Beautiful World End with You

日中、空を見上げるとそこだけポッカリと切り取られたようかのように黒い円がある。それは地球のすぐ真横にあるとても小さな天体。

名を『終末天体』という。

なんとも物騒な名前であるが、それもそのはずでソレはあと数年でこの地球を滅ぼすのだそうだ。

僕がまだ子供の頃、ソレは突如現れた。あまりに唐突な天体ショーに世界中が熱狂したのを今でも覚えている。しかしその熱狂はすぐに絶対零度にまで急降下する事になった。

「あと10数年後にあの天体は地球に衝突する。そして地球は消滅するだろう」

著名な天文学者がそんなことを口にした。そして世界中の超高性能コンピュータが出した答えはそれが『真』であるということだった。

その発表を受けてからの各国の首脳達の行動は素早かった。彼らはいつの間にか造っていた巨大な宇宙船に、これまたいつの間にか集めた世界中の優秀な人間数万人と共に乗り込み、さっさとこの地球から立ち去ってしまった。

普段からこれくらいのスピードで対応していればもっと世界は平和だったのでは? まぁ今となってはどうでもいい話だけど。

さて選ばれなかった僕たちの世界はどうなったか。当初は世紀末よろしくヒャッハーな世界になるのではと恐怖していたが、意外にも日常はそれほど変わらなかった。

なんてことはない。1番目がいなくなったら2番目が世界を運営する。それだけのこと。

もちろん変化したこともある。特に大きいのが自殺者の増加だ。

お先真っ暗な未来を生きても仕方ないと、ある者は空へダイブし、ある者は走行する列車へその身を躍らせる。中でも人気なのは薬物による安楽死だ。

最近では自殺のことを『卒業』と呼ぶらしく、最早政府も警察も止める気は無いらしい。

そして僕はというと『卒業』なんてする気はなく、かといって何かしたいわけでもない。この海辺の町でその時が来るまで空でも眺めながら過ごすつもりだった。

あの日、彼女と出会うまでは。

【続く】

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