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【読書】「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」から読み解く3つの中日要素

皆さん、こんにちは。今回は、お股ニキさん (@omatacom)の新著「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」から読み解く、我らが中日ドラゴンズに関連する話題を3つほどピックアップしてnoteしたいと思います。

世界的に猛威を振るう新型コロナウイルスの影響でプロ野球は度重なる開幕延期を余儀なくされ、NPBはついに4/24の開幕断念を発表しました。開幕日が新たに設定されることもなかったため、これは事実上の無期限延期を意味します。

開幕延期はある程度想定内とは言えますが、これまで当たり前に開催されていた「プロ野球」がそこにない、というのはやはりファンにとっては辛いものがあります。ただ日に日に感染者数が増えていき、また一部の選手の感染も発覚している以上は、我々ファンは大人しく事態の収束を祈るほかないでしょう。

一方で、外出自粛が要請されている今、自宅でただ鬱々と過ごすのも精神衛生上良くありません。テレビやYouTubeを観て過ごすのも良いですが、この機会に改めて大好きな野球についての理解を深める時間にするのは如何でしょうか。 #おうち時間を工夫で楽しく 過ごすために、私の推薦図書「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」について紹介したいと思います。

「お股ニキ」そして「ピッチングデザイン」とは

本書は現役プロ野球選手にもアドバイスを送るプロウト (プロの素人)野球評論家こと、お股ニキさんの3作目の著書になります。ベストセラーとなった1作目の「セイバーメトリクスの落とし穴~マネー・ボールを超える野球論」現代野球の教科書だとするなら、本書は「ピッチング」にフォーカスした技術書であると言えるでしょうか。お股ニキさんの過去の観戦経験から得た「感覚」と、近年話題となっているトラッキングデータを融合させて組み立てたピッチング理論は、本書の帯でソフトバンク・千賀投手がコメントしている通り現役ピッチャーこそ参考にすべきだと思います。

本書ではピッチングについての多くのことが学ぶことができる一冊ですが、特筆すべきは第2章で取り上げられている変化球解説です。ストレート(*本書ではストレートも「シュート回転しながらホップする変化球」と定義される)、スライダー、カーブ、フォークなどそれぞれの変化球に対して、ボールの握りやその変化について説明するだけにとどまらず、トラッキングデータ上どういう性質のボールであるか、投球を組み立てていく上で各球種がどのような機能を果たすのかといったところまで深く分析、解説されています。

先ほど現役ピッチャーこそ参考にすべきと書きましたが、各球種の解説はプレーヤーではない、いち野球ファンとしても十分楽しめる内容になっています。これまでの変化球に抱いていた固定観念を覆すような新しい発見が目白押しで、本書が今後の野球観戦の質を高めてくれるのは間違いありません。

*上記ヤクルト長谷川投手など、多くの現役選手が本書を実際に参考にしているようです。

ここでは本書の概要と第2章の変化球論について簡単に触れるだけにしておきますが、詳しい内容は是非本書をお手に取って、ご確認頂ければと思います。

さて本noteではここからが本題です。

以下では第3章以降において、中日ドラゴンズに関連するトピックについて気になったところをnoteしていきたいと思います。

中日要素① ベテラン・吉見一起は今こそスローカーブを習得すべき?

第3章配球論における、「カーショウとグリンキーに見るベテランにオススメの投球術」の項にて、以下の記述がありました。

かつてはドジャースでダブルエースを張ったサイ・ヤング賞投手のふたり、クレイトン・カーショウとザック・グリンキーも年齢や故障から球速の低下は顕著で、今や90マイル(約144キロ)前後。成績の悪化も避けられないかと思われた。しかし、さすがというほかない投球術と制球でスピードを補っている。
4シームと軌道や速度、コースを似せて偽装するボールとスローカーブによる緩急。単純だが、これらの徹底により両者とも安定した成績を残している。
<中略>
スピードは落ちても、速球の質と速球偽装の変化球、そして超絶緩急。個人的には吉見一起投手や金子弌大ら、ベテランの技巧派投手にオススメしたい投球スタイルである。

以上「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」P151, 152より引用

かつての球威を失った好投手がパフォーマンスを維持するひとつの方法論として、ストレートと球速・軌道を似せたボールを投球の軸としつつ、緩急を生み出すスローカーブも取り入れることで投球に奥行きを出す重要性を説いています。

吉見投手が本書の中で取り上げられているカーショウ、グリンキーと近い立場にあるのは間違いありません。精密機械と称される制球力がクローズアップされがちですが、全盛期には最速148キロを計測するストレートを備えているなど、エースクラスとして最低限の出力は備えていました。現在はストレートの平均球速が140キロを割り込むなどかなり出力が落ち込んでいますが、下記のように球速帯・軌道の近いボールを複数駆使することでなんとか先発ローテーション候補の一角として踏みとどまっています。

▼吉見一起 2020年3月24日巨人戦での投球割合と球種別の平均球速データ
24.7% ストレート 136.7キロ
32.9% シュート 136.0キロ
36.5% スライダー 127.5キロ
5.9% フォーク 128.0キロ
データ参考: 1.02 Essence of Baseball

吉見投手が今後先発ローテーション争いを制して復活を果たすには、お股ニキさんが指摘するように緩急をつけるスローカーブを習得するのが効果的だと考えます。

ただひとつ問題は、吉見投手はカーブを投げられないことです。これは過去のテレビ出演でも発言されたそうですが、カーブは何度か挑戦してみたものの実用化には至らなかったとのこと。そのため緩急を活かすボールとしては昨季はチェンジアップを使っていたこともありましたが、少なくとも今季オープン戦以降の実戦では使っていません。

