190804_少女は花を飾るように_タイトルロゴ

少女は花を飾るように。

深緑、幾千の時降りつむ常盤の森。神域、屋久島の白谷雲水峡に行った。友人が選んでくれた、緑と橙の髪どめを正装がわりにつけて。

光の帯漂う清流。竜の通り道のような苔の大空間。踏みしめるたび感じた。神はいるのだ、と。

慈悲深い自然に包まれ《ありがとう》と声をかけながらの行軍。

(御守が欲しいな)

──小石をひとついただけないだろうか?

神に問う。

こういうのは神域から無断で持ち帰ってはダメだ。“呼びあう石”を探した。最後までわたしを呼ぶ小石はなく、太鼓岩までの険しいルートから、霧に包まれての下山。やっと現世に戻ってきた。


「あれっ?髪どめは?」いつの間にか消えていた。

──何故だか髪の長い少女が髪どめをつけ、嬉しそうな幻影が視えた。

「多分…」落としたのではなく、これは…。
わたしのブーツのソールには、小石がひとつ、きらり。

《すてきだったから》

永遠の森が手を振る。小さな神がいたずらっこみたいに笑った気がした。