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いつか猫と石になる日 と ただいまの木

付き合い始めた彼はこう言った。「俺は動物を金で買わない」と。その言葉を聞いた時に、私はこの人と結婚すると決めた。

私は実家で犬を飼っていたことがあった。ペットショップから連れ帰った犬で黒くて無邪気でいつも短い足で飛び跳ねていた。
猫を飼ったことはなかったけれど、犬猫両方好きな存在。でもあの頃の私は動物の命とビジネスについて深く考えたことがなかった。
そんな私に彼がハッキリと言ったのだ。忖度なしに。この件については賛否両論あるだろう。議論はさておき、流される事なく自分はこうだと言える強さを尊敬したんだった。

大自然の田舎育ちで、犬や猫と暮らしてきた経験が豊富。そんな彼は表情があまり変わらないので感情が分かりにくいのだけれど、動物の話しになると大事に一緒に暮らしていた風景がよく伝わってきた。犬猫以外にも珍しい動物の話や知識を沢山持っていて、彼ぺディアは私をいつまでも飽きさせない。

一人暮らしを始めたばかりの頃に拾った、猫との暮らし方を教えてくれたのも彼だった。
彼女の名前は青。目が青いから青という名前だった。アメショーの雑種のような柄、洗わないで放っておくと次第に身体がミルクティ色になった。(ただの汚れた猫?)

初めての一人暮らしも青が居たから寂しくなかった。社会に出て、家賃代を稼ぎ、生活全てを工夫しながら自分の力で生きていく、世の中の不条理さに泣かされても猫の全てがそれらを流してくれた。
猫は不思議な生命体。
猫は正しさの前に優しいを持っている。
と同時に流されることのない、主張も。ちゃんと。

青に続いて、我が家には他に3匹猫がいる。彼の言う通り、動物と暮らす毎日は楽しくて、優しくて、癒されて、でも時々雷。
16年猫と一緒に暮らしている。途中彼は私の夫となり、青の診察券の苗字も変わった。

だけど命には終わりがあって、4年前に青を腕の中で看取った。突然フラフラと歩き始めて、そのまま1日半で逝ってしまった。
5ヶ月後には家が完成予定だった。猫と快適に過ごせる家を思い描いて、あれこれ悩んで設計してもらった家だった。
青が家の床を歩くことはなかったのが本当に残念でならない。

骨と灰になった青。白い骨壷に入ったまま、しばらくの間キッチンにいた。埋められなかったのは、離れたくなかったからで、悲しさをどうしたら良いのか分からなかった。


我が家の玄関は、外から帰ってきたらまず見える風景が まさかの外 という変わった作りをしている。
ここに植えた木の下に、青を埋めることにした。

青がさみしくないように、
青に毎日ただいまが言いたくて選んだ場所。
ただいま青、ちょっと行って来るね青、
木に向かって毎日言う。
埋めた後もふと悲しさがやって来て、いつも泣いていたけれど、看取った日の記憶が段々と鮮明ではなくなって、楽しかった頃の記憶の方が多く思い出せるようになった。

1年後、春になるとただいまの木の下に胡瓜草という青い小さな花が咲いている事に気が付いた。
あの花を見つけた時は嬉しくて会いたくて抱きしめたくて泣いた。
そっと何にも言わないで、小さく咲いていた青。
あの木はずっとただいまの木だったけれど、
おかえりの木だった。
私が寂しがらないようにおかえりを言ってくれていたのは、青だった。嬉しくていっぱい泣いた。
不思議な話しなんだけど、春になるといつも木の下には青い花が咲くんだ。

青は骨壷のまま植えたから、土には還らない。
あの時は何となくそうした。
その選択が良かったなと思ったのは、最近ある事を知ったからだ。

人や動物の骨からダイヤモンドが作れるという話し。
詐欺も多くあるらしいから業者選びには注意が必要だけれども、本当にダイヤモンドになるんだって。人と動物の骨が混ざっていても可能らしいから、私はいつか青と一緒にダイヤモンドになろうと思う。その分のお金は保険金でなんとかなりそうなので、どうぞよろしくね。

私が死んだら賑やかなお葬式はやらないで、さっさとモクモク焼いてほしい。
墓も花もお経も要らない。根拠はないんだけど上手に成仏してみせる。
ダイヤモンドにしてもらったら、私達を思い出してくれる人のどこかでもう一度輝かせてもらって、
いつか思い出してくれる人も居なくなったら、そこら辺にポイしてほしい。

次はただの石として、青と一緒に生きていく。
この世界の片隅で。

見つけた人はラッキーだよ。

死んだらどこにいくんだろう。
存在しないってどういう事だろう。
よくわからないけれど、先に逝った猫や人に会えると思うと怖くないような気になるから不思議だ。

どんな徳を積んだら、来世で猫になれるだろうか
そんな事を夫と話しながら毎日暮らしている。


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今週も読んで下さり有難うございます。今回は一緒に暮らしている家族をテーマに書きました。どんな世界になっても猫は猫らしく生きている姿に、ふと気付かされる瞬間があります。動物と一緒に歳をとって老いていくことは、とても幸せな事だなと記事を書きながら改めて思いました。

また来週書きますね。よかったらまた会いに来て下さい。

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ろっか えんどう 糸を染め織る人
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