今季の吉見投手はかなりストレートが力強く、またシュートやフォークの変化球の精度も高いように見受けられるため期待はしていますが、長いイニングを投げる先発投手としては投球のアクセントとなるボールがないのは気がかりです。試合中盤に捕まるケースも増えると予想されるため、これ以上球種を増やさないようであれば、ストライクゾーンの幅だけでなく高低もフル活用するハイレベルな投球術を駆使していくしかないのかもしれません。

中日要素② オープナーは中日ドラゴンズにフィットする戦略か

続いて第6章2020年代を勝ち抜く一流投手の条件より、新潮流「オープナー」は弱者の戦術か?という項がありました。こちらではオープナーという戦術の効果とその難しさについて説明されています。

一方で、レベルの高いリリーフ投手を多くそろえているのであれば早めに交代するだけでなく、そのうちの一人を先発として初回に登板させ、厚みのある上位打線を抑えてから本来の先発投手に交代すれば、理論的には上位打線との対戦回数を減らすことができ、チームトータルでのパフォーマンス最大化に繋がるという理論が「オープナー」の基礎的な考え方だ。

以上「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」P198より引用

オープナーは昨季DeNA・国吉投手が挑戦し失敗するなどかなり難しい戦術という印象です。日本ハムのショートスターターやロッテのブルペンデーなどは昨季見られましたが、タンパベイ・レイズのようなオープナー戦術を積極的に取り入れたチームはNPBにはなかったように思います。

一方で、このオープナーという戦術は先発投手に弱みを抱え、リリーフ投手に相対的な強みを持つ中日にはフィットする戦術のように思います。今季ロメロ投手を怪我で欠き、大野雄・柳両投手に次ぐ先発投手が未知数の(かつ将来有望な)若手投手が多い中日の場合、状況によっては強力なブルペン陣から何人かをオープナーに抜擢し、不安な先発陣を補う戦術は効果的だと考えます。

そうすると次に考えるべきは誰をオープナーとして抜擢するか?ですが、参考にすべきは以下のnoteです。

シュバルべさんの分析によると、オープナーを務める投手には①対左打者に優れている②与四球率に優れているの2点が重要とのこと。そこで2019年の中日リリーフ陣の成績から、オープナー適性がある投手が誰なのか確認してみましょう。

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被打率、四球割合ともにチームトップレベルの好成績を残したのは岡田投手です。ただ今季クローザーとしての起用が濃厚なため、オープナーとして一番前に登板させるのは現実的ではないでしょう。同様にセットアッパーとしての起用が想定される、R.マルティネス投手や藤嶋投手も指標上は優秀ですが可能性は小さいように思います。

そこで提案したいのは、祖父江投手と福投手です。祖父江投手は毎年安定して対左投手に強く、制球も安定しているため、右投手でありながら適性ありと言えるでしょう。今季はストレートとスライダーによるツーピッチから脱却するためにフォークも習得中で、これがハマればより対左打者への成績は安定するはずです。

福投手についてはAチームリリーフとしての活躍が期待されている一方で、今季はゴンサレス投手、橋本投手と左のリリーフが充実してきた背景も踏まえて提案しました。昨季も開幕直後から何度も2イニングを投げるロングリリーフをこなしており、上記の新戦力と比較してもオープナーとしての適性は十分かと思います。対左打者の成績が左の変則派投手としてはリーグ平均レベルなのは気になりますが、今季は対左の内角を突くツーシームも習得中で、その点も有利に働くはずです。

チームとしては若手先発投手が台頭すればベターですが、プランBとしてオープナーを検討しておくべきなのは間違いありません。前述の吉見投手のように球威に衰えが見られるベテラン投手をサポートする意味でも、オープナー戦術は機能するはずだと思います。

中日要素③ 和製カーター・キャップス、マルクは大成できるか

同じく第6章より、上野由岐子、カーター・キャップス、ライズボールの項に注目しました。

また、かつてメジャーにはカーター・キャップスという投手がいた。軸足をツーステップで前方に移動させながら、通常の投手よりも50センチは前に出て100マイル(約160キロ)を超える速球を投げ込んでいた。エクステンションを加味した2015年の体感速度101.7マイルはメジャートップだった。トミー・ジョン手術などの影響でその後は低迷してしまったが、私はキャップスにもヒントがあると考えている。

以上「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」P213より引用

中日ファンなら、このキャップス投手の投球フォームを見て「マルク投手に似ている!」と思ったはずです。

マルク投手の方が投球フォームはカクカクとしてぎこちなく、またかなり上から投げ下ろすオーバースローであるなどの違いはありますが、軸足がプレートから離れ打者に近づくように投げる点は同じです。育成3年目の投手で実績・知名度はほとんどありませんが、今季は仁村二軍監督から二軍のクローザーに抜擢されるなど、首脳陣も期待を寄せている若手注目株の一人です。150キロに迫る威力抜群のストレートを武器に、スライダー、チェンジアップといった変化球の精度と制球力が向上されれば、今季中の支配下登録の可能性はかなり高いと見ています。「和製キャップス」として一軍のマウンドで躍動する姿を目にする日も、そう遠くないでしょう。

おわりに

以上、「ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件」から中日ドラゴンズに関連するトピックについて読み解いていきました。お股ニキさんの本はどれも読むたびに新しい発見がありますが、本書は取り上げるテーマがかなり狭く深かったからか特に興味深い考察が多く、着想を得た上記3点についてはどうしてもまとめておきたいと思い、今回記事にさせて頂きました。外出自粛の今こそ、野球ファンの皆さんには是非お薦めしたい一冊です。辛い時期が続きますが、皆でおうち時間を工夫で楽しく乗り切りましょう!

以上、ロバートさんでした。
ありがとうございました!

参考書籍: ピッチングデザイン 2020年代を勝ち抜く一流投手の条件




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