん、どうやって書けるようになっていくんですか?
 
平山:文章がうまくなるコツは「伝わる」気持ちよさを味わうことですね。自分で書いた記事への社内外からの反響を目の当たりにすること。そうすると自発的に「物語れる」ようになります。ここをやれるかどうかが、大きな節目だなと思いますね。

6.これから手掛けたいコンテンツは

 柴田:平山さんは、これからどんなコンテンツを手掛けていかれるんですか。

 平山:よりいっそう未来のことを語るようになると思います。「入社3年目の従業員が何を考えてるか」というのと、 新規事業を担う部門を追いかけるもの。あと、もう一個いいと思っているのは「キリン出身者の新しいチャレンジ」。 

山田:へえ!おもしろいですね。

 平山:入社3年目の中堅に差し掛かる葛藤や、新規事業というゼロイチを立ち上げるワクワク感など、いろんな視点が集まると、キリンの「人感」がよりリアルに伝わっていくと思いますし、さっきおっしゃっていただいた、この「船」はなんか面白そうだ、と思ってもらえることに繋がっていくといいと思っています。

7.人フォーカスが読み手の共感の間口を広げる

山田:商品とかブランドの方が知られているのに、あえて、人にフォーカスを当てていくことは、私たちもやりたいんですが、やり切れていません。なぜ、平山さんは人を出していこうと考えるんですか。

平山:人にフォーカスした「わたしとキリン」という、社員にインタビューする企画があります。このシリーズは、商品やサービス起点ではなく、あくまで「どう働いてきて、どう働いていくか」であり、人を起点にしたコンテンツです。

やはり人は人に興味があるということなのでしょうか。扱うのがどんな職種であっても、一定数の読者がついてるんですよね。一方で、商品を入口にしてしまうと、その商品の認知度やファン数に引っ張られることがあります。

また、商品ブランドについて語ろうとする際には、広告のメッセ―ジをなぞるような企画は基本的にやらないようにしています。ブランドに関わる人の中から、noteに出てもらえるとよさそうな方にお声がけしています。例えば「本搾り」なら、果実を調達している人への取材をするとか、切り口を変えて、つくっています。

8.なんのために伝えるのか

 山田:これも大きな問いなんですが、あえて話してみたいと思うのは、私達は、何のために伝える必要があると思いますか?

ロートは、お客さんとか、パートナー企業さん、これから一緒に働くかもしれない仲間たちに、このロートという「船」に乗りたいと思ってもらえたり、期待してもらいたいと思っています。これからどんな新しいことをやるのか、ロートの原動力がこういうところにあるんだよっていうのを、伝えていきたくて。

平山:ほぼ同じだと思っています。まだまだそこには到達できてはいませんが、そういう空気が醸成されているメディアを目指したいですよね。

スピードを上げて社会が変わっていく中で、メディアを通じて、同じ視座の人たちが自然と集まってくるような場所になるといいな、と思っています。

場所の規模は小さくとも、同じ視座の人が集まることで「次の一手」に繋がることはあると思っていて。だから「続く」ことが大切だと感じています。

編集後記

 企業ブランディングと気負わず、むしろ老舗企業の様々な「顔」や「表情」を見せることがコミュニケーションのスタート地点として種をまくことになるんだなということを腹落ちさせていただきました。

良い意味でのギャップをオープンにしていくことで、社員一人一人やチームとしての原動力の結集で、読み手の方に次の一手を期待してもらえるような挑戦をし続けたいなと思いました。

ロートはもともと、未来・社会の課題に着目し、問いを立てたり、一石を投じながら築いてきています。アイデンティティだからこそ、企業を伝えることには終わりはないのだろうな、と改めて感じています。

もちろん事業を運営していくうえでは、商品やサービスを購入していただけるように、機能や効果効能などを丁寧にお伝えすることも必要ですが、実は組織としてもっと広義に健康を捉えている。「社会の健康」を見据えた時には商品の説明以上に丁寧に、時に長文で伝えていくことも必要だからこそ、noteなどメディア・プラットフォームが担う役割も大切にしていきたいですよね。

この想いに共感し、未来に向かって歩み続ける船に乗ってみたい、と思うには、私たちも自己紹介が足りていないよな、と素直に思いました。企業によって課題やフェーズは異なるけれど、共に学び合える仲間がいることは心強く、希望でもあります。

コラボレーションすることで共に未来に向かえるのであれば、今後も引き続きご一緒できたら嬉しいな、と思っています。

お読みいただき、ありがとうございました。SNSなどで、感想をお寄せいただけたらうれしいです。すべて読ませていただきます。このnoteを気に入ってくださった方のために、ロート公式noteの更新情報をキャッチしていただくためのTwitterアカウントもありますので、フォローいただけると幸いです。

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