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  • 週刊カナメくん

    カナメくんが死ぬまでは続きます。 *週刊は嘘だと思います。

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カナメくんは脇を締めた美しいフォームで内角高め時速146kmのストレートを打ち返す

 カナメくんは脇を締めた美しいフォームで内角高め時速146kmのストレートを打ち返す。  打球を目で追うカナメくんは、打ち方を教えてくれた人の名前をもう思い出せないでいる。思い出せないことについて考えることもなくなっていて、やがてまもなくこのままいっさいを忘れてしまう。死んだ父のことが嫌いで、出て行ったカナメくんの母の再婚相手になる人だった。父よりも背が高かった。野球がうまくて、優しかった。カナメくんはゆっくりとホームベースに帰ってくる。

    • 「カナメくんは泣く泣く手放した」

      「カナメくんは泣く泣く手放した」  カナメくんは泣く泣く手放した。カナメくんは泣く泣く手放すのだから、受け取る人には大変な感謝をしてもらいたかった。だってカナメくんは、場合によっては手放さなくたっていいのではないかという風に思っていた。もちろん手放す以外に、方法はないんだけれど、受け取り側の態度とか、表情とか、そういうもの、そういう様々な要素が、たしかな正しさで用意されているかどうかが何より重要で、それらが万一、不備を抱えていた場合には断固として手放さないつもりであった。け

      • 「カナメくんはお金がないから働く」

        「カナメくんはお金がないから働く」  カナメくんはお金がないから働く。言い換えるとするならば、カナメくんは働いているのにお金がない。まったくないわけではないけれど、カナメくん自身が、お金がないと思うとするならそれはお金がないのだと言ってもいいと思う。どうしてお金がないのか。それはカナメくんがお金を使うからだけれど、使うお金があるということならば、お金があるのではないかと思われてしまうこともある。でもカナメくんから言わしてみればそれはお金があるかないかの物理的な話であって、カ

        • カナメくんは宇宙に行きたい

          「カナメくんは宇宙に行きたい」  カナメくんは宇宙に行きたい。どれくらい行きたいかっていうと、すごく行きたい。あれほど宇宙に行きたいと思っている人を、私はこれまで見たことがなかった。超お金持ちの芸能人や実業家が沢山お金を出して宇宙旅行を計画し、インタビューで「子供のころから宇宙に行って見たかったんです」とか「誰も経験したことのないような経験をしたいんです」とかなんとか答えているのだったら見たことあるけれど、あんなのはぜんぶ嘘。カナメくんの宇宙に行きたい気持ちに比べたら、きっ

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          BFC2 感想

          Aグループ 「青紙」竹花一乃 「寿命申告制」なるものが採用された世界の話。設定の妙はあると思うが、それよりも作者の、過度な表現が抑えられた、というのか淡々とした書きっぷりが作品世界の強度を高めていて、良い意味で色気を抑えた文章で好きだった。そこへ最後に差し込まれる「俺たち」という表現が残す不穏と余韻がまたすごくいい。バシッと決まった感じ。 「浅田と下田」阿部2 読み進めていく中に、ことごとくずれがあり、それが心地よい。私たちが思い浮かべるストーリー的なものを嘲笑うかのよう

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