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京田陽太と源田壮亮の「ショート守備における違い」について考える〜Part.2〜

皆さん、こんにちは。今回は前回投稿した「京田陽太と源田壮亮の『ショート守備における違い』について考える」記事の第二回をお届けします。

前回は京田と源田、両者について「構える・捕る・投げる」の基本動作について違いを見てきましたが、今回は彼らのプレーに影響を及ぼす下記の外的要因の違いについて見ていきたいと思います。

①球場の違い
②二塁手の違い

そして今回も内野守備について熱く語って頂くのは、ロッテファンのワンドリさん(@hanachanlovebot)です。では早速見ていきましょう!

1. 球場の違い: ショートパイルのナゴヤドームと、ロングパイルのメットライフドーム

まず見ていきたいのは球場の違いです。京田の所属する中日ドラゴンズの本拠地・ナゴヤドームと、源田の埼玉西武ライオンズの本拠地・メットライフドームにおける違いの一つとして、人工芝の種類の違いが挙げられます。

ナゴヤドームは「ショートパイル」と呼ばれる人工芝を採用しており、特徴は芝の長さが短く、巻き取って収納できること。これによりスポーツイベント以外の使用時に芝を傷めずに済みますが、クッション性が犠牲になっているため選手の足腰への負担が大きいデメリットがあります。

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*2018年3月に張り替えられた「5代目」人工芝。大塚ターフテック製グランドターフを使用している。 引用: ナゴヤドーム雑学博士-知っていれば得をするかも- Dr.Dome

一方でメットライフドームは「ロングパイル」と呼ばれる人工芝を採用しており、特徴は芝の長さが長く天然芝に近いクッション性を備えていること。価格が高く巻き取りが不可のため、スポーツイベント以外での使用時には上からシートを被せる形になるのが球団側にとってはデメリットになりますが、選手にとっては足腰への負担が比較的少なくプレーできるメリットがあります。

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*2016年3月に選手らの要望を受けて、ショートパイルからロングパイルへと張り替え。野球専用の人工芝であるミズノ社製 MS Craft Baseball Turfを、NPBチーム本拠地では初めて採用。引用: 導入事例 メットライフドーム 人工芝導入

これらの芝の違いは、選手の足腰への負担だけでなく、当然プレーの質にも影響してきます。例えば芝の長さが変わることで、下記2点の影響があると考えられます:

①打球速度の違い
芝が短いショートパイルを採用している球場ほど、ゴロの打球速度が速くなる傾向があります。よってナゴヤドームを本拠地とする京田はより深めの守備位置を取ることにより、速い打球にも対応できるようにした可能性があります。前回の記事でも述べましたが、右足前捕球を取り入れたステップワークの改善により深いポジショニングでも安定した送球ができるようになり、今季はより京田の強肩が生きるシチュエーションが増えています。

一方でロングパイル人工芝や天然芝を採用している球場は、逆に打球速度が遅くなる傾向があります。よって内野手は幅広い打球に素早く反応し捕球まで持っていくアジリティ(=敏捷性)の高さが重要になってきますが、源田は打者に応じたポジショニングの良さとスプリットステップを活用した反応の高さ、また天性のグラブ捌きの引き出しの多さで球場の特性にフィットしたショート守備を見せています。

②足に掛かる「摩擦」の違い
前述した通りショートパイルは足腰への負担が大きいのが特徴ですが、それはイコール「天然芝や土のグラウンドとは違う、足への摩擦の大きさ」が原因だと言えます。

ここは感覚的な話になりますが、例えばショートパイルのグラウンドでステップを踏んだ時に、力を入れすぎると足が土のグラウンドの様に滑らかに滑ってはくれません。さらに力を抜きすぎると逆に滑ってしまうと言ったことも懸念されます。イメージしてもらいたいのですが、例えば内野手だと捕球後、送球動作に入る際に右足を左足に近づけるような動作をします。所謂この動作をすり足と呼びますが、ショートパイル人工芝だとモロに抵抗感があります。よって普段土のグラウンドでのプレーに慣れている選手だと、かなり注意が必要になってきます。

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*2011年CS第4戦にショートとしてスタメン起用されたルーキー山田哲人。初回に悪送球でピンチを広げてしまうが、その際に「足が引っかかった」とコメントしており、ショートパイル人工芝への不慣れな様子が見て取れる。
引用: ヤクルトルーキー山田プロ初安打/CS

京田はそんな足運びに注意が必要な本拠地の芝の特性に対応するために、前述の右足前捕球を取り入れたステップワークの改善、および体幹の強化を行ったと思われます。右足前捕球を行うと懸念の「大きく右足を左足に近づける動作」を行う必要がなくなります。また体幹の強化を行うことで、不安定なすり足の動作でもバランスを崩さずに安定して送球まで持っていける様になるので、これらの改善はナゴヤドームのショートパイルに対応するためには最優先だったと考えられます。ここが前回の記事でも指摘した「京田がスプリットステップを行なっていない」点について、そこよりもまず安定性の高い守備を追求することを優先した結果なのではと推察できます。


