骨髄ニッチ細胞の可塑性が造血幹細胞の再生を促す [Nature Genetics October 2023]

骨髄ニッチ細胞の可塑性が造血幹細胞の再生を促す

原著: Cellular plasticity of the bone marrow niche promotes hematopoietic stem cell regeneration
Nature Genetics 55, pages 1941–1952 (2023)
Hiroyuki Hirakawa, Longfei Gao, Daniel Naveed Tavakol, Gordana Vunjak-Novakovic & Lei Ding

<簡単な要約>
放射線による骨髄破壊のあと造血幹細胞(HSC)は再生するが、その過程でLepR陽性のニッチ細胞のほとんどはadipocyteに分化する。adipocyteはHSCの再生と関係しているが、そのメカニズムは詳しく分かっていない。著者らはPlin1-CreER knock-inマウスを用いてadipocyteの動向を調べたところ、adipocyteは再度LepR陽性ニッチ細胞に脱分化していた。Atgl遺伝子を消去しadipocyteが脱分化できなくしたところHSCの再生が阻害され、特にB細胞の産生能が著しく低下した。以上より、HSCの再生はこのようなニッチ細胞の可塑性に依存している。

<実験内容>
Plin1はMSCやHSCには発現していないadipocyteのマーカーである。内在性のPlin1にP2A-CreERをつないで、Plin1が発現したらCreERが発現するようにした。さらにRosa26 locus(マウスのsafe habor)にLSL(LoxP-STOP-LoxP)-tdTomatoを入れておくと、Plin1が発現するとtdTomatoが発現するようになる。このシステムによりPlin1陽性細胞をトラッキングできる。Plin1陽性細胞をトラッキングしたところ、当初はadipocytoと一致してtdTomatoが陽性となっていたが、徐々にadipocyteが減ってきてもtdTomato陽性細胞は依然として存在していた。これらtdTomato陽性細胞はLepR陽性であり、再度MSCに脱分化したものと考えられた。adipocyteからMSCに脱分化した細胞は再度分化する能力を有しており、再びadipocyteになることもできるしOsteolimeage cellになることもできた。Atgl遺伝子をノックアウトしadipocyteが脱分化できなくしたところHSCの再生が阻害され、特にB細胞の産生能が著しく低下した。したがって、こういったBMニッチ細胞の可塑性がHSCの再生を促しているものと考えられる。

<感想>
骨髄破壊処置によってMSCから分化したadipocyteが再度MSCに戻る現象を示している。このMSCは通常のMSCとほぼ同じように機能するようだ。そもそもどうしてMSCからadipocyteに変化する必要があるのかはよく分からない。放射線からのダメージを回避するためだろうか。Discussionで触れていたが、通常の状態ではマウス骨髄にはほとんどadipocyteは存在していない。ヒトでは通常状態でもより多くのadipocyteが存在しているため、骨髄破壊のあとにその分MSCに戻る細胞が多いかもしれない。ところで再生不良性貧血では脂肪髄になる。これはadipocyteからMSCに戻る機能が障害されているのかもと思ったが、今回Atglをノックアウトした実験系ではリンパ球産生機能が落ちていたが骨髄系の産生低下は軽度であったことを考えると少し違いそうだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?