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【創作note】外食の扉

 外食が怖かった。店の扉を開けることがずっと怖かった。そこにいるのは知らない人だから。店主は山賊かもしれない。常連客はみんな泥棒ばかりかもしれない。たまたま隣に座る人は連続殺人犯かもしれない。とんでもない味付けかもしれない。入り口はあっても出口はないかもしれない。そういうことを色々と考え始めると、どうしても踏み込めない一歩があった。もしも行くとしても、ある程度安全が見込めるチェーン店ばかりだった。考えすぎだということはわかっていた。
(いつか行ってみたい)そう考えながら月日は流れ、気づくと消えてしまった店がどれほどあったかわからない。

「昨日、牛丼食べたんだ」(紅生姜をいっぱい入れたよ)
 先輩が毎日のように同じ味の話をしてくる。いい人なのでもうその話は聞き飽きたなんて言えない。(もうええわ。そう言って突っ込めない関係性をとても寂しく思う)
 そうして心の声を呑み込む内に、このままでは嫌だという思いが徐々に高まっていった。

(僕はどこにでも行くんだぞ!)
(あなたのような話はしたくないんだぞ)

知らない店の扉をあけて
飛び込んでみるのもいい
店主の意気に触れてみたい

店の人、店の味、店の壁、店の色、店の空気
それぞれの店のそれぞれの心

失敗もする、後悔もある
それだっていい

未知の扉の向こうには
素敵な出会いだって
あるだろうよ


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