以上、球場の違いについて見てきました。人工芝の特性の違いにより、京田と源田の「ショート守備における優先順位」が変わっているのが分かるかと思います。

ナゴヤドームをメインでプレーする京田は、打球速度が速い&足運びに注意が必要なショートパイルに対応するために、アジリティの強化よりも捕球から送球までの「安定性」を高めることに重きを置いた様に思います。一方でメットライフドームをメインでプレーする源田は、何よりも「アジリティの強化」とあらゆる打球に対応する「応用力」を優先している様に思います。どっちがより良いという訳ではないですが、この様に両者の志向するところは全く異なっている一方で、両者ともに日本屈指のショート守備を誇っているのは面白いポイントだと思います。

2. 二塁手の違い: 京田の相棒・阿部寿樹と、源田の相棒・外崎修汰

次にセカンドの違いについて見ていきます。前回の記事で紹介した守備指標「UZR」では、内野手の場合個人の守備貢献だけでなく、併殺が期待される場面でどれだけ併殺を完成させられたかも評価に含まれます。よって京田と源田のショート守備をデータを用いて比較するにあたっては、両者の相棒であるセカンドがどの様なプレーをしたかも間接的に関わってきます。

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*データ参考: 1.02 Essence of Baseball

上記表を見てみると、併殺奪取の貢献度を表す指標DPRにおいては、両者の評価は対照的なものになっています。昨季までは源田が大きくリードしていたものが、今季に限って言うと京田が逆転しています。これは両者の併殺を完成するスキルに変化があったと言うよりは、パートナーを組むセカンドが変わったからと考えるのが自然だと思います。今季中日は高橋周平から阿部寿樹へ、西武は浅村栄斗から外崎修汰へそれぞれセカンドが代わりました。それでは以下で、今季からセカンドのレギュラーを掴んだ阿部寿樹の守備によりフォーカスを当てて、京田のDPRが今季改善した要因について見ていきます。ポイントは下記の3点です:

①ステップワーク
② セカンドベースの踏み方
③握り替え

①ステップワーク
阿部はアマチュア時代にはショートを本職としていましたが、プロ入り後はその大柄な体に見合わず、内野全ポジションを守る器用さを発揮した選手です。そのユーティリティ性の源泉となっているのは、彼の巧みなステップワーク

この通りあの名手・堂上直倫と比べても、細かいステップを刻んでしっかりと自分のリズムでボールを呼び込み、スローイングまで導けているのが分かるかと思います。特に6-4-3の併殺を取る際に大切となるのがベースまで細かくステップを踏み、ショートの逸れた送球にも対応できる低い姿勢を保つことなので、阿部のこの足回りの器用さが、中日が12球団トップのDPRをマークする要因になっていると考えられます。

②セカンドベースの踏み方
セカンドが6-4-3の併殺を完成させるにあたっては、左足を前に出して捕球し、ベースを踏んだ右足を基点として送球することが基本とされています。しかしベースの踏み方1つで、実は動作の簡略化を図る事ができます

例えばショートが二遊間方向の打球を捕球してトスをした際のプレー。この時セカンドは左足を伸ばした状態でベースを踏んだ右足を基点にしてしまうと、送球まで一歩以上遅れてしまいます。しかし、左足でベースを踏む事でこの動作を省く事ができます。左足でベースを踏み、右足が前に出た状態で送球を受けると既に左足が一塁方向に向いているため、左足を軸にそのままノーステップで送球する事が可能となります

阿部が京田からの送球を受けて素早く一塁へ転送できているのが分かります。このプレーは二塁手にとっては必須のプレーと言えますが、ステップの小ささやターンの速さなど、阿部のこのプレーは抜群に上手いです。はっきり言って直倫より上だと思います。地味ですがこのスムーズな捕球→送球の流れに阿部のセカンドとしての上手さが凝縮されている様に思います。

③握り替え
最後はボールの握り替えについてです。ステップワークのところで挙げた動画で、直倫と阿部の使っているグローブにご注目ください。グローブであるにも関わらず、板のように平べったい形をしていますよね?

こちらはフェンスグラブと言って、併殺を取る際に必ず必要になる「握り替え」を練習するために、「如何に捕球から次の動作まで素早く移行するか」の意識づけを行うためのグローブになります。

中日OBの井端がよく言いますが、能力はあるのに外野にコンバートされてしまう選手はほぼ全員がこの握り替え、当て取りと言った動作を会得できないがためにコンバートされていると言っても過言では無いかと思います。

阿部はオフから上記で述べたステップワークやベースの踏み方に加え、この握り替えを素早く行える様になったことで、リーグトップレベルのセカンドになったのではないかと考えます。


以上、阿部の守備面におけるポイントについて見てきました。京田の躍進の裏には、今季からレギュラーを獲得した阿部の好守があったからだと言っても過言ではありません。3割を超える打撃とその風貌(?)に注目が当たりがちですが、今後は玄人好みの細やかな守備にも注目してみてください。

また源田の相棒・外崎については、UZR上ではリーグ上位レベルの数値を叩き出しており、むしろ守備での貢献も十分高い選手であると言えますが、併殺奪取の観点から技術的に見ると前任者・浅村には及ばないと言うのが正直なところです。外崎は外野をずっとやっていたからなのか、ステップ幅が大きく、またターンも遅いところに改善の余地があるでしょうか。

一方で浅村は上記のベースの踏み方、ターンに関しては日本一上手いと評価しています。上記の動画は2年前のものですが、他球団のセカンドと比較しても浅村は異次元です。他の選手は左足でベースを踏めていてもモーションが大きいのに比べ、浅村は軸がブレていない上にモーションも早く、送球の安定感も抜群です。今季は長打寄りにモデルチェンジするためか昨年ほど動けていない感はありますが、併殺奪取における技術面ではトップレベルの選手だと断言できます。

ただ前述の通り外崎もセカンドのレギュラーとしては今季が1年目なのにも関わらず、リーグトップレベルの数値を叩き出しているのは特筆に値すると思います。今後源田と共に併殺奪取能力の面でも更に進化していくのは間違い無いのではないでしょうか。

3. 京田陽太の守備がさらに進化するには part.2

以上、京田と源田の守備に影響する外的要因として、球場の違いと二塁手の違いについて見てきました。前回の記事の様に京田や源田のプレーそのものについては語りませんでしたが、環境に応じてそのプレーやその守備の評価が変わってくることが分かって頂けたかなと思います。

ここからは改めて来季以降京田の守備がさらに進化するにはどうしたらいいかについて考えてみたいのですが、結論は前回の記事と同様に「如何にスプリットステップを取り入れるか」と言う点に加えて、「グラブの出し方の引き出しを増やすこと」を挙げたいと思います。

上記で述べた通り京田はナゴヤドームの特性に対応するために安定感ある守備を志向していると考えられますが、長いシーズンのうちナゴヤドームでプレーできるのは半分しかないため、真に源田に追いつき、追い越すためにはどの球場でも通用するショート守備を追求する必要があるかと思います。

▼如何にスプリットステップを取り入れるか

例えば源田やショートパイル人工芝の札幌ドームでプレーしている中島卓也は、ショートパイルでもスプリットステップを行なっています。股関節を含めた下半身の筋肉がかなり柔らかくないと出来ないのと、アマ時代からスプリットステップを追求していたからこそ成し得ている名手の技だと感じます。

京田がスプリットステップを取り入れていない理由については前回「まだその必要性の理解と下半身の柔軟性が足りないからではないか」と推察しました。ただ最近のプレーを見る限り、少なくともナゴヤドームでは少しずつではありますがスプリットステップを試し始めていることがわかりました。源田や中島卓の様に「習得した」と言うまでではないですが、来季以降の更なる進化に向けて既に準備を始めている様に思います。

▼グラブの出し方の引き出しを増やすこと

冒頭で述べたように、球場によっては打球の質が変わってくるが故に一定のグラブの出し方では捕球位置が変わって握り替えが難しくなります。例えば甲子園やマツダスタジアムと言った土のグラウンドでは打球の跳ね方が人工芝より弱く、打球の強さに応じて捕球位置・グラブの出し方を変える必要が出てきます。この辺は天性のグラブ捌きを誇る源田のプレーから学べることは多々あるのではないでしょうか。

また例えば練習時から、「今日は左打者のスライス回転の打球はグラブを斜めから入れて、そのまま捕球動作に持っていき1.5歩無駄を省くぞ!」と言ったように考えながらノックを受けることで、グラブ捌きのバリエーションを増やすことは十分可能かと思います。下記の記事では京田が今季捕ってから投げるまでのスピードを上げていくことに取り組んだことが書かれていますが、来季以降の課題の一つは「グラブの出し方」にあると思います。

>「打者がアンツーカーに入る前にアウトにする。それを目安にしているんです。ということは、捕ってから早く、ですね。去年まではまず捕ることでしたけど、今は捕ってからの時間短縮ができるようになりました」
引用: アウトにも『質』がある…守備率セ遊撃手1位の9割8分7厘 進化した中日・京田の“捕ってから”

ここまで京田の課題について見てきました。現時点で既にトップレベルのショート守備を誇る京田ですが、上記スプリットステップの習得打球に応じたグラブの出し方をクリアしたとき初めて、「名実共に日本トップレベルのショートに成長した」と言えるのではないでしょうか。毎年の様に守備力をアップデートする京田のことですから、来季開幕時には既にマスターしているのかもしれません。


以上、京田と源田の守備における違いの第二回として、ワンドリさんに考察してもらいました。今回は前回と比べかなりディープな考察だったかと思いますが、全体を通して如何に内野守備は奥が深いか、またそれ故に面白いかについて少しでも感じて頂ければ嬉しいです。

以上、ロバートさん feat.ワンドリさんでした!
ありがとうございました!

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