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【小小説】ナノノベル

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2020年6月の記事一覧

幻の乗客

幻の乗客

「どちらまで?」
「ハルカスまで」
 長い自粛期間が明けて、久しぶりにハンドルを握った。やっぱり私はこの仕事に向いている。見知らぬ乗客を乗せて目的地へと向かう。シンプルだが迷いはなかった。通じ合ったカーナビが、私の進む道に確かなベクトルを灯してくれるから。
「お客さん。今日はお休みですか」
 気晴らしのように何気ない会話を挟むこともできる。返事がなければそれもまた答えと受け取ろう。私は自分のハンド

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ソーシャル・ディスタンス・ファン

ソーシャル・ディスタンス・ファン

 長い拍手がようやく終わり、私が舞台に出ると途端に空席が目立ち始める。私のファンは大変モラルが高い。大入りだったものがあっという間に半分近くに。声援を飛ばすような無謀な真似をするファンは一人もいない。だんだんと距離を取り、後ろに下がり、やがては見えないほどに落ち着いてくれる。私は最大限に声のない笑いを取った。
 舞台の終わりはパラパラと小さな拍手。

(ありがとう。大切なファンよ)

 一人になっ

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未来裁判

未来裁判

「随分と荒れていたようだな」
「餅を大量に食べた後、国道を10キロ走っています」
「ほお」
「長編小説を2冊一気読みし、古新聞で鶴を折っています」
「新聞を取ってるのか」
「牛丼屋を5件梯子してます」
「梯子牛か」

チャカチャンチャンチャン♪

「コンビニに行き出入りを繰り返してます」
「鬱陶しい奴だ」
「ツイッターでログインログアウトを繰り返してます」
「何かつぶやくことはなかったのか」
「そ

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