見出し画像

【チグハグ感の正体】Monthly Review 2021 Vol.6【Partido a partido】

手が届きかけた宿敵の背中は、再び遠のいてしまった。

しかし、それと同時にこれは伸びしろであり、マリノスがもっと強くなるための試練でもある。これを乗り越えた先の道筋をはっきりと捉えた1ヶ月間でもあった。

今ある課題から目を背けないこと、試練の中にあるポジティブな光から目を背けないこと、こうした強い想いを持ってこのMonthly Reviewを記す。

どうか最後までお付き合い願いたい。

【対象試合】


▼試合数:4試合
▼成績:2勝1敗1分け 7得点5失点


vs広島(Away) 3-1(Win)


vs名古屋(Away) 1-2(Lose)


vsえふしー(Away) 2-2(Draw)


vs湘南(Away) 1-0(Win)

8月と比べるとややペースダウンしたことは否めない。ただし、アウェイ4連戦というエクスキューズを忘れてはならない。

【チグハグ感の正体】


押し込めない。

8月との決定的な違いはここにある。相手を敵陣に押し込み、即時奪回を繰り返しながら何度も攻撃を仕掛けることで試行回数を増やし、その結果として点が取れる。失点のリスクを鑑みても、自陣ゴールから遠い位置でプレーし続けることができるため、失点数が飛躍的に減少する。

8月までにはできていた好循環が、この4試合ではなかなかできなかった。

これについて、①相手チームの視点と②マリノスの視点に立って原因分析をしたい。そこから見える現在のマリノスの課題と、このチームがもっと強くなる可能性を探る。

~①相手チームの視点~


相手あってのサッカー、だからこそ、マリノスのパフォーマンスだけでは試合は決まらない。多かれ少なかれ相手チームの影響を自然と受けてしまうものだ。

そもそもマリノスと対戦するチームからすれば、マリノス相手に押し込まれて即時奪回を繰り返される、いわゆるサンドバック状態に陥ることは最も避けたいはずだ。

とにかく全体がズルズル下がらないようにするため、縦にコンパクトな陣形を形成しつつ浅めにラインを設定することで、ライン間に入ってくるトップ下のマルコスやボランチ、サイドバックに自由を与えないようにする傾向が強かった。

ただし、闇雲に全体を押し上げるだけでは、マリノスのスピードのある前線に太刀打ちできなくなってしまう。

この点、最終ラインが5枚であれば、DFラインの裏へのボールにも数的優位を保ちながら守ることができる。どんなにマリノスの前線の質が高かったとしても、数的不利の状態で攻めきることは難しい。

しかもこの4試合は、広島・えふしー・湘南と、たまたま5バックを志向するチームとの対戦が立て続いた。彼らは決してマリノス対策として5バックを採用したわけではなく、ほぼ"普段着"のまま彼らの文脈に沿って戦ってきた。ある意味、不運といえば不運であった。

ミドルプレス型5バックが、その構造上マリノスに対して有効であることが結果として顕在化してしまった。ただし、こうして白日の下に晒され、それが連続したことで、マリノスとしてはこの課題に取り組まざるを得なくなった。昨季よりこのチームの潜在的な課題であった部分についにメスを入れざるを得ない状況になったのだ。

このチームの今後を考えるならば、逆に「為になる」1か月間だったのかもしれない。これを改善すれば、また一つ上のステージへ行ける。


~②マリノスの視点~


では、今度はマリノスの視点で「なぜ相手を押し込めなくなってしまったか」を考えてみる。

この点、そもそも攻撃が単調なまま終わってしまうことが大きいと考えられる。攻撃が単調で終わってしまう理由は、「前にボールを運んでも選択肢が少ないから」であることに他ならない。パスの出しどころがない、もしくは使えるスペースがないなどプレー選択の幅が狭くなっている状態である。

では、なぜ選択肢が少なくなってしまうのか。それは、前線に人数をかけて攻撃することができていないからだ。構造上仕方ない部分もあるのだが、マリノスはプレスをかけられると後ろに重たくなる傾向にある。

ここをどうにかして、できるだけ敵陣に長い時間ボールを置いておきたいところ。それは、マリノスがボールを持っていようがいまいがどちらでもよい。とにかく敵陣にボールを送り込みたい。

敵陣の深くに行けば行くほど相手はズルズル下がらざるを得ない。

そのために必要なのは、相手DFラインと同数以上の状況を作り出すことだ。よって、プレスに晒されながらもできるだけ前に立ち位置を取る勇気やポジショニングの約束事が必要になる。

直近の湘南戦では、小池が大外で幅を取ってエウベルが内側に入るなど、前半からその試行錯誤の跡が見て取れた。

このように前から来る相手をもズルズル下げさせて押し込むことができる。相手をマリノスの得意な土俵に引きずり込んで戦うことができるのだ。どんな相手に対してもこれができるのならば、より安定して勝ち点を積めるようになるだろう。

マリノスは、今まさにそこに取り組んでいるのではないだろうか。

無敵の強さを求めて…。

【畠中不在の影響はあったのか】


8/28の鹿島戦で全治6か月の怪我を負った畠中。そして9月のマリノスは大黒柱の彼を失って戦うことになる。

ここで、9月のトーンダウンは畠中不在によるものか、という疑問が浮上する。

結論から言うと、畠中不在の影響は非常にイニシャルなものである。

例えば保持局面では、特に左サイドの人選や立ち位置に微妙な変化が加わり、非保持局面では、急造CBコンビの連携面の未熟さを突かれて失点したこともあった。

ただし、そもそもチアゴ・畠中のゴールデンコンビと同じ練度を要求することには無理がある。彼らは2019年2月から常にコンビを組んできた長い歴史があり、それと同じ練度を岩田や實藤に要求するのはあまりにも無茶だ。現実的ではない。

断じて、この4試合の失点数や試合結果をもって岩田や實藤のCBとしての能力は疑われるべきではない。特に失点に直結しやすいCBの人員が入れ替わったのならば、多少のミスや失点は付き物と捉えるのが自然ではないだろうか。

例えば名古屋戦で、たしかにヤクブシュヴィルツォクに対して後手を踏んでいたように見えた。あれは岩田・實藤だから後手を踏んでいたのではなく、あのような屈強なCFに対しては誰しもが苦戦するものだ。それは畠中がいたとしてもだ。

まとめる。直近4試合で、1試合あたりの失点数が増えたのは、畠中不在が一時的に影響を及ぼした部分もあるだろう。しかし、それはシーズン最後まで引きずるものでない。長い目で見れば、非常に小さな問題である。

むしろ、岩田のCBとしてのプレーの安定感は、試合を追うごとに増してきている。今後に期待が持てるパフォーマンスだ。

リーグは残り7試合。いよいよクライマックスに突入する。

とにかく、"Partido a partido"である。


(写真提供:ゆかさん)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?