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ロボモフ
2021年7月23日 23:27
久しぶりに和食が食べたい気分だった。普段なら行き当たりばったり飛び込むような真似はしない。スマホを持ち始めてからというものすっかり冒険心をなくしてしまった。予め近くの店を検索してそれなりの評価を集めるものに狙いを定め、あらゆる条件を確認してから実際に足を運ぶ。確かにそれなら大きな失敗は少ない。しかし、昔はもっと違った楽しみがあったようにも思う。(ハラハラしたりときめいたりわからないからこその出会
2021年7月19日 22:48
あまたなる店長が店を守ってきました。お店の歴史は店長の歴史でもありました。皆様覚えておいででしょうか。あの口笛吹きの店長を。あの土下座の店長を。どうぞお忘れくださって結構でございます。主役はあくまでも皆様お客様方なのですから。 いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、いらっしゃい、はい、皆様よ
2021年7月16日 23:27
あれは私が働き始めて間もない頃でした。お昼休みに会社の人に連れられてラーメン屋さんに行きました。近所では割と有名な豚骨ラーメンの店でしたが、私はその時が初めての来店でした。席に着いてゆっくりメニューを見ようとしていると、せっかちな部長がぽんぽんと勝手に皆の注文をしてしまいました。強面の部長ということもあって、誰も文句も言えず従うしかありませんでした。「お待たせしました。豚骨ラーメン全のせ特盛
2021年7月6日 01:36
次は自分たちの番か……。ひやひやとしながら1年がすぎ、閉店を告げられたのが2週間前だった。長年勤めた職場は驚くほどあっけなく消え、苦楽を共にした仲間とは会食もなく縁が切れた。 家のローンはまだ残っていたし、3匹の猫を養っていかなければならなかった。細かい条件など気にしている余裕はない。即戦力として望まれるところなら、どこにでも飛び込むつもりだった。「納豆を混ぜ続ける仕事です。思っている以上
2021年5月25日 01:03
「お待たせしました。上げ底定食でございます」「おー! すごいボリューム感だ!」「あなた、食べれるの?」「いやどうだろうか」「まずは写真ね」「おー、そうだ」チャカチャンチャンチャン♪「ごちそうさん」「案外大丈夫だったみたいね」「ああ、見応えもあったし」「写真映えもしたし」「ダイエットも継続できた!」「それが何より大事ね」「勿論だ。ぜびシェフに会って直接お礼を」チャカ
2021年5月11日 02:22
「爪を隠してらっしゃるんで?」「いえいえ、私はドライバーだから」「本当ですかい」 鴉は楊枝をくわえながら言った。 テレビからガソリンの匂いがして私はせき込んだ。若手俳優が主演の刑事ドラマだ。「大丈夫ですか?」 心配するような疑うような目。鴉は水を入れてくれた。「ああ、ちょっと寝不足で」「本当は車なんて……」 本当の私を知ってどうするのだ。 そうとも。私は鴉を撃退するために招
2021年5月10日 03:20
「マスター、ビール」「そういったのはちょっと……」「ビアー」「いやー」「ビアーァア♪」「今やってないんですよ」「スーパードライを」「ないです」「スッパードゥラゥアーイ♪」「申し訳ないです」「じゃあ一番搾りでいいよ」「ないよ」「えっ? 麒麟は来てないの?」「もう終わってますよ」「じゃあもういいよ。モルツくれる」「お客さんもしつこいね。あんた潜入じゃないの?」
2021年5月6日 02:18
「お待たせいたしました」 コーヒーカップは持て余すほどに大きかった。それに取っ手が見当たらない! コーヒーらしい香りもしなかったし、黒というより薄い茶色に近かった。中を見るとイカ、タコ、エビ、キャベツ、ナルト、人参、葱、玉子などが入っていてなかなか具だくさんだ。こ、これは、チャンポンじゃないか……。「ちょっと」 私は通りかかった店員を呼び止めた。「これ、合ってます?」「はい。何か?」
2021年5月2日 00:40
「私なんかはプロですから、朝7時に起きよう思ったら前の晩から目覚まし時計セットしときまんねん」「ほう。普通ですな」「まあ鳴りよりへんかったけどな」「電池切れかいな。逆算が足らんのんちゃうか」「でもまあそこは体が緊張して起きよる。眠りが浅いねん」「私もプロやからね、カップ麺作るぞーとなったらお湯を注ぐ3分前に逆算してお湯沸かしまんねん」「何分前でもよろしいわ。3分待ったらしまいや。私な
2021年4月25日 01:08
「お待たせいたしました」「おー、あんたんとこな。ちょっと高すぎんな。そう思わへん?」「貴重なご意見、誠にありがとうございます」「料金も高いし、CMも何か凝っとんな。ストーリーか」「物語風に作らせていただいております」「何が風やねん! 金かけすぎちゃうか」「より多くの皆様方に知っていただけるよう放送させていただいておりますが、貴重な意見として承りさせていただきます」「ほんで犬出過ぎ
2021年4月20日 01:55
おもてなしの中心にはいつだってお客様の存在があった。わざわざ足を運んでいただくお客様に美味しいものを届けることによって自然と現れる微笑みを、少し離れたところからそっと見届けることこそが、私たちの喜びなのだった。昭和の時代から受け継いできた精神を大切に守り、一人一人のかけがえのないお客様のために心を込めたおもてなしをする。そうした地道な仕事の積み重ねがきっとお客様との信頼をつなぐのではないだろうか
2021年3月26日 03:16
「記憶にない……」 確かにそれは私の声であるようだ。しかし、はっきりとそんなことを言ったという記憶はない。だとすればそれは無意識の内に現れた声と言うことができる。当然、そこには意図はない。意味もなければ狙いもない。含みもない。野心もない。悪意もなければ命令もない。興味もない。予定もない。感覚もなければ強制もない。情熱もない。詩情もない。記録もなければ確証もない。自覚もない。資格もない。義理もなけ
2021年3月25日 03:40
ネットのクチコミに踊らされたりはしない。私は自分の目を信じる。店の暖簾を見ればそれがどんな店かは、だいたいわかる。見過ごすべきか踏み込むべきか、真っ直ぐ暖簾を見ればわかるのだ。「いらっしゃい」 感じのいい大将だ。 壁を見ればその店の歴史がわかる。どんな人が訪れ、どれだけ人々に愛されてきたか、誰に聞かずともすべては壁が語ってくれる。大物俳優のKが何度も足を運んでいるのがわかる。「マグロ
2021年2月18日 03:23
「俺最近ちゃんと寝てへんねん」「俺もそうや」「横にもならへん」「俺もやわ」「俺無茶苦茶忙しいからな」「俺の方が忙しいわ」「だいたい立ったまま2、3秒くらいや」「俺1、2秒くらいや」「食わなあかん、遊ばなあかん」「俺仕事もあんねん」「俺もや。食って寝たら牛になるやろ。起きたらまた人や。俺そんなん嫌やねん」「俺も嫌や。それやったら起きとく派や」「俺もそっち派や。誰がわざわざ