サイダー・フィッシュ
「押入に布団がない!」
突然たずねてきた男が訴えた。どうやら上の階に住む男のようだ。
「そんなの関係ない!」
腑に落ちない様子で男は引き上げていった。借家暮らしも楽ではない。
「大変ね。色々」
遊びに来ていた姉がそう言ったのは昨日のことだった。
「ほー。そんなことがあったのか……」
関心を寄せている父は天国から一時帰省しているらしかった。
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ばあちゃんの家に遊びに行くと池から魚が飛び出してきた。歓迎するようにぐんぐん飛んで身を寄せてきた。以前はもっと人見知りだった気がするが、しばらくすると変わるものだ。魚に負けまいと僕も上昇した。魚はなおもぐんぐんと上昇して体を当ててきた。
「冷たい」
冷たくて人懐っこくて、昔飲んだサイダーのことを思い出した。ばあちゃんの家の前の川にはいつもサイダーが沈んでいるのだ。そのサイダーのなんて冷たいこと! どんな冷蔵庫でもばあちゃんの川ほどにサイダーを冷やすことはできない。
「もうしつこいな!」
魚は僕のことを知っているようだ。何かを話しかけているように空ではしゃいでいる。