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ピアノソロ演奏をDolby Atmosミュージック作品にするにあたって考えたプランを書き出してみた

Ryo Kimura

ピアノソロ演奏録音し、Dolby Atmosミュージック用にミックスするにあたり、やってみたプランを書き出してみる。私は、職業(レコーディング)エンジニアではないので、トンチンカンなことを書いているかもしれないけど、ツッコミどころ満載だったら、なにかアドバイスをいただけると嬉しい。

今回のnoteはアトモスミックスの作業について書きたいので、マイクの銘柄などについては特に補足なく進めるが、気になるものがあれば検索してみて欲しい。登場する図は手書きのメモなのでお見苦しいが、ご容赦いただければと。

今回録音するピアノ部屋。

8本のマイクでピアノ・ソロを録音。マイクセッティング

場所は自宅のピアノ部屋。ピアノこそグランドピアノだが部屋は決して広くはない。今回はDolby Atmosミックスすることを前提に8本のマイクで録音する。

シンプルに2本のマイクで録った方が仕上がりが良い可能性もあるが、勉強と実験を兼ねてやってみよう。

マイク設置プラン。演奏者視点でピアノを正面から見た図

マイクプランはピアノの弦に近いところにDPA 4099というコンタクトマイクを2本ステレオで。ピアノから少し離れたところに、2メートルちょっとくらいの高さにDPA 2006Aというペンシル型のマイクを2本ステレオで。

そして、部屋の天井に設置した4本のアンビエントマイク(Rode NT5)を使用する。この天井マイクの設置については、以前noteを書いたので、よかったらリンク先を。

立体的に書くとこんな感じ。A、B、C、Dが天井に設置したアンビエントマイク。

ピアノに比べて空間が狭いが、練習場所なのでしょうがない

本当は、開放的なホールなどで録音したほうが自然な響きが得られることは間違いないが、限られた環境の中で試行錯誤してみるのもまた一興。

これを真上から見た図が以下。

真上からみたマイクセッティング図

考え方としては、青色の点線で書いたピアノを斜めに横切る線が中心線で、それに対してシンメトリーにマイクを設置する。メインマイクは少し離れた場所の2006Aで、4099はアタック成分などを補足する意図で混ぜて使う。

作りたい空間のイメージ

さてここからはもう少し頭を柔らかくして考えていこう。下の図を見て欲しい。先程の真上から見た図を135度(90度+45度)回転させた状態。

一応、お客さん目線と言うことだ。ただし最前列

下の方に「人・視点」と書いているのが人物だ。グランドピアノから飛び出る最もいい音を直撃できる場所とでも言おうか。小さなサロンの最前列みたいな位置。

青色の点線が中心線で、人物はグランドピアノのぐぼみに向かってピアノを見ている。

実際の部屋は黒色の点線で描いた狭いスペースだが、赤色の線で囲んだくらいのサイズの空間をDolby Atmosの技術を使って作り出してみようというわけだ。まあ、実際にはそんなに都合よくはいかないが、雰囲気だけでもそれっぽくという話。

人物目線で、実現したいミックスはざっくりいうと下の絵のような状態だ。

ミニシアターのようなものを頭の中にイメージする

真ん中の黒いマトリョーシカの上半分みたいなのが、人物の後ろ姿と思って欲しい。

向こうにスクリーンのようなものがあって、正面の先にメインの音が大きく存在するが、この音像を2本の2006Aの音を中心に作り出す。それよりも近い位置に、音のディテールやアタック成分を補うために4099の音をさり気なく配置して音の輪郭が聞こえやすいように。

そして空間の上部からA、B、C、Dの響き成分に包まれる、というプランだ。

さてこのミックスプランをPro Toolsの3DパンとDolby Atmos Rendererを使って、空間に描いていく。

ミックス作業を公開

ここからはPro ToolsとDolby Atmos Rendererの画面を見ながら説明する。音はパーツとパーツを重ねて多重構成していくが、ひとつひとつの設定を今回はお見せする。

音のディテールがわかる4099の音を人物の近くに配置

まずは、先程の絵の「アタック成分」と書いた4099の音の配置だ。下の図がPro Toolsの3Dパンの設定画面。四角い部屋みたいなのが空間で、黄色い玉(丸)が音の配置場所。左側が L チャンネルの音。右側が R チャンネルの音。左の音も右の音も中心近くに配置している。

立体音響なので、PANは左右だけではなく上下前後にもパラメーターがある

これをDolby Atmos Rendererのオブジェクトとして表示したのが下の図。右下の箱の中が空間と思って欲しい。

Dolby Atmos Rendererを使う人がかならず目にする画面

緑色の玉(丸)が「音」だ。ちょうど人物の真ん前あたりに4099の音を配置している。 

近いところからリアルな音を。実際はさり気なく混ぜる

ピアノの弦に近い場所に設置したマイクで録音した音なので、人物の近くに配置してみたというわけ。

メインの2006Aの音を前方に大きく配置

次にメインとなる2006Aの音を前方に大きく配置する。赤丸で囲んだところが音の配置場所。先程の4099の音と違い、左の音は左端にめいいっぱい、右の音は右端めいいっぱいにそれぞれ開いて配置している。奥行きは一番前方に配置。

四角い空間のどこに音を配置するのかがパンニングということになる

これをDolby Atmos Rendererにオブジェクトとして表示したのが下の図。

人物から離れた一番前方の左端、右端に緑色の玉(音)がある。この2つの地点から2006Aで録音した音が人物に向かって鳴る。

点線で囲んだあたりに大きな音像を作る

ピアノの弦から少し離れた位置に設置したマイクで録音した音なので、人物から離して音を配置したという訳。

4本のアンビエントマイクの音を高めの位置に配置

次に天井に設置した4本のアンビエントマイクの音を空間に配置していく。
Aは前方、Bは左、Cは右、Dは後方に音を配置する。

先程の4099、2006Aと違い、空間の高さをつけてパンニングしている。

矢印のところに淡黄色の膜のようなものがあり、黄色い玉(音の位置)地面から持ち上がっているのかおわかりいただけるだろうか

これをDolby Atmos Rendererにオブジェクトとして表示したのが下の図。人物を囲んだ前後左右の高い位置にA、B、C、Dの音が配置されている。

高い場所で録音した音を、バーチャル空間上でも高い位置から鳴らす

これによって、高い位置で収録したマイクの音を、実際に空間上でも高い位置に配置し、その音に人物が包まれるような効果を狙うのだ。

天井リバーブの音もオブジェクトで配置

さて、今まではマイクで録音した実音の配置だったが、次は人工的に作り出した響き成分の配置について。

本当はコンサートホールのような響きの良い場所で録音できればそれに越したことはないが、今回は狭い部屋で録音しているので、機械で作り出した響き成分「リバーブ」を加えて、音を演出していく。

通常のステレオミックス(2ch)と違い、Dolby Atmosには天井スピーカーという、上からも音が鳴る概念があるので、今回はリバーブを「地平のリバーブ」と「天井リバーブ」と2種類を用意して、それぞれを空間に配置することにした。

説明するためにこういう絵を書いたが、実際は空間全体に継ぎ目なくリバーブの響きが広がるのが目標

以下が天井リバーブの音の配置だ。4本のアンビエントマイクの音から作り出した響き成分「天井リバーブ」を天空に配置していく。アンビエントマイクよりも更に高い位置、めいいっぱいの高さに配置している。

薄黄色の膜が空間の一番上まで上がりきっている

箱の中に箱ののようなものが出現しているが、これがオブジェクトの大きさだ。少し大き目のサイズに設定してみた。

これをDolby Atmos Rendererにオブジェクトとして表示させると、今までの緑色の玉と違い、玉の周りに半透明の傘のようなものがついている。これがオブジェクトのサイズである。オブジェクトのサイズを大きくすると、音像も大きくなる。

オブジェクトのサイズを大きくすると音像も大きくなる

さらに、バイノーラルセッティングというのだけど、ヘッドフォンで聞いた時のオブジェクトの距離感を設定でき「Far」という一番遠くで聞こえる設定にしておく。

ここらへんがDolby Atmosミックスの面倒くさいとところ

これで、天井リバーブがより高い位置から聞こえるように空間演出できることになる。Dolby Atmosミックスは本当に、いちいちやらなければいけないことがとにかく多い。

地平のリバーブはベッド(ベッツ)で音出し

「地平のリバーブは」オブジェクトを使わずに、Bed(ベッド)チャンネルで音出しした。結果的に今回ベッドチャンネルから鳴らしたのは地平のリバーブのみとなった。

地平のリバーブはオブジェクトとして鳴らしていないので、箱の中に緑色の玉は表示されない

ベッドとオブジェクトが何なのかという大事な説明を割愛することをお許しいただきたい。ベッドとは、「このスピーカーからこの音を出す」ということを予め決めておく、従来型のミックス方法。オブジェクトはスピーカーの無い位置に自由に音の置き場所を作れる新しいミックスの方法と思って欲しい。雑な説明でごめんなさい。

ベッツとオブジェクトを全部鳴らせばアトモスミッスの完成

長くなったので、次でおしまいにするが、上記のように、それぞれの音の鳴る場所を決めて、それを全部一斉に音出しした状態が、ドルビーアトモスミックスの完成形となる。

四角い箱の中の人物の周辺に緑色の玉がたくさん光っているのがおわかりいただけるだろうか。

バーチャル空間上の色んな場所にそれぞれの音を配置した様子。それらが、7.1.4chという12本のスピーカー、もしくはそれをシュミレートしたヘッドフォンで聞くことが出来る

これがオブジェクトミックスということ。音の位置や高低差、サイズなどを決めながら空間の中に音を配置していく作業がDolby Atmosミックスという作業。

何がすごいかというと、これらの音を、あらかじめ混ぜずにバラバラの状態でユーザーエンドまでお届けして、それをお客が聞く瞬間に音を混ぜるという「あと混ぜ」の概念がDolby Atmosの新しいところだ。詳しく知りたい人は検索してみて欲しい。

前半にお見せした手書きのDolby Atmosミックスプラン図を再びお見せする。

このプランをDolby Atmos 上で実際に実現したのが、下の完成系ということになる。どうだろう。構想が実現できているだろうか。

高い位置の前とか後ろとかに音を配置できるのがオブジェクトミックスならでは

実際にはEQ(イコライザー)と呼ばれる音色を調整する機能や、それぞれの音の音量バランスを調整したり、その他の加工技術を用いてミックスするが、音を混ぜないままでお客の元に届けてしまうのがDolby Atmosのすごいところ。

あなたがAirPods Proで空間オーディオを聞く時、曲があなたの耳に入る直前まで、それぞれの音がバラバラの状態であなたの元に届いているなんて、すごいと思いませんか?それがCDとは全然違うところなんです。

※オブジェクトは動かすことが醍醐味のように言われる節があるが、べつに動かさなくったっていい

実際にやってみた音源を以下記事で公開しているので良かったら読んでみてください。


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Ryo Kimura
ドルビーアトモス仕様の空間オーディオ作品を自主制作してリリースしています。ピアノ演奏の動画撮影に特化したピアノスタジオ「白金ピアノスタジオ」のオーナーでもあります。