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レノファの躍進を支える現代型ファンタジスタ

レノファが絶好調である。

いや、絶好調というには失点が多すぎたり劇場版大長編ドラえもんな試合が多すぎてアレなのだが、とにかく勝っているのだ。

躍進の象徴として、小野瀬康介、高木大輔、オナイウ阿道の3トップがたびたび取り上げられている。

確かにこの3人は歴代のFWでも屈指の「個」を持つ3人だ。小野瀬のドリブルによる打開、高木の前線でのダイナミズム、オナイウの謎トラップからの謎反転シュートは強烈な武器として相手チームに脅威を与え続けている。

ただ、この3人にしても、良い形でボールが入らなければその武器を存分に活かすことは難しい。

強力3トップを支えているのは、何といっても霜田監督に鍛え上げられたチーム力。そして、個人としては、今季台頭したひとりの「ファンタジスタ」が大きな貢献を果たしている。果たしていると思う。果たしてるんじゃないかな。

「レノファのファンタジスタ」といえば、真っ先に思い浮かぶのは昨季まで在籍した小塚和季だろう。

類い稀なるテクニック、正確無比なシュート、一撃必殺のラストパス…。2015シーズンのJ3優勝、そして昨季のJ2残留は小塚無くしてはありえなかった。昨季は特に、「戦術は小塚」といっても差し支えはないほど攻撃を小塚に依存していた。

その小塚は残念ながらチームを去ってしまったが、我々は新たに「小塚の後継者」と呼ぶに相応しい(勝手な断定ですまん)選手を得た。


その選手の名前を挙げる前に、ちょっとだけ昔話をしよう。

上の図は、以前せぐ(瀬川和樹)の記事を書いた際に貼った今季レノファのフォーメイション図だが、実はこれ、並びとしては「2015年レノファ」とまったく同じなのである。

上野レノファ=4-2-3-1システムと認識されがちであるが、2015年については明確に「中央は逆三角形」だったのだ。(もちろん試合の流れに応じて位置取りは様々変わってくるが)

2015年の中盤トライアングルを務めたのはDM=庄司悦大(現・ベガルタ仙台)、CM=小塚和季(現・ヴァンフォーレ甲府)、OM=福満隆貴(現・セレッソ大阪)といった錚々たる顔ぶれだ。

私が比較したいのは昨季の「古典的10番」ともいえる小塚和季ではなく、レノファのサッカー、レノファらしいサッカーとして『いつか帰るところ』と大きく印象付けられた「2015年のレノファ」における小塚和季である。

では今季の「中盤の3人」、そしてかつての小塚のポジションを務めているのは誰か。

その前に、3人の役割をざっくりと定義しておきたい。

今季のレノファも中盤の3人は基本的に逆三角形だ。(霜田監督はダブルシャドウとも言っている。)

中盤中央を逆三角形で構成する場合、底の1人を「アンカー」と呼び、前の2人を「インサイドハーフ」と呼ぶことが一般的だが、インサイドハーフだと8文字と長いし、ふたりとも「シャドウ」と呼んでしまうのも何なので(微妙に2人の役割も異なるので)ここは便宜上別の呼び方をしたい。

前2人のうち、図でいうところの(前目に位置して、前線への顔出しを重視する。たかき。)OMを「シャドウ」

やや後方の(=組み立てに関わるほうを重視する。こづ。)CMを「攻撃的ボランチ」と呼称します。1文字減った。

アンカーはアンカーでいいや。

さて、小塚が務めていた「攻撃的ボランチ」について、もちろん個人の特性、チーム事情が異なるので単純比較はできないのだが、当時の小塚に勝るとも劣らない貢献を見せ始めている選手がいる。


上の図は今季の中盤センターのスタメン表をまとめたものだ。

レノファは開幕から勝ち点を重ねつつも「内容はいまひとつ」と言われる試合が多かった。特に後方からパスをつなぐ際にボールが上手く回らずに、攻撃は3トップによるショートカウンターを中心とした速攻頼みという印象があった。(プランとしては決してそうではないのだが、なかなか遅攻が機能していなかった)

今季はレノファにおいて最も守備力の高いMFである佐藤健太郎をアンカーに配置して、攻撃的ボランチに三幸秀稔、シャドウが大﨑淳也という構成でスタート。

しかしながら、怪我の影響もあって佐藤のパフォーマンスがいまひとつ。ついにメスを入れる決断をして、長期欠場することとなる。

そこでアンカーポジションに三幸を移動させて、やすだ(高橋壱晟)やけいた(山下敬大)を攻撃的ボランチに配するが、なかなか上手くいかない。

これは高橋や山下がシャドウ寄りの人材で、どちらかというと大﨑の役割のほうが得意だという要因が大きかったと思う。中盤の人材は豊富なように見えて、実はアタッカーだらけなのだ。ゲームメイカーやフィルター的な役割が出来るひとは限られている。

そんな状況で、とうとうあの男が頭角を現してきた。


小塚和季の後継者となる男、その男こそ『池上丈二』である。

新卒の昨季は監督が変わったり、システムがコロコロ変わったりでなかなか出場機会を得られなかったが、限られた時間の中でなかなか良いプレーを見せていた。

今季は一貫したシステムで戦っていること(ピンチになると「あのシステム」が発動するが…これについてはまた後日書きます。)、このインサイドハーフ(の攻撃的ボランチ)というポジション、「とにかく矢印を前に向ける」というチームコンセプトが見事に彼の特性に合致しているのではないか。


では池上丈二の能力とは何か。大見えを切っておいてなんだが、これについては私は競技者としては超低レベルだったうえにフィールドプレイヤーではなかったので、細かい技術はあんまりわからない。なのでかなりざっくりと語らせていただきたい。

私が昨季開幕前のキャンプなどで池上丈二を観た際の感想は、「とにかくボールを動かせる選手」というものだった。

小塚や三幸のような必殺のラストパスという武器は持っていないのだが、味方からボールを引き出して、きちんとパスを出して、また顔を出して受け手になる。スペースをつくり、スペースに顔を出して、ピッチに居るだけでボールがスムーズに回り始める。

見立てが合っているのかわからないが、全盛期の山田直輝に近いのでは、という印象を受けた。

この能力はゲームメイカーの助けにもなる。今季序盤は後方の仕事を三幸がすべて引き受けねばならず負担が大きかったが、ボールの預けどころとなれる池上が入ったことで余裕が生まれ、三幸自身の攻撃力も引き出されているのではないか。

また、「ボールの受け手」としての能力についても、チームとしての「前向きの矢印」効果なのか、ボールホルダー後方へのサポートだけでなく、前方へ出て相手守備ラインの間で積極的にボールを受け、崩しの起点になるシーンも増えている。一見派手なプレイには見えない場面でも、効果的に相手の守備を破壊しているのだ。

技術、戦術的センスだけでなく運動量もあり、ドリブルで前方にボールを運ぶこともでき、何よりボールを持つことに物怖じしない。わりと攻撃の万能度が高い。

あとちょっと足りないところというと、さすがに体格的には小さいこともあってシュート力、キック力などのフィジカル面か。ただまだ2年目の選手なわけで。


このまま順調に成長してくれればそう、Jリーグ入りの噂される(最終局面で中国との2択という話だそうですが日本来いや!)あのひと。本物の魔法使いのような選手になっているかもしれない。(言い過ぎたかもしれない。)


最後にもう一度簡単にまとめると、池上丈二とは、一見派手なプレイをしていないように見えても、ちょっとした魔法を掛けてチームを勝利に導いている、そんな選手なのです。


「現代型ファンタジスタ」池上丈二に今後もご注目ください。


※画像はDAZN、アルビレックス新潟、大阪体育大学より引用しました。

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