あなたの老後お任せ下さい(その2)

 わずかな紫煙が部屋を包む。
「タキ、不老不死だの大金持ちになっただの、にわかにゃ信じられねえんだが、まあそこはいい。お前、いま何やってんだ?」
「さきほども申し上げましたがビルさん、福祉をやっておりまして。」
「福祉ってぇのは日本全国の俺みたいな貧乏老人を訪ね廻って高級老人施設に放り込む事業か?」
「はい。ただし、私の知っている方、のみを対象にしております。」
「知っているっていうのは、直接知っている奴か。」
「そうですね。私の親族、友人知人、私が職場で知り合った方々、ちょっとでも袖がふれあった関係なら、思い出せる限り、関わった証明がある限り全員を対象にやっております。」
「そりゃまた随分だな。しかしお前の交友関係がどんなもんだかは知らねえけども、もうそんなに残っちゃいないんじゃないか。」
「実はビルさん、ビルさんが最後の一人なんですよ。」
「へぇ、俺が最後の一人。」
「申し訳ありません。私が思い出せなかったために探し出すのに手間取りまして、最後になってしまいました。」
「まあ、別に俺としちゃあまったくかまわんが、俺が最後ってのが面白いな。他の連中はみんな死んじまったか。」
「はい。ビルさんのお知り合いとなるとですね、そうですね・・・」
滝原はバッグから大学ノートを取り出してパラパラめくりだした。
「随分アナログじゃねえか。」
「タブレットでしたっけ?ああいうのは性に合わないものでして・・・
 そうですね、皆川常務とか笹川部長、小見沢さん、高橋敬之助さん・・・
 このあたりは覚えておりますか?」
「まてまて、皆川ってえとアレだ、宴会で一滴も飲まない、アレだ。」
「そうです、そうです。」
「笹川部長は熊に食われたとかで頭が欠けてたワンダーフォーゲル部出身のスケベ野郎、小見沢は俺の後輩で・・・タキの先輩で・・・そうだ、とびっきりの嫌な奴だった。高橋敬之助は窃盗で定年前に捕まってクビになった奴だな。」
「ご名答です、ビルさん。そうです、その通りです。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?