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「ボランティア情報2019年8月号・市民文庫書評」『ポピュリズムーーデモクラシーの友と敵』カス・ミュデ、クリストパル・ロゼラ・カルトワッセル著 永井大輔、高山裕二訳 白水社 定価2000円+税

『ポピュリズムーーデモクラシーの友と敵』カス・ミュデ、クリストパル・ロゼラ・カルトワッセル著 永井大輔、高山裕二訳 白水社 定価2000円+税

評者 那須里山舎・白崎一裕

 今回の参議院選挙は、盛り上がらない選挙と言われた。しかし、ネットを中心に話題をあつめたのが、れいわ新選組とN国党だった。どちらも通常の政治団体として選挙戦にのぞみ、あっという間に当選者を出し、そして「国政政党要件」を満たすこととなった。


 これらの団体の盛り上がりに、後追いする大手マスコミは「ポピュリズム(大衆迎合主義)」の躍進と、否定的なそして皮肉をまじえた論評をしたものが、最初は多かったと思う。「れいわ」と「N国」の評価はさておき、報道機関を中心に良く聞かれる「ポピュリズム」とは一体何だろうか?というのが本書の主題である。このポピュリズムを大衆迎合主義と訳した段階で、否定的な価値判断のにおいがプンプンする。しかし、本当に、「大衆」に「迎合」しているだけの存在なのだろうか。本書では、ポピュリズムを構成する三つの中核概念で説明を試みている。その三つの概念とは「人民」「エリート批判」「一般意志」である。この三つの概念は、評者の解釈では、マスデモクラシー(大衆民主主義)に対する批判的論点として提出されている。大衆民主主義には、議会制と政党制そして選挙により代表者を選ぶ代議制が、そのシステムとして内包されている。そして、これらのシステムは世界各国で機能不全に陥っている。その空隙をうめるように登場してきたのが「ポピュリズム」というわけだ。形式的には民主主義であってもその内部から危機的状況がせりあがってきている。先の三つの概念は、この民主主義の危機を解読するためのキー概念なのだが、それは、思想史的にはルソーの『社会契約論』の問題意識に重なっている。だから、この三つの概念は、『社会契約論』の重要概念の「一般意志」から考えるのが正しい。『社会契約論』の第三章「一般意志は過ちうるか」にはこうある「一般意志は、全体意志とは異なるものであることが多い。(略)全体意志は私的な利益を目指すものにすぎず、たんに全員の個別意志が一致したにすぎない。あるいはこれらの個別意志から、過不足分を相殺すると差の総和が残るが、これが一般意志である」。


マスコミの「支持する政党はどこですか?」という調査・アンケートに対して「特に支持する政党はない」がいつもトップになることは、当たり前になっている。この無党派層には、政治に無関心という層も必然的に含まれているだろう。こんな状況でおこなわれる選挙では、私的な利益を代表するそれぞれの「政党」が集まって議会で多数決をとるが、これは、ルソー的には私的な利益の集合体である「全体意志」にすぎない。本当の一般意志は、個別意志のぶつかり合いで(過不足を相殺して)はじめて一般意志があらわれることになっている。ここで、はじめて、みんな(人々)は一般意志に自分たちの意見が反映していることを自覚することとなる。現在の大衆民主主義に「みんなの一般意志」が反映しているとはとうてい思えないだろう。だから、無党派・政治に無関心層が多数派となる。その無党派の人たちは、自分たちは「政治の外部」にあると思う。その外部の人たちをそのままにして、私的利益の総体を引っ張っていく一群の人たちがいる。それが「エリート」だ。 「エリート」は、私的利益の誘導体だから、権力を自分たちの都合の良いように使い腐敗しやすい。こうしてポピュリズムは、エリート批判・エスタブリッシュメント批判を強めていく。次に「人民」だが、「政治の外部」にある人々ではなくて、自分たちで政治の主権を取り戻した人々が「人民」と呼ばれる。また、この「人民」にはエリートに対抗する意味で「普通の人々=庶民」という意識も含まれている。


こうしてみてくるとポピュリズムとは、大衆迎合ではなくて、民主主義を再構築する起爆剤ともいえるのではないだろうか。しかし、いまだそれは、抽象的な可能性にとどまっている。ルソーは、人民主権を維持するためには、定期的な「人民集会」を開催して、自分たちの主権を奪われない努力をする必要があると言っている。
ルソーは、「人民集会」をひとつの例として、選挙制度以外に、民主主義を自分たちの「自治の道具」に作りかえるための多様な道具立てをつくろう!と私たちに呼びかけているように思える。直接民主制、裁判、ビラまき、デモ、人々が連帯するためのボランティア活動などなどが、その道具立てとしてあげられるだろう。
この道具立ての先に 本当の「ポピュリズム」は、「いまここから」始まるのだ。

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