見出し画像

Kevin Muscatの試合を見た感想とマリノスで期待されること

ケヴィンマスカットは、メルボルンビクトリーを6シーズン率いて2度のレギュラーシーズン優勝、1度はグランドファイナルを制しているいわゆる名将である。
シントトロイデンではふるわずあえなく退任を余儀なくされたが、それでもオーストラリアでの実績が否定されるものではない。

今回、ケヴィンマスカットがマリノスの監督に就任するという噂が出たところから、YouTubeにあったメルボルンビクトリーの試合をいくつか視聴してみた。
そのなかで見えてきた彼の傾向や特徴を書いていきたい。

ケヴィンマスカットのメルボルンビクトリーは、大きく分けて2つのフェーズに大別される。
❶ベサルトベリーシャ期と❷脱ベサルトベリーシャ期である。
そう、ケヴィンマスカットとメルボルンビクトリーを語るうえで欠かせない選手が、このベサルトベリーシャというアルバニア人ストライカーである。
彼の細かい経歴等はここでは割愛するが、要するに高身長かつガタイの良い、Aリーグではレジェンド級の活躍を果たしたストライカーである。
プレースタイルで例えるなら、ロベルト・レヴァンドフスキ(バイエルンミュンヘン)に近い。

ベリーシャをワントップに据え、奪ったら素早く彼に当てて速攻を展開してゴールを奪う。
就任当初のケヴィンマスカットのメルボルンビクトリーは、そのようなサッカーを展開していた。
いわゆる、"ベリーシャ大作戦"である。これこそが、❶ベサルトベリーシャ期のメルボルンビクトリーであった。

時を経て、ベサルトベリーシャはメルボルンビクトリーを退団し、サンフレッチェ広島に移籍することになる。

ここからが❷脱ベサルトベリーシャ期の始まりである。と言っても、ケヴィンマスカットのラストイヤーになるのだが。
18-19シーズンのメルボルンビクトリーは、中盤にテクニカルの選手を多く揃えていた。
ジョシュホープ、ジェームズトロイージ、そして本田圭佑らである。
大黒柱のベリーシャが去った後の彼らは、路線を変えてポゼッション重視のスタイルになっている。

そう、ここから見えてくるケヴィンマスカットの特徴としては、持てるスカッドや時代によってニュアンスを変えられる監督であるということ。
前線に絶対的なポストプレイヤーがいるのか、中盤にテクニックに優れた選手がいるのか、そこから逆算してチームを構築していく。

その一方で、どの時代においても不変の哲学が見え隠れする。それは、縦横に圧縮してボールを奪いに行くスタイルと、
優先事項は縦への速さであるということ。これに関しては、どの時代のメルボルンビクトリーを見ても変わらない。
本田圭佑らがいたポゼッション重視の18-19シーズンであっても、そこはブレない。
前線に広大なスペースがあるならばそこへボールを送り込み、スピードアップする。
局面を狭くしてボールを奪い、素早く攻めきる。これこそがケヴィンマスカットのサッカーなのだろう。

この点、アンジェの志向性と近いところがある。
アンジェが率いたマリノスもベースにあるものは同じ。
縦横の圧縮とトランジションである。

つまりマリノスは、ケヴィンマスカットが植え付けるべきベースの部分がほとんどインストールされたチームなのだ。
そうした意味では、彼にとってこんなにやりやすいチームはないだろう。

しかし、ベースができているだけでは試合には勝てない。それ以外の局面における戦術や自分たちの得意な局面にどうやって持ち込むか、という部分を構築する必要がある。
特に今季のハイレベルな優勝争いを制することを至上命題とするのであれば、できるだけ早くチームのディテールまでをマスカット色に染めなければならない。

そのための指導法、選手との関係構築の部分はマネージャーとしての彼の手腕の見せ所である。
前任者はその点、実にうまくチームマネジメントをやってのけた。
選手との距離感、あえて何も言わないアプローチ。このクラブに「主体性」というフィロソフィーを植え付けた功労者である。

果たしてケヴィンマスカットはどうか?

私が戦術的な面で彼に懸念していることはあまりない。たしかな実績と戦術的な引き出しをしっかり持っている監督だとメルボルンの試合を見ていて感じたからだ。
どちらかというと、チームを率いるマネージャーとして、一つの組織を束ねる者としての素質が肝要だ。
実力通りにやればこの競争力の激しいリーグでも悠々と上位に食い込むマリノスが一枚岩であり続けられるかどうか。
それは人の上に立つ者としてのケヴィンマスカットがいかにチームをまとめあげて舵を取るかにかかっている